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江川紹子の「事件ウオッチ」第139回

江川紹子コラム【政府への異論を議事録から削除】問題…なぜ議事録の作成と開示は必要なのか

文=江川紹子/ジャーナリスト

議事録は未作成、発言者は匿名化……


 議事録が非公表どころか、作成されないこともあるようだ。

 NHKの報道によれば、文科省は昨年12月から、英語民間試験に関する非公開の有識者会議を複数回開いていたという。その席で、専門家から受験料が高額で家計の状況で受験生に機会の差がつく「経済格差」が指摘され、「地域格差」が出ないような配慮が必要だなどという意見が繰り返し出されていたという。

 11月6日付「NHK政治マガジン」は、次のように書いている。

<文部科学省は「詳しい内容は非公開で、議事録も作成していないので、詳細なコメントはできない」としています>

 これが事実なら、専門家からどのような指摘があり、文科省はそれをどう受け止め、いかに対応したのかを、あとからきちんと検証をすることもできない。

 議事録を公表しても、発言者の名前を伏せる有識者会議もある。

「インターネット上の海賊版対策」や「新たなクールジャパン戦略」をつくるために政府の知的財産戦略本部が設置した「検証・評価・企画委員会」は、以前は完全公開だったが、7月にメンバーが刷新され、ルールを変更。10月23日付朝日新聞デジタルによれば、傍聴者の録音を禁じ、会議について発信する時には発言者の匿名化を求めることになった。議事録を見ても、発言者の所属や氏名は記載されていない。

 私自身も、法務省などが設置した有識者会議の委員を務めたことが何度かある。いずれも基本的に別室に音声を流すなどして、リアルタイムで議事を公開したほか、発言者を特定して詳細な議事録を作成し、公表した。この議事録は、会議の録音を文字起こししたものが各委員のところに送付され、各人で手を入れたものだ。手を入れるといっても、私は、言いよどんだところをカットしたり、いくつか句点「。」を増やし、1文を短くして読みやすくすることはしたが、発言の内容はもちろん、表現も変えたりしないように努めた。ほかの委員も同様だったように記憶している。

 現在は以前に比べて、ネットなどで人の発言や芸術作品の一部を切り取って攻撃する人が少なくなく、こうした有識者会議での委員の発言も、議事録が公表されれば“炎上”するリスクがある。ただ、一部を切り取っての不当な非難は、正確で詳細な議事録を迅速に公表することで、むしろ防げるのではないか。何がなんでも文脈を理解しようとせずに攻撃する人を防ぐことはできなくても、多くの人は(賛同するかどうかはともかく)発言の趣旨を理解するだろう。

 たとえ炎上リスクがあったとしても、国政に関する課題を検討する会議にあっては、責任を持って自らの意見を述べることが必要だと思う。自分の発言が公表されるなら自由に意見が述べられないというような人を、有識者としてメンバーにしてはいけないのではないか。

 重要な政策決定に有識者会議を活用することの多い現政府だからこそ、そのプロセスはできる限り開かれたものにしてもらいたい。都合の悪い情報も明らかにする姿勢を示すほうが、政策に対する国民の信頼が得られることを学んでほしい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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