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中村芳子「お金のことで苦労せず、人生を楽しむためのお金の基本」

老後資産を食いつぶす…安易なワンルームマンション投資は絶対やってはいけない理由

文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

・リスク1. 毎月持ち出しになる

 たとえば、家賃が月7万円、2000万円の中古マンション。登記費用や各種手数料の数十万円は現金で払うが、頭金はゼロ。不動産ローン2000万円というプラン。金利2%、30年なら毎月の返済額は7万4000円となる。管理費を差し引いた手取りの家賃収入を6万5000円とすると、毎月9000円の赤字だ。月9000円の出費(持ち出し)でワンルームマンションを手に入れられるなら安いもの、だろうか? このほかに毎年10万円前後の(物件により違う)固定資産税がかかるのも忘れてはいけない。

・リスク2. 年数が経ち建物が古くなると家賃は安くなる

 今は家賃7万円でも物件が古くなると、入居者が入れ替わるタイミングで家賃が少しずつ下がるのが普通。投資物件を手がける会社の多くは、管理も請け負って「家賃保証」をつけている。入居者があってもなくても「月7万円」を保証してくれる。

 でも気をつけて!家賃保証の期間はローン期間と同じ(30年)でも、たいてい保証家賃の金額は2年ごとに見直されることになっている。2年ごとに数千円ずつ家賃収入が減るリスクがあるということ。月9000円の持ち出しが、将来1万2000円、2万円と膨らんでいくリスクがある。しかも保証しているのは不動産会社。その会社が倒産したり営業をやめれば、保証はなくなる。このリスクも忘れないこと。

・リスク3. 中途売却で大損するかも

 多くの会社員は「今の仕事、収入が定年まで続くだろう」とのんきに考えている。でも人生何があるかわからない。外国の人と恋に落ちて日本を出ることになるかもしれない。会社が統合されたり倒産したりで、職を失うかもしれない。家族や自分の病気や事故で、転職や退職を余儀なくされるかもしれない。さまざまな理由で、物件を3年後、5年後、10 年後に売らなければならなかったり、売りたくなるかもしれない。

 その時に値下がりしていたらどうなるか。いや、そもそも割高に買っている(売りつけられている)可能性は高い。2000万円で買ったマンションを5年後に売ろうとしたら、1500万円でしか売れない可能性は十分ある。「値下がりしにくい物件」と勧められても、世界も日本も何が起こるかわからない。不動産市場が急に冷えることだってある。 

 損は500万円にとどまらない。購入時の各種手数料は計100万円を超える。合わせて600万円を超える損になる。売るときのお金のやりくりも大変。5年後のローン残高は1744万円。売るときの各種手数料の合計が70万円だったら314万円の持ち出し。貯金から出すか、別にローンを手当てしなくちゃいけない。

・リスク4. 退職後も終わらない30年ローン 

「老後の不労所得」をうたいながら、45歳の会社員に30年ローンをすすめている。65際の退職後もローン返済が10年続く。これでは老後の足しにならない。最長のローンを勧めるのは、不動産会社と銀行の利益が一致するから。銀行はより高額のローンを借りてもらえる。不動産会社はより高い物件を買ってもらえる。自宅を買うときも同じだから覚えておいたほうがいい。銀行が貸してくれる金額は、自分が返せる金額とイコールじゃない。

・リスク5. 複数戸投資でリスクがさらに大きく

 退職年齢の65歳を過ぎてもローンを返し続けるプランの場合、物件を2つ以上勧められることがある。1つを売った代金でローンの残債を返済すればいい、という作戦。恐ろしい。

 たとえば、先の2000万円の物件を2つ30年ローンで買うと、20年後のローン残高は800万円ずつ。1戸を1600万円で売れば、手元に残ったお金(売却価格1600万円−ローン残800万円 = 残るお金800万円)でもう1戸の残債を払えます、という計算だ。これは20年後に価格がほとんど下がらない前提であり、リスクはとても大きい。一方を売っても、片方の残債を払えないリスクはとても高い。この手法は絶対に勧めない。

・リスク6. 見ないで買う

 不動産投資セミナーがきっかけでワンルームマンションを買った人たちのなかには、物件を見ていない人も少なくない。不動産は金融商品じゃない。物件を見ないで買うことは、ありえない。何より、物件は土地勘がある場所で選ぶべきだ。駅からの距離、どんな人が住んでいるか、管理の状況、まわりの環境(安全性、買い物、公園、病院ほか)、自分だったら住みたいか、自分の子どもを住まわせたいかという視点からも見てみる。土地勘があれば、不動産が値下がりしたときや入居者が入らなかったとき、どうするかの判断を自分ですることができる。これはとても大切だ。

 近隣で同じような物件がいくらで取引されているかも必ず確認しよう。良心的な業者ならそのデータを見せてくれる。物件に案内しないで売買契約を結ぼうとする業者は、絶対信用してはいけない。

「金持ち父さん」のやり方は全然違った

 アメリカや日本で不動産投資ブームを巻き起こした、ロバート・キヨサキ著の『金持ち父さん 貧乏父さん』を久しぶりに開いてみた。キヨサキ氏が実践していた不動産投資の基本は、こうだ。

(1)まわりの人たちが見逃している価値ある物件を見つける

(2)それを、市場価格(実際の価値)より安く買う

(3)リフォームなど自分で手をかけて価値を上げる

(4)賃貸に出す

(5)頭金を入れて買い、賃料収入からローンを払っても月々プラス(小遣い)にする

(6)不動産の価値が上がったら、売って値上がり益もとる

 この本を読んで不動産投資に手を出した人を、日本やアメリカで何人か知っている。成功した人もいれば、失敗した人もいる。不動産投資には、向き不向きがある。物件の魅力を見つけられる人、市場の動きを読める人、人と違う情報源がある人なら儲けられる。そうでなければ、利益を出すのは難しい。

 頭金が少ないほど投資のリスクは高くなる。100%ローンの不動産投資は会社員、初心者には絶対に勧めない。プロだって100%借り入れの投資には簡単に手を出さない。リスクの怖さを知っているからだ。

 保険でも株式投資でも「勧められるまま」に買って成功した人はいない。不動産も同じ。自分で勉強する。その一歩は、できるだけたくさんの物件を自分の目で見ること。投資セミナーは販売促進セミナーなので、そこでの情報を真に受けてはいけない。すぐに個人情報を渡さないことをお勧めする。

 次回は、それでも老後のために不動産投資をしたい人のために、基本の基本をお話ししよう。

(文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー)

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中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

1985年よりFP業に携わる日本のFPの草分け。 女性FP協会(現WAFP関東)の設立者の一人、初代理事長。 1991年に会社を設立。パーソナル・コンサルティング、金融記事の執筆、金融企画のアドバイスなどを行っている。マネックス証券創業時より7年間アドバイザーをつとめる。みずほ銀行の夫婦向けマネーサイト「おうちのおかね」(2010―2016)を監修。辛口だが、お金だけにとらわれないユニークで温かいアドバイスが人気。


主な著書に『50代のいま、やっておくべきお金のこと』『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(以上ダイヤモンド社) 『女性が28歳までに知っておきたいお金の貯め方』(三笠書房) などがある。『3日でわかる聖書』『養子でわくわく家族』『神の津波』など、お金以外の著書や翻訳もある。

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