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日本の造船産業、存亡の危機に…国内大手でも韓国・中国勢の20分の1の規模

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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三井E&SホールディングスのHPより

 11月11日、国内造船・重機大手企業である三井E&Sホールディングス(三井E&S)が第2四半期(7~9月期)の最終損益が665億円の赤字だったと発表した。それと同時に、同社は2019年度の最終損益が880億円の赤字になるとの見通しも公表した。大幅赤字の最大の原因は、インドネシアの石炭火力発電所の建築工事において約713億円の損失が計上されたことだ。

 リーマンショック後、同社の業績は中国経済の堅調な展開の恩恵を受けた。ところが、ここへきて中国経済の減速は一段と鮮明化している。中国の資源需要の落ち込みなどを受けて、世界的に鉱山などの開発も停滞気味だ。それに対して三井E&Sは、資産売却などを進めることによって当面の収益を確保しようとしている。ただ、中国経済の減速懸念をはじめ、世界経済の不確定要素は増えつつある。同社の改革がどれだけの効果をもたらすか、先行きは見通しづらい。

減速が一段と鮮明化する中国経済

 基本的に、石油化学関連の設備や発電所などの設計・建築(プラント・エンジニアリング)や、タンカーなどの造船を手掛ける三井E&Sの業績は、世界経済全体の動向に大きく影響されやすい。特に、リーマンショック後の同社の業績は、中国経済の動向に左右されてきた側面が大きい。

 現在、中国経済の減速は一段と鮮明化している。その背景には、中国経済が成長の限界を迎えていることがある。それは、GDP(国内総生産)の推移を見ればよくわかる。リーマンショック後、中国政府は4兆元の景気対策を発動し、道路や鉄道などのインフラ整備をはじめとする“投資”を軸にして経済成長率を高めようとした。これは、1990年代初頭に株式と不動産の“資産バブル”が崩壊し、“ハコモノ”の建設など公共事業の積み増しによって雇用の保護と景気の維持を目指した日本の政策運営に共通した部分がある。

 巨額の経済対策が打たれた分、中国の一時的に景気は持ち直した。2011年ごろまで、中国の需要などに後押しされ、鉱山やエネルギー資源の需要は持ち直した。それは三井E&Sが造船やプラント関連の受注を獲得し、業績の維持・拡大を目指すために重要な追い風となったはずだ。

 ただ、中国は構造物の建築や不動産開発などを通して景気浮揚を重視するあまり、過剰な生産能力を生み出してしまった。ある意味、中国政府は投資によってGDP成長率の“かさ上げ”を目指したともいえる。

 その結果、内陸部などにも高速鉄道が延伸された。もともと需要がぜい弱な地域にまで過剰な投資が行われ、中国経済における資本の効率性は大きく低下してしまった。中国経済の専門家の中には、「すでに、付加価値を生み出せる投資案件はほとんど見当たらない」と、かなり悲観的な見方を持つものもいるようだ。中国企業による債務の不履行(デフォルト)が急増し、債務問題が深刻化していることはその裏返しといえる。企業経営者や家計のマインド悪化も深刻とみられ、短期間で景気が持ち直す展開は想定しづらい。

三井E&Sが目指すビジネスモデルの改革

 三井E&Sは、プラント・エンジニアリングと造船分野を中心に、新たな受注を取り付け、完成した設備などを発注者に引き渡すことなどを通して成長してきた。発電所の建設や大型船の建造には、かなりの資本支出が必要だ。中国の過剰生産能力の解消が進まない間、同社が需要を取り込んで収益を得ることは容易ではないだろう。経営陣は現在の事業環境が“底”との見解を示しているが、事業環境が一段と悪化する恐れもある。大型の案件を受注し、業績を拡大するという同社のビジネスモデルは転換点を迎えていると考えられる。

 この認識に基づき、三井E&Sはより安定して収益が得られるビジネスモデルを目指している。具体的に、経営陣はエンジニアリングと造船の両事業において、発電所の保守点検や、船舶のメンテナンスなど、より収益の安定性が見込めるビジネスを強化し、業績を安定させることを重視している。造船関連では、環境への負担軽減のためにガス関連の製品競争力を高めることも目指されている。

 冷静に考えると、こうした改革案を実行していくことは重要だ。問題は、今後の収益動向の不確実性が高まるなかで、同社が改革を完遂できるか否かだろう。同社は7~9月期に計上した損失の範囲内でインドネシアの石炭火力発電所プロジェクトを完遂するとしているが、先行きは見通しづらい。

 加えて、世界の造船業界では大規模に業界再編が進み、価格競争が熾烈化する可能性が高まっている。世界大手、韓国の現代重工業は、大宇造船海洋の買収で合意に至った。また、中国では、中国船舶工業集団(CSSC)と中国船舶重工集団(CSIC)の国有企業の経営統合が決定された。

 この結果、世界の造船業界における韓国と中国のトップ企業のシェアは、それぞれ2割程度に達したとみられる。世界的に海運への需要は低下傾向にある。世界シェアが1%程度とみられる三井E&Sが中韓の巨大造船企業との競争に対応することは容易ではないだろう。

求められる成長への明確な道筋

 また、三井E&Sは資産の売却などを進めることによって、収益と財務内容の悪化を回避しようとしている。資産売却を進める上で重要なことは、経営陣が、組織全体が進むべき方向を示し、経営資源を成長が見込める分野に再配分することだ。それができるか否かが、同社の事業の継続性に無視できない影響を与えるといっても過言ではないだろう。

 現在、同社の経営陣は自力での経営にこだわらない姿勢を示している。プラント・エンジニアリングと祖業である造船事業の両方において、同社は他社との協業や資産の売却を進めている。資産売却などを進めれば、固定費を中心に支出を抑え、一時的に収益を確保しやすくはなるだろう。

 やや気になるのは、そうした取り組みを続けた結果として、同社がどのような企業になりえるか、明確な将来像が描きづらい部分がある。突き詰めて考えると、他社との合弁を進め資産の売却を続ければ、最終的には自社の組織そのものがなくなってしまう恐れがある。

 この懸念は、造船分野における他社との提携などから確認できる。三井E&Sは造船分野において、国内の常石造船や中国の揚子江船業と提携した。さらに、公官庁向けの水上艦事業などに関して三菱重工との提携も模索されている。経営陣としては、提携分野を拡大することを通して環境変化に適応しやすい体制を整備したいのだろう。

 ただ、それが想定された成果を発揮できるとは限らない。利害関係者が増えれば、その分だけ利害の調整には時間と労力がかかるだろう。経済環境が一段と不安定になり事業環境が悪化するなどすれば、利害の調整が難しくなることもある。加えて、世界的な価格競争にも対応しなければならない。

 三井E&Sの経営陣に求められることは、改革が中期経営計画にて示された新しいビジネスモデルにどうリンクするか、明確なロジックを提示することだろう。それは、利害関係者(従業員、株主、債権者など)の賛同を取り付け、改革を進めるために不可欠な要素の一つと考えられる。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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