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レスキューアニメ『プロメア』医師も舌を巻く正確な医療知識…京アニ事件への悲しみを胸に

アニメ『プロメア』の通常版DVD(アニプレックス)

「これぞトリガー!」という傑作『プロメア』

 そして、アニメでは……? はい、長くなりました、ここからが本題です。

 今年公開され、ロングランヒットになるとともに、第23回ファンタジア国際映画祭の観客賞・アニメーション最優秀長作品賞を受賞し、第92回アカデミー賞長編アニメ映画部門にもエントリーされた『プロメア』こそ、レスキューの世界を実によく描いた作品として、まさに今、出るべくして出た作品ではなかったかと思うのです。

 実のところ、公開前の段階では私は、本作についてそこまで「レスキューをモチーフにしたヒーロー物語」を期待していたわけではありませんでした。『プロメア』の制作会社はトリガー。トリガーといえば、かつて『天元突破グレンラガン』(テレビ東京系、2007年)を制作したガイナックスのチームが独立して立ち上げたアニメ制作会社であり、『キルラキル』(TBS系、2013年〜)、『SSSS.GRIDMAN』(TOKYO MXほか、2018年)などが代表作。同社はケレン味と爽快感のある演出とに定評があり、またこの『プロメア』では、上述の『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』で脚本を手がけていた劇団・新感線の中島かずき氏がシナリオを手がけることから、私はむしろ、スケールの大きい、爽快感に満ちた派手なSF作品であることを期待していたのでした。

 実際、『プロメア』公開前のPVや事前情報では、炎を操る新人類、バーニッシュによる火災テロに対して立ち向かう救命消防隊バーニングレスキューの活躍を描く……と、レスキュー隊の存在は公にされていたものの、日本の纏(まとい)をモチーフにした派手なパワードスーツや、数々のメカニックによる派手なアクションが前面に押し出されておりましたし、また『プロメア』の主人公ガロ・ティモスについても、かつての『天元突破グレンラガン』の主要登場人物――破天荒で無理を通して道理を蹴飛ばすことをモットーにしていた「カミナ」――を想起させるビジュアルな上に熱い言動が強調されていたため、私としては、ひたすら熱量の高いアクションを求めていたのです。

 果たして、作品の出来はそうした事前情報からの期待を大きく上回り、終盤に向けてどんどんスケールの大きくなる展開や、それが一挙に収束・解決に向かうラストなどは、「これぞトリガー!」という大きな喜びを私に与えてくれたのでした。

『プロメア』の背景にある正確な医療知識

 一方で、いい意味で予想を裏切られたのが、作中におけるレスキュー要素についての扱いでした。

『プロメア』の主人公、ガロ・ティモスは、公開前の情報からのイメージに違わぬ熱いハートの持ち主でしたが、レスキュー隊員としての使命感やその背景にある知識や技能についても非常に説得力のある――つまり一応医療の専門家である私のような者が見てもきちんと共感できる描かれ方をしていたのです。

 例えば、レスキュー作業中における、人命を最優先とした任務の優先順位。あるいは、チームの中での役割分担への理解と、他のチームメンバーへの信頼。そして技能的なところでは、詳細はネタバレになるので伏せますが、胸骨圧迫(いわゆる心臓マッサージ)の描写の正確さ。また、作中でそれらの描写が大げさに語られるのではなく、レスキュー隊員として訓練を受けた者としての当然の職能及び職業的倫理観としてさらっと出てくるのが素晴らしく、科学・医学としての情報の正確さという以上に、救命の現場に立つ者の考え方や心がけを丁寧に再現してくれていることに感動を覚えました。これは、キャラクターを理解し、作り上げるプロセスと、アニメーションとしての演技を絵で作り上げるプロセスの双方で、キャラクターがきちんと生きているからこその描写だと思います。

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