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東京・足立市場は穴場スポットだった…安くて極上の「市場めし」、築地の魚河岸的ノスタルジー

文=明石昇二郎/ルポライター
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足立市場の「仲卸売場」。広さは小さいものの、かつての築地魚河岸と瓜二つの風情。

君は「千住の魚河岸」を知っているか?

 東京の「魚河岸(うおがし)」と言えば、かつては築地、今は豊洲が思い浮かぶが、実を言うと都内にはもう一つ魚河岸がある。

 東京都中央卸売市場の「足立市場(あだちしじょう)」。都内で唯一の水産物専門卸売市場で、別名「千住(せんじゅ)の魚河岸」とも呼ばれる。扱っているのは「大物(おおもの)」と呼ばれるマグロやカジキ、アジやサバなどの「鮮魚」、寿司ネタの「特種物(とくしゅもの)」、そして干物等の「塩干物(えんかんぶつ)」など水産物全般だ。

 隅田川と国道4号線(日光街道)に面した足立市場の広さは、豊洲市場の10分の1程度の4万2000平方メートル。都内城北地区や千葉北部、埼玉南部などへ水産物を供給している。

 足立市場の前身は、江戸幕府の御用市場。都の中央卸売市場となったのは戦時中の昭和20年(1945年)2月のことで、戦禍も潜り抜けてきた老舗の市場だ。市場専用の三輪自動車「ターレー」が魚を載せて走り回っているのは、築地時代の魚河岸や今の豊洲とまったく一緒。築地の魚河岸を知っている人なら、年季の入った仲卸売場内を歩いているうちに、まるでタイムスリップしたかのような感覚に陥ることだろう。

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足立市場の入口。入ってすぐのところに寿司屋や食堂が並ぶ「魚河岸食堂」がある。足立市場は国道4号線(日光街道)に面しており、大変便利。最寄り駅は京成本線「千住大橋」駅で、同駅からは徒歩5分。

「日本の魚河岸を代表する魚」はやっぱりマグロ

 そこで、早朝の足立市場にお邪魔した。

 午前5時30分。競りの開始を告げるブザーがマグロの卸売場に鳴り響く。雛壇に立ち並ぶ仲卸業者に向かい、競り人が叫ぶ。

「一番、一番、一番――」

 この日の「一番」が割り振られたマグロは、ニュージーランド産の天然生インドマグロ。71kgと中型サイズだが、脂の乗りは抜群である。仲卸業者たちはブロックサインのような「手やり」で買い値を示し、価格が吊り上がっていく。卸売の単価はkg当たり。結局1kg2900円、つまりおよそ20万円で「一番」マグロは競り落とされた。

「今日は生のマグロが多くていいね」

 競りを仕切る東京北魚の大久保昌史常務が、そう言って顔を綻ばす。100本近く並んだ生マグロと冷凍マグロは、ほんの10分ほどですべて落札された。「一番」マグロを競り落とした仲卸「三豊(さんとよ)商店」にお邪魔すると、ちょうど生インドマグロの解体に取り掛かっているところだった。いわゆる「三枚おろし」にするのではなく、胴体部分で切断する「胴切り」だ。「こうしたほうが、脂の乗りがすぐわかるんだ」と言うのは、同店の小川行勇(やすお)社長。切り口を見せてもらうと、きめ細かな身に美しい脂が乗っているのが一目でわかる。見ているうちに涎が出てきた。

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足立市場入口の近くには、昭和初期の「千住市場」の問屋配置図も。
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午前5時。マグロの競りが始まる直前まで、仲卸業者が下見を続ける。尾を切り落とした部分に懐中電灯を当て、脂の乗りを見極める。

 三豊商店をおいとまし、仲卸売場内にあるマグロ専門店の店頭に並ぶマグロのサクやブツを覗き込んでいると、その隣のマグロ仲卸の店員が、「ちょっとウチのも見て」と誘いに来て、筋のない上品な脂ののった部位のサクを、目の前でブロックから3本切り出し、「これで2000円でどう?」と勧めてくる。その活気には圧倒されるばかり。仲卸売場でなければ絶対に体験できない醍醐味だ。 

 足立市場の仲卸売場内にはおよそ50店舗があり、水産物なら珍しいものでもここ1カ所でほとんど手に入る。小規模ながらも、決して豊洲にも引けを取らない品揃えの良さが魅力だ。

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この日の本マグロには、佐渡産の国産モノも。小ぶりでも美味そう。

足立ならではの「市場めし」の数々

 足立市場の魅力はこれだけではない。市場内には、仲卸店舗から仕入れたばかりの新鮮な魚介をふんだんに使ったメニューを提供する飲食店が5軒(寿司屋、海鮮丼屋、定食屋2軒、蕎麦屋)ある。しかも、豊洲市場内の有名飲食店のような長い行列に並ぶ必要もない。安くて美味くてボリューム満点なのに、知る人ぞ知る“穴場”的存在だからだ。

 本マグロの「血合い下」や「背トロ」を使った中トロ握りが絶品の「武寿司(たけずし)」では、すべて千住の魚河岸で仕入れたネタで握る。大きな声では言えないが、お決まり(1人前)なら豊洲場内の寿司屋よりも1000円以上安い。旬のネタ13種がテンコ盛りになった「特盛ごうか海鮮丼」(税込み1600円。あら汁付き)が看板メニューの「市場めし とくだ屋」は、足立市場の鮮魚仲卸「青木」が経営する店。店主の阿部匡寿(まさとし)さんが胸を張る。

「朝に入荷した新鮮な魚介の中から、その日の『13種』を決めるんです」

 自家製だし醤油をかけてから箸で掻き込むと、口の中に潮の香りと魚介の旨味が絶妙なハーモニーで広がる。全国各地の好漁場で獲れた魚介をこの価格で提供できるのは、仲卸直営店だからこそできる芸当。

 足立市場でしか食べられない「ねぎま蕎麦」(税込み600円。蕎麦屋「たけうち」)は、足立名物の「ねぎま鍋」から生まれたメカジキ入りの蕎麦。繊細で上品なその味は、立て続けに2杯食べたくなるくらいの旨さだ。

 ご飯の大盛り無料の日替わり定食(さばのみそ煮定食など。税込み500円。定食屋「かどのめし屋」)や、脂が乗って新鮮な大ぶりの国産アジを揚げた「アジフライ定食」(税込み900円。定食屋「しいはし食堂」)は、ボリューム満点の「市場めし」の代名詞的メニュー。足立市場に行くからには一度はチャレンジしたいものだ。

 今も「築地」の風情が残る魚河岸で、新鮮な魚介をふんだんに使った朝ごはんを楽しむ――。こんな贅沢、今では足立市場でしか味わえない。

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午前5時30分。競りの開始を告げるブザーが鳴り、マグロの競りが始まった。始めに生マグロ、続いて冷凍マグロが競りにかけられていく。

一般向けに市場を開放する「足立市場の日」

 ところで足立市場には、隔月で第二土曜日に、一般客でも仕入れ――つまり買い物ができる「あだち市場の日」がある。次回は11月9日(土)に「秋の感謝祭」と銘打って開催される。開催時間は午前9時から午後1時までだ(鮮魚の販売は午後12時まで)。仲卸売場で新鮮な魚介を買うもよし、野菜や漬物、乾物などを扱う物販売場で鰹節や玉子焼きを買うもよし。市場専用の三輪自動車「ターレー」と一緒に記念撮影することもできる。

 市場の床はどこも水で濡れているので、長靴やスニーカーで出かけるのがお勧めだ。
(文=明石昇二郎/ルポライター)

足立市場住所
 東京都足立区千住橋戸町50番地

最寄り駅
 京成本線「千住大橋」駅から徒歩5分

駐車場
 近隣の駐車場を利用

足立市場ホームページ

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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