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来日で話題のローマ教皇…黒いカネの流れ、中国への接近…異例づくしの教皇フランシスコが挑む改革とは

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※画像:『悩めるローマ法王 フランシスコの改革』(中央公論新社刊)

 11月23日から26日まで第266代ローマ教皇フランシスコが来日。長崎、東京でミサを行うほか、広島平和記念公園や上智大学にも訪問する。

 実はこのフランシスコという教皇、バチカンではとにかく異例づくしの人物なのである。

バチカン史上初。“本流”ではない出自

 フランシスコは1938年、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで生まれたが、カトリック教会2000年の歴史において、初めて中南米出身者で法王になった人物である。さらに、ヨーロッパ以外の出身者としては、731年に就任した第90代教皇のグレゴリウス3世(シリア出身)までさかのぼる。日本ならば奈良時代のことだ。

 続いて、イエズス会出身者としても初めての教皇だ。イエズス会といえば、室町時代後期に日本にキリスト教を伝来したフランシスコ・ザビエルが創始者の一人として名を連ねている。

 さらに、彼が「フランシスコ」という教皇名を採用したことも異例だ。フランシスコという呼称は、フランシスコ修道会の創始者であるアッシジの聖フランチェスコに由来する。つまり、イエズス会出身者であるにもかかわらず、他の修道会の創始者の名前を選んでいるのだ。ちなみに、「フランシスコ」という名前を選んだ理由について彼は、「貧しいものを忘れるな」というクラウディオ・フンメル枢機卿の言葉から、貧者や平和、愛のために生きたアッシジの聖フランチェスコを思い浮かべ、その名を取ったという。

性的虐待に金融スキャンダル……。カトリック教会が抱える”闇”

 このように、異例づくしの教皇フランシスコだが、その目の前に立ちはだかっているのが、山積みになったカトリック教会が抱える諸問題だ。

 2015年に公開された映画『スポットライト 世紀のスクープ』では、米ボストンの新聞社がカトリック教会の神父による性的虐待問題をスクープする過程が描かれた。実際に2002年に米ボストン・グローブ紙が聖職者による性的虐待問題をスクープし、その後、世界各地で同じような問題が発生していたことが明らかになった。

 また、カトリック教会の総本山であるバチカン市国の金融機関であるバチカン銀行は金銭的なスキャンダルが少なくなく、2012年にはフォーブス誌から「世界で最も透明性の低い銀行」と呼ばれた。

 フランシスコは大きな危機感を抱いていたのだろう。教皇就任直後からカトリック教会の問題に対していくつも手をのばし、強硬的な態度で改革を進めている。

 しかし、2013年の就任以後、高い評価を得てきたものの、あまりの強硬的な改革路線に進むあまり、支持層と反対派の亀裂を招き、問題拡大の混乱を招いているのも事実だ。

 長年、ローマ特派員としてバチカンを取材してきたジャーナリストによる著書『悩めるローマ法王 フランシスコの改革』(秦野るり子著、中央公論新社刊)から、フランシスコの改革の一端を見てみよう。

バチカン銀行に流れる”黒いカネ”

 前述の通り「世界で最も透明性の低い銀行」と呼ばれたバチカン銀行。その問題は何十年も以前から続いてきたものだ。

 バチカン銀行は顧客情報の機密保持の強さや利子に税金がかからないという魅力から、脱税やマネーロンダリングで利用されることも多く、その口座を持つ顧客にはマフィアやイタリア秘密結社p2も紛れ込んでいたという。1990年には口座開設の条件が緩められ、さらにこの傾向が強まった。

 そんな黒いカネの流れが見え隠れするバチカン銀行にメスを入れようとしたのが、先代教皇のベネディクト16世だった。バチカンの信頼を取り戻すべく銀行改革に乗り出したが、「機密性を保つことが、バチカンが主権国家たる証」と内部からの反発も大きく、中途半端なままで教皇の座を退位した。

 その跡を継いだフランシスコも就任間もなく銀行改革に乗り出したが、「(銀行を)閉鎖することもありえる」とまで述べる強硬姿勢は注目すべきポイントだろう。

 バチカンと関係の深いイタリアではなく、アメリカのコンサルティング企業との契約を結び、口座の洗い出しと本来は口座保有資格がない口座の閉鎖を進めているほか、透明性のアピールからバランスシートの公表に踏み切った。

 その結果、2017年4月にはイタリアがバチカンを金融分野でホワイト・リストに入れており、フランシスコの改革は実を結んでいるようだ。

バチカンと中国が接近している理由とは?

 日本の隣国・中国市場への接近についても触れておこう。

 ご存知のように中国は共産党政権であり、カトリックは非合法にあたる。また、バチカンは中国と断交しており、台湾との国交を維持している状態だ。

 ただ、世界最大の人口を誇る中国への影響なくして、世界宗教の権威を保つことは難しい。ヨハネ・パウロ2世の時代には中国に対して国交樹立を求めている。

 カトリックにとって中国のマーケットの大きさは魅力だ。急激な経済成長に伴い、精神的なよりどころを求める人も増え、宣教の余地は十分にある。

一方で、中国側にもカトリック教会と接近するメリットはある。バチカンとの関係改善は開かれた国をアピールでき、台湾を孤立させることができる。

 ただし、中国では国が認めた宗教施設以外での宗教活動は違法であるほか、かつて、ヨハネ・パウロ2世の存在が東欧の社会主義政権のドミノ現象のきっかけになったことから。バチカンへの警戒心も強いという。

 世界が中国に対して目を向ける今、カトリック教会も虎視眈々と中国の市場を狙っているのだ。

 ◇

 そのほか、性的虐待問題にもメスを入れるなど、『悩めるローマ法王 フランシスコの改革』を読むと、フランシスコは「戦うローマ教皇」と呼んでも過言ではないほどの改革者の姿が浮かんでくる。

 それでも向かい風は強い。2000年の歴史を持つカトリック教会の中に存在する腐敗をいかに掘り起し、是正していくのか。それはカトリック教会がこれからどこに向かおうとしているのかを示すものでもある。

 フランシスコの手腕に、世界からの注目が集まっている。
(新刊JP編集部)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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