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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

GSOMIAで混乱の韓国、米国が同盟国から除外の動き…在韓米軍経費で交渉決裂、中国に急接近

文=渡邉哲也/経済評論家
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GSOMIA破棄の凍結を発表する韓国の金有根国家安保室第1次長(写真:AP/アフロ)

 日本と韓国の間で2016年から続いている軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が失効の危機から一転、維持されることになった。11月23日0時に期限が迫った22日午後、韓国政府が日本政府に協定を終了するとした通告を停止する方針を伝えてきたという。

 そもそも、韓国はアメリカの同意を得ずに一方的に破棄を通告し、以降もアメリカが再三にわたって見直しを要求したにもかかわらず、土壇場まで姿勢を変えることはなかった。その影響は韓国が考えているよりも大きく、GSOMIAが維持されたとはいえ、今後もさまざまな形で表面化すると思われる。

 また、韓国の与党代表は22日の時点でGSOMIAの終了について「すべての原因と責任は日本にある」と語っているなど、この一連の経緯は日韓間に禍根を残したと言っても過言ではないだろう。

韓国が“ドタキャン”していたGSOMIA締結

 ここで、GSOMIAについて振り返ってみよう。11年から実務者間での交渉が進められたGSOMIAは、本来であれば12年6月29日に締結される予定だったが、締結の1時間前に韓国が“ドタキャン”している。その理由としては中国との間の防衛協定があったとされており、韓国側はそれを認める発言もしている。

 その後、政権が李明博から朴槿恵に代わり、当初は朴政権もGSOMIAに否定的な姿勢を見せていた。しかし、北朝鮮情勢の悪化やアメリカからの圧力により、方針を転換することになる。そして、従軍慰安婦問題における日韓合意(15年12月)、地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備の米韓合意(16年7月)、日韓GSOMIA締結(16年11月)、在韓米軍の駐留継続という4点セットにより、日米との関係を維持する方向に動いたわけだ。しかし、朴大統領はいわゆる「崔順実ゲート事件」によって国内の大反発を招き、17年3月に罷免されている。

 朴政権を退陣へと追い込んだロウソク集会(抗議デモ)および国会での弾劾訴追を主導したのが現大統領の文在寅であり、THAAD廃止とGSOMIA破棄、さらに戦時作戦統制権の返還は文氏の選挙公約であった。そもそも論でいえば、米軍との間の戦時作戦統制権の問題は、文氏が秘書室長を務めていた盧武鉉政権で始まった話である。当時、訪米した盧大統領はジョージ・ブッシュ大統領に戦時作戦統制権の返還を直訴し、アメリカ側は将来的な返還で合意した経緯がある。

 しかし、その後の李政権では、韓国軍には戦時作戦統制権を有する能力がないとして、アメリカに返還時期の延期を求めている。これに対して、アメリカはGSOMIAの締結などで日韓間の軍事協力を強化するよう要求したわけだ。朴政権に代わってからも同様に、アメリカはGSOMIAやTHAADなど軍事的な関係強化を求めたが、当初は否定的だった朴政権は判断を保留し続けていた。しかし、前述のように北朝鮮情勢の悪化などの問題もあり、最終的にはアメリカの要求に従ったわけだ。

韓国との同盟関係に米国内で否定論も

 そして、朴政権のレガシー(政治的遺産)を全否定する文政権の誕生により、元慰安婦の支援を目的とする「和解・癒やし財団」が解散するなど、日韓合意は反故にされた。また、THAADは追加の導入ができずに不完全な状態で止まっている。戦時作戦統制権に関しては、早期返還に向けた動きが加速している。残るはGSOMIAだけだったわけで、失効すれば日米韓の3国間の軍事協力体制は大きく壊れることが必至であった。

 これまで、アメリカとしては単独ではなく日本を巻き込むことで、日米の協力関係のもとで韓国をコントロールしようとしてきた。しかし、GSOMIAをめぐるゴタゴタは、こうした構図が根底から覆されることを意味する。日韓もそうだが、アメリカ側の実務担当者も韓国との交渉に疲弊しており、アメリカ側から韓国を同盟国としてみなすことに否定的な意見が出始めている。

 そんな状況で、アメリカはGSOMIAの破棄見直しと在韓米軍駐留経費の負担増を韓国に突きつけていたわけだ。しかし、韓国はなかなかアメリカの言うことを聞かないばかりか、10月には中国との間で5年ぶりとなる国防戦略対話を行い、軍事的にも中国にすり寄る姿勢を見せている。

 一方で、11月に行われた米韓の防衛金交渉は事実上の決裂に終わった。本来であれば終日行われる予定であったが、アメリカが80分で中断したと報じられており、現状では交渉がまとまる可能性は限りなく低いと見るのが自然だろう。当然、こんな状況では日韓だけでなく米韓の関係悪化も必至であり、今後は在韓米軍の撤退も視野に入れた大きな戦略転換が必要になるのだろう。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

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渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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『「韓国大破滅」入門』 2019年8月2日、ついに安倍政権は韓国を「ホワイト国」から除外した。反発を強める韓国はこれからどうなっていくのか。また、7月に河野太郎外務大臣は「新・河野談話」を発表、かつての河野談話を更新し、着々と韓国を追い詰めつつある。日韓関係の行方はどうなっていくのか? 一方、トランプ政権は戦時統帥権を返還し韓国を見捨てようとしている。在韓米軍撤退で起こる韓国の死活的悲劇とは? 今後の韓国、朝鮮半島、アジアの変化を完全解説! amazon_associate_logo.jpg

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