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白井美由里「消費者行動のインサイト」

お金の使い過ぎが、さらなる使い過ぎを生む「どうでもよくなってしまう効果」

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 その結果、購入意向は、自由裁量所得の残額がマイナスになっているときに最も高く、残額が500ドルのときに最も低くなりました。すでに自由裁量所得を使い過ぎて(残額がマイナス)目標達成に失敗している状況では、魅力的な商品の購入意欲を抑えられなくなる「どうでもよくなる効果」が発生し、さらに使い過ぎてしまうことが示唆されています。

クレジットカードに未払い額を発生させないという目標達成に失敗するとき

 次に、クレジットカードの未払い残高の影響を分析したウィルコックスらの研究を紹介します【註2】。彼らは、自己統制力の高い人のほうが低い人よりも「どうでもよくなる効果」が発生しやすいと予想しました。

 次のような実験を行っています。まず、被験者には銀行口座に1,000ドルの預金があること、および自分のクレジットカードについて、利用額上限が1,000ドルで未払い残高ゼロの状況、もしくは利用額上限が1,500ドルで未払い残高500ドルの状況を想定してもらいました。続いて、新しいiPhoneの購入を想定してもらい、499ドル(32GB)と399ドル(16GB)のどちらかのモデルを選択してもらいました。結果は、自己統制力が高い人の場合、未払い残高があるときのほうがないときと比べて、高額のモデルの選択が多くなりました。

 この現象のメカニズムは次の通りです。自己統制力の高い人は、クレジットカードに負債を作らないという目標を立て、自分の支出に気を配ります。しかし、なんらかの事情により未払い残高を発生させてしまった場合、それはその目標達成に失敗したことになり、心理的に強い不快感を抱きます。この状況で、別に買い物の必要性が生じた場合、失敗の不快感からその目標の継続を放棄してしまい、「どうでもよくなる効果」が働いて、より高額のモノを買おうとしてしまうのです。

 通常ならば、すでに負債があるわけですから、それ以上の支出は抑えようとするところですが、自己統制力の高い人は、目標と一致しない望ましくない行動を避けることを意識するほど、目標のロスをより強く感じるため、失敗した目標を放棄しやすい傾向にあるのです。

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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