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南清貴「すぐにできる、正しい食、間違った食」

糖質制限ダイエットが体と脳を壊す…炭水化物を“正しく”食べることが重要

文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事
糖質制限ダイエットが体と脳を壊す…炭水化物を“正しく”食べることが重要の画像1
「Getty Images」より

 今回は、糖質制限ダイエット(=低炭水化物ダイエット)について書きます。これについて筆者は批判的です。全面否定はしませんが、健康な人がやることではないという立場です。現在これを信じ熱心に取り組んでいる方は、お読みになる必要はないということを、まず申し上げておきます。

 あくまでも個人的な意見で、何か物品を販売しようとしたり、筆者が主催する講座やセミナーに誘導したりする気はまったくないということも、併せて申し上げておきます。

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 人が何を食べようと自由なのだから勝手にさせてくれ、というのは、ずっと筆者自身が言ってきたことで、他人が食べるものにグダグダ言う気はさらさらなく、何が正しいとか正しくないとかもここでは言う気はありません。

 私たちが日常的に食べるものは一長一短、良いところもあれば、そうでないところもあります。米にも、大豆にも、肉や魚にも、野菜にも、良いところもあるし、悪い面もあります。ひとつの食品だけを取り上げて、これは良いとか悪いとか断じることが、そもそもナンセンスだと筆者は考えています。食事は、トータルなものです。全体を見なければいけません。

 筆者が今回、糖質制限ダイエットについて書こうと思ったきっかけは、いくつかの事例があったからですが、直接には、よく行く飲み屋さんが開いた「日本酒の会」で隣り合わせた中年男性が、会話の途中で「ここのところ、急にヘモグロビンA1cが下がったんだよ」と、うれしそうに言ったことです。

 まず筆者が思ったのは、こういう中年男性でもヘモグロビンA1cなんて言葉を日常で使うんだ、ということでした。次いで、急にヘモグロビンA1cが下がるというのは、けっこう危険なことなのだが、それを今、言ってあげたほうがいいのだろうか、という思いがよぎりました。

 結局、筆者は「あぁそうですか」「よかったですねぇ」と、ありきたりな言い方をしてお茶を濁したのですが、なぜかといえば、この男性がもし糖質制限ダイエットに取り組んだ結果、ヘモグロビンA1cが下がったのだったら、面倒なことになるなと思ったからです。面倒なこととは、論争のようなことになりかねないということです。

 筆者の基本的な姿勢は「いかなる場合でも食い物のことで争うべきではない」というもので、これは常に考えていることです。

糖質制限ダイエットの危険性

 そんなわけで、言い争いを避けるために、その男性には言いませんでしたが、実は短期間にヘモグロビンA1cを急激に下げてしまうと、網膜症を悪化させる危険性があります。そして、もしこの男性が糖尿病による網膜症で、誰かに勧められて糖質制限ダイエットに取り組み、その結果ヘモグロビンA1cが急激に下がったというのであれば、話は難しい方向にいきかねません。

 しかし、そのような人は意外と多いのではないか、という気持ちも同時に筆者の中にはありました。糖質制限ダイエットはもともと、重篤な2型糖尿病患者の方々に対して行われた、極端な炭水化物制限食が源流です。日本では大正時代から昭和の初期にかけて行われていた療法です。

 考え方としては、炭水化物から摂取される糖分(ブドウ糖)が血糖値を上げ、膵臓のランゲルハンス島に多大な負担をかけ、それが糖尿病を悪化させることになる、というものですが、実際に糖尿病患者の方にこの食事制限をさせても、継続できないということがわかり、徐々に廃れていきました。その後もいろいろと形を変えて、糖尿病の方が取り組んでいますが、やはり継続することが難しいようです。それはそもそもこの食事法が自然からかけ離れていて、無理があるからです。少なくとも健康な人が実践し続けるものではないでしょう。

 健康という言葉には深い意味があります。健やかであるためには、人が建っていなければならない。つまり、直立していてこそ健やかなのだということが第一。そして、そのためには康が必要だ、ということを表した言葉なのです。康というのは、穀物の硬い殻のことです。米でいえば玄米の外側の部分。小麦ならば精白する時に捨ててしまう胚芽を含んだ殻の部分です。その康がなければ、健康は成立しない、ということです。

 糖質制限ダイエットは、炭水化物を悪者扱いし、極力避けるというのが基本ですが、筆者はここに批判的なのです。炭水化物が悪いのではありません。炭水化物を精製したもの、つまり康がないものを大量に食べることがいけないのです。

 話を元に戻しますが、筆者が今回、糖質制限ダイエットについて述べておこうと思ったのは、2人の女性から、ほぼ同時期に同様の話を聞いたことによります。2人とも、痩せたいという願望を持ち、トレーニングジムに行くことを勧められ、そこで半ば強制的に糖質制限ダイエットを勧められて取り組んだところ、体調を崩し、苦しんだということでした。

 同様の話は以前、いろいろな方から何度も聞いたことがあり、そのたびに適切な食事のあり方を説明してきたのですが、筆者は、どうせこのような偏頗なダイエット法は、すぐに間違いが指摘され、廃れていくだろうと高をくくっていました。ところが、廃れるどころか、いまだにこれに取り組む人が後を絶ちません。

糖質制限ダイエットにはリバウンドのリスク

 冒頭で述べたように、人が何を食べようと、どんな食事法を取り入れようと、勝手ではありますが、それによって体調を崩し、苦しむというのは、できれば回避したいと思います。

 多くの人がおかしている間違いの第一は、炭水化物を摂ると血糖値が上がり、インスリンの分泌が激しくなる、と考えていることです。実際、糖質制限ダイエットを勧める方は、そのような説明をしています。しかし、事実は違います。複合炭水化物、つまり精製されていない炭水化物を適量摂った場合は、インスリン自体の働きが良くなり、したがってインスリンの量は少なくて済むようになるのです。

 逆に、炭水化物の量が極端に少ない食事をし続けていると、体はエネルギー源をブドウ糖から脂肪に切り替えなければならなくなります。こうなると肝臓や、筋肉でのインスリンの働きは鈍るのです。したがって、正常な状態を維持するために必要なインスリンの量が足りなくなる、というのが真実です。

 また、一旦ブドウ糖をエネルギー源として使えなくなった体に再びブドウ糖が入ってくると、すべてが中性脂肪となり、皮下や内臓の周りに貯えられることになります。それがリバウンドです。話を聞かせてくれた2人の女性は、このリバウンドに苦しみました。

 極端に炭水化物を制限すると、体力を維持するために必要な最低限のエネルギーを得られなくなる場合があり、その時、体は筋肉を分解してエネルギーを得ようとすることがあります。もちろんそれによって体重は減るのですが、到底、健康的なウエイトロスではありません。体は生命の危機を感じ取り、炭水化物に対しての強い欲求が生まれますが、それをも拒絶すると、健康のレベルは大きく下がります。

 私たち人間にとって、もっとも重要な体の器官は脳でしょう。もちろん、言うまでもありませんが、体の中に無駄なものなどひとつもありません。だから、あえて優先順位をつけるなら、ということですが、脳の活動が停止してしまったら、生命は危機的な状況に陥る、ということを否定する人はいません。その脳の活動の源はブドウ糖です。血糖値が70mg/dl以下に下がり、いわゆる低血糖状態になると、脳の活動に支障をきたすことがわかっています。だから体は、そうならないように、さまざまな犠牲を払ってでも血糖値を維持しようとするのです。それは、生命の根源的な働きといってもいいかもしれません。

 血糖値をなるべく一定に、長時間維持するためには、穀物を摂取することがもっとも合理的な方法です。それを人類は経験的に学んできたのです。どの民族も、食事になんらかのかたちで穀物を取り入れていますが、その背景には血糖値を維持するシステムを守りたい、という欲求があるからなのです。

 しかし、穀物を精製してしまうと、その性質はガラッと変わってしまいます。私たち人類に適した食べ方は、あくまでも未精製の穀物(複合炭水化物)を食事の中に取り入れることなのです。

 健康なんてどうでもいいから、とにかく痩せたいという考えであるならば、糖質制限ダイエットは、とても向いていると思います。しかし、もしそれに取り組むならば、絶対に医師の指導の下で取り組むべきです。通っているジムの方に強く勧められたからといって、安易に取り組むべきではありません。

 それよりも、単純に炭水化物の摂取を制限するよりも、炭水化物を未精製のものに、つまり複合炭水化物に変えるほうが、圧倒的に合理的で安全です。ついでに、穀物の半分程度の量の豆類をプラスすれば、より最適(オプティマル)な食事に近づけることができます。

 筆者のこの意見に耳を傾けて、やってみようかと迷っていた糖質制限ダイエットを思いとどまり、健康を害することなく最適な食生活を送られる方がひとりでも多くなることを願ってやみません。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)

南清貴

南清貴

フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会
代表理事。舞台演出の勉強の一環として整体を学んだことをきっかけに、体と食の関係の重要さに気づき、栄養学を徹底的に学ぶ。1995年、渋谷区代々木上原にオーガニックレストランの草分け「キヨズキッチン」を開業。2005年より「ナチュラルエイジング」というキーワードを打ち立て、全国のレストラン、カフェ、デリカテッセンなどの業態開発、企業内社員食堂や、クリニック、ホテル、スパなどのフードメニュー開発、講演活動などに力を注ぐ。最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した新しいタイプの創作料理を考案・提供し、業界やマスコミからも注目を浴びる。親しみある人柄に、著名人やモデル、医師、経営者などのファンも多い。

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