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藤和彦「日本と世界の先を読む」

プーチン、歴史的な大失態か…中露・巨大ガスパイプライン開通がロシア経済を傾ける

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員

ホールドアップ問題

 このような異例の事態になっているのは、プーチン大統領が「中国との蜜月」をことさら強調するために、将来に大きな禍根を残す決定を行ったからである。

 ロシア側にとっての最大の懸念は、「ホールドアップ問題」の発生である。これは、外国向けパイプラインの仕向先が1国に限られる場合、輸入国の一方的な事情で「事前に契約された量や価格で原油や天然ガスを買い取れない」と主張されると、生産国がその要求を一方的にのまざるを得ない状況に追い込まれることを指している。生産国が所有するパイプラインは、ほかへの供給に振り向けることができないことから、消費国との交渉が決裂した場合に無価値の資産となってしまうため、生産国はこれを避けるために消費国側の要求に従うしかなくなるのである。

 この問題が最初に発生したのは、ロシアが黒海経由でトルコ1国に天然ガスを供給するブルーストリームパイプラインだった。供給開始を間近に控えた2002年4月にトルコは、経済の低迷を理由に「天然ガスの契約引取量の縮小と天然ガス価格の引き下げ」を突然要求してきた。この一方的な要求にロシア側は激怒したが、トルコは他の国からLNGを輸入しており、天然ガスの調達に関する自由度があったことから、ロシア側は最終的にトルコ側の要求に屈するしかなかった。

 この一件はロシア側にとって手痛い教訓となり、ホールドアップ問題が発生しない方策を採ってきたが、シベリアの力で同様の問題が発生する可能性が高いのである。

 その理由としてまず第一に挙げられるのは、シベリアの力の供給先が中国だけに限られていることである。トルコと同様、中国も天然ガスの調達に関する自由度が高い。カザフスタンやトルクメニスタン、ミャンマーからパイプラインで輸入するとともに、液化天然ガス(LNG)というかたちでマレーシア、カタール、パプアニューギニア、豪州などからも輸入している。

 中国側は中央アジア産ガスよりも低い価格を提示する構えであり、価格をめぐる両国間の紛争が生じることになると予想されるが、ロシア側の立場が弱いのはトルコのケースから見ても明らかである。

 さらに引取量の縮小を中国側が要求してくる可能性がある。中国は大気汚染対策として燃料源を石炭から天然ガスに切り替える事業を大規模に実施しているが、初期需要として見込まれる東北三省の経済は芳しくないことから、石炭より高価な天然ガスの需要が拡大しない恐れが高まっているからだ。

 ロシア側はシベリアの力の開通にあわせて東シベリアのチャヤンダ・ガス田の開発のために1000億ドル以上の資金を投入したとされているが、天然ガス売却収入が当初の見込みをはるかに下回れば、巨額の不良債権が発生してしまうというわけである。このように、プーチン大統領が国威発揚に利用したツケが、今後ロシア経済に大きくのしかかってくるのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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