篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

コンサートホールの驚きの構造…演奏中だけ携帯が圏外、外の騒音も振動も完全遮断

「Getty Images」より

「今、ショパンの名作『ピアノ協奏曲第一番』を演奏しているピアニストは、テクニックも音色も素晴らしいし、何よりも衣装が素敵だ。そうだ、友人にラインをしよう」と思い、演奏会の最中に携帯電話を開けてみたのですが、なぜか「圏外」になっています。演奏会が始まるまでは、「今から演奏会、楽しみ」「羨ましいなあ、私は残業中だよ」といったやり取りができていたのに、携帯電話の不具合かと思いながらカバンにしまいました。

 そして、素晴らしい演奏のショパンを堪能したあと、休憩になり、なんとなく携帯電話を見ると、3本のアンテナがしっかりと立っていたのです。

 まずはお断りしておきたいのですが、演奏会では携帯電話の電源をオフにするのが基本的なエチケットです。特にクラシック音楽は、ポップス音楽とは比べものにはならないくらい音量のレンジが幅広く、マーラーの『交響曲第9番』の最後の部分などは、それまでのコンサートホールを揺るがすような巨大な音が一転して、耳を澄ませないと聴こえないくらいの小さな音量でのオーケストラ演奏が5分以上続き、静かに曲が終わります。そんな、2000人の観客が固唾をのむように聴いている時に、携帯電話の呼び出し音はもちろん、ラインの着信音、そればかりかマナーモードの際に設定したバイブの雑音さえも、周りの観客の聴覚を妨害していまいますし、何よりも横でメッセージを書かれていると、気になって音楽に集中できなくなってしまいます。

 演奏会の直前に、「会場内での携帯電話使用は、ほかのお客さまのご迷惑にもなりますので、必ず電源をお切りください」というアナウンスが流れるのは、日本だけでなく世界中のコンサートホールでも共通しています。これから演奏が始まるのをワクワクと待っている時に注意される訳ですので、世界のどこに行っても評判は良くありませんが、2000人の観客のなかに、いくら気をつけていても、携帯のスイッチを消し忘れてしまう方や、消したつもりでも、消えていなかったという方がいるのは、往々にして起こることなので仕方がありません。

 さて、ショパンの演奏中に、なぜ携帯電話が圏外になっていたかといえば、日本の主要コンサートホールでは、「通信抑止装置」が設置されているからなのです。

 携帯電話は、まずは自分の位置情報を伝える電波を発信し、最寄りの基地局がそれに応答することで、携帯電話と基地局をつなげる仕組みとなっています。そこで、通信抑止装置は、携帯電話の周波数と同じ電波を強く発信し、携帯電話に基地局からの応答だと勘違いさせるわけです。しかしながら、防止装置からの電波は、基地局からの電波に含まれているような制御電波が含まれていないので、携帯電話としては、「あれ、この電波はなんか変だぞ。よくわからないから、とりあえず圏外にしておこう」という感じで、圏外にしてしまうそうです。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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