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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

我が子の将来の成功のために、親がやっている「間違った教育法」…IQではなくEQが重要

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
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「Getty Images」より

 小学生の頃は成績が良かったのに、大きくなるにしたがって成績が低下し、いつの間にか劣等生になっている子がいる一方で、小学校の頃はあまり目立たなかったのに、大きくなるにしたがってぐんぐん成績が伸びる子もいる。その違いはどこにあるのだろうか。

「できる子」になってほしい

 親は誰でもわが子の幸せを願うものだ。だが、幸せな人生を送ってほしいと思っても、わが子が将来どんな職業に就き、どんな生活をすることになるのか、まったく見当がつかない。

 そこで、どんな職業に就くにしても役に立つような能力をつけさせたいと思い、取りあえずは勉強ができる子になってほしいと願うわけだ。それによって将来の選択肢が増え、また本人が望む人生を手に入れる可能性が高まると思うからだ。そして、たとえ経済的に苦しくても、わが子を学習塾に通わせたり、通信教材を買い与えたりする。そうすれば勉強ができる子になり、伸びる子になると信じている。

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『伸びる子どもは○○がすごい』(榎本博明/日本経済新聞出版社)

 だが、冒頭でも記したように、小さい子どもの頃は勉強ができても、中学、高校と学年が上がるにつれて成績が低下していってしまうケースも珍しくない。

 そこには遺伝的要因が関係していることも無視できない。IQには遺伝的要因が強く絡んでいるため、その素質がしだいに表面化してくるといった側面もあるだろう。しかし、素質を十分活かしている人など、現実にはほとんどいない。逆にいえば、たとえ素質的にあまり優れていなくても、潜在能力を開発していくことで、素質的に自分より優れた人物よりも好成績を収めることも十分可能なのである。

 ゆえに、だんだん成績が低下していくような場合、子どもの頃の勉強の仕方に問題がある可能性が高い。勉強の仕方というより、発達の仕方といったほうが正確だろう。本来発達させるべき能力が十分に発達していなかったのだ。

 では、ほんとうの意味で勉強ができる子にするには、どんな能力を発達させる必要があるのか。また、親としてどんなことに気をつけたらよいのだろうか。

いくらIQが高くても社会に出て成功できない理由

 EQという言葉を聞いたことがある人が多いのではないだろうか。これは、心理学者ゴールマンが唱えたものである。

 かつては社会に出て活躍するにはIQが高いことが重要になると考えられており、どうしたらIQを高められるかに関心が集まっていた。だが、社会で活躍している人物はIQが高いかといえば、必ずしもそうではない。

 ゴールマンは、IQが高い人物が必ずしも社会に出てから活躍しているわけではないという現実に疑問を抱き、社会で活躍するためにはどんな能力が必要なのかを明らかにするための研究を行った。その結果、IQとは異なる能力があり、それが社会的成功の鍵を握ることを発見したのである。その能力というのがEQなのである。

 EQは、もともとはEI(emotional inteligence)、つまり情動的知性のことであるが、IQと対比させるために、一般にはEQという呼び方のほうが広まっており、心の知能指数とも呼ばれる。

 EQが高い人物は、学校で勉強ができるだけでなく、社会に出てからも伸びる可能性が高いということで、今は企業等の採用試験でも考慮されることがあり、就活生向けの対策本まで出回っている。

EQとは、どんな能力を指すのか?

 では、EQとはどのような能力を指すのだろうか。

 EQは、対自的能力と対他的能力に分けてとらえることができる。わかりやすくいえば、前者は自分の心の状態を理解し、それをコントロールする能力である。そして後者は他人の心の状態を理解し、それに対応する能力である。

 対自的能力と対他的能力に含まれる要素について、もっと具体的にみていこう。

 対自的能力は、主に次のような能力を指す。

(1)自分の感情や欲求に気づく能力
(2)自分の感情や欲求をコントロールする能力
(3)自分を鼓舞し、やる気にさせる能力
(4)粘り強くものごとに取り組む能力
(5)ものごとを楽観的に受け止め、前向きになる能力

  対他的能力は、主につぎのような能力を指す。

(1)人の気持ちに共感する能力
(2)人の立場や意向を想像する能力
(3)人の言いたいことを理解する能力
(4)人に自分の気持ちを伝える能力
(5)人と気持ちを通い合わせる能力

 子育てにおいては、忍耐力や粘り強さを身につけさせることが大切とされたり、感情を適度に抑制したりやる気をもって事に当たる習慣を身につけさせることが大切とされたりしてきたが、まさにそれは対自的能力に相当する。

 また、思いやりのある子に育てることが大切とされたり、コミュニケーション能力を高めることが大切とされたりしてきたが、まさにそれは対他的能力に相当する。

 こうしてみると、EQというのはそんなに目新しい能力を指すものではなく、日本の子育てにおいては伝統的に重視されてきた能力ということができる。それが、いつの間にか軽視されるようになっているのではないだろうか。

EQが社会的成功を導く

 IQを高めるべく知的刺激を与えたり、知識を詰め込ませたりする親が多い時代だが、将来にわたって勉強ができる子にするためには、目先の成果に惑わされずに、EQを高めることが大切なのである。

 勉強でも仕事でも、やらなければならない課題を前にして、やる気を燃やして取り組めるか、やらなければいけないことはわかっていてもどうしてもやる気になれないか、そこにEQがかかわってくる。

 すでに小学生の時点の学力にもEQ、とくに自分の感情をうまくコントロールできるかどうかが関係していることが示されているが、そうした自己コントロール能力は、生涯にわたって勉強でも仕事でも目の前の課題への取り組み姿勢に関係してくるはずだ。

「中1の壁」などといわれるように、慣れ親しんだ近所の友だちと離ればなれになるなど、環境の大きな変化を経験しがちな中学1年生にとっては、環境の変化に動揺する自分の心の状態を安定させることが求められるが、ここでも自分の感情をうまくコントロールできるかどうかが学力に関係することが確認されている。

 このような能力は、進学や就職、その後の人事異動や転職など、あらゆる変化の場面において問われることになる。

 EQが高いほど、就職活動もうまくいきやすいといった傾向もみられる。その理由として、自分の感情を適切にコントロールでき、また相手の気持ちや立場に対する共感性が高く、そして自分の思いをうまく伝えることができることが、面接官の高評価につながるということがあるだろう。さらには、就活では、なかなか思うような結果が出ず、落ち込むことも多いはずだが、そんなときもけっして諦めずにモチベーションを維持しつつ粘り抜くことが必要である。そこにもEQが強く絡んでくる。

 就職後も、仕事上の業績評価や給料の高さにEQの高さが関係していることが報告されている。こうしてみると、伸びる子ども、社会に出てからも伸び続ける人物に育てるために何が大事かがわかるだろう。知識を注入することよりも、子どもがまだ柔軟性に富む心をもっているうちにEQを育てることが大切なのである。

 EQさえ高めることができれば、勉強の遅れなどいくらでも取り戻すことができるし、逆にいくら知識を仕込んでもEQが低ければいつか伸び悩んでしまう。
(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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