こうした災害時の行政対応の瑕疵をめぐっては、東日本大震災以降、全国各地で住民や遺族が行政を相手取って責任を追及してきたが、いずれも苦しい戦いとなった。津波で亡くなった児童23人の保護者が、石巻市と宮城県を相手に損害賠償を求めた同市立大川小学校の裁判ですら、今年10月に最高裁で結審するまで5年以上の歳月が必要だった。

 災害被害の損害賠償請求には緻密な検証と、災害当時の職員の行動を多角的に検証する必要がある。そうした検証には膨大な時間がかかり、一方で各個人の被災の記憶や記録、証拠は時の経過とともに失われていく。

 武蔵小杉のタワーマンション周辺の戸建て住宅に住む男性(62)は、今回の台風で床上浸水の被害を受けた。納戸にしまってあった家族のアルバムなどが水に浸かったという。男性は苦笑いしながら話す。

「仮に裁判になって、紛争が長引けば長引くほど『武蔵小杉』のイメージは悪くなるのではないかと危惧しています。確かにタワマンは施設的に大変な額の被害が出たのでしょうし、住民の方々も被災時は不便な思いもされたとは思います。市に対する不信感は私にもあります。ただ今は損害賠償どうこうというより、市には被災者への税金の減免とか、再建費用調達のための融資借入時の利子補給とか、きめ細やかな支援をしてほしいです」

賠償請求の陰にマンション価格暴落情報

 タワマン住民が損害賠償請求を念頭に置き始めた背景の一つには、前出住民の男性が言う「武蔵小杉の地価やマンション価格が下がった」という認識があるようだ。一部報道や有識者は次のように現状を分析している。

「被害を受けてムサコの資産価値は暴落。ある戸建て物件を概算したところ、4000万円台から1500万円まで下がっていました」

「水害リスクを敬遠されて買い手が見つからない」

 被災からわずか2カ月。そんなに急激に不動産価格の減額はあるのだろうか。

大げさな報道だが、「売りにくい」のは事実

 榊マンション市場研究所の榊淳司氏は次のように解説する。

「武蔵小杉エリアで不動産価格が下がり始めた、というような話は私の耳には入ってきません。台風直後から不動産流通標準情報システム『レインズ』で『東横線武蔵小杉駅徒歩5分以内、マンション』の売出し物件数をモニタしておりますが、特に変化はありません。武蔵小杉は駅から少し離れると戸建てエリアです。そういったところで売り急いでいる物件があっても不思議はありませんが、一部報道はちょっと大げさすぎだと思います。

 新浦安などでも震災時に液状化などの被害がでていましたが、住民が自治体などに賠償を求める事例を私は把握しておりません。新浦安では家が傾いた住民が三井不動産を相手に訴訟を行いましたが、敗訴したはずです。

 今回、武蔵小杉の浸水被害を受けたタワマンは被害総額が推定で数億円規模になったはず。通常の保険ならカヴァーは5000万円まで。それ以上のところを川崎市に払わせようとしているのだと推定しますが、川崎市が責任を認めるとも思えず。この話し合いは難航するでしょうね。被害を受けたタワマンに限っては事故物件扱いとなります。今後1年程度は成約しにくいでしょうね。

 また武蔵小杉エリアのタワマンは今後、成約数が台風以前の半分以下になると思います。非常に『売りにくい』状態。ただし、表面的な価格はそう変わらないと思います」

 値段は下がらないが、売ることも難しい。腹をくくって住み続ける以外に、道はないのだろうか。いずれにしてもタワマン住民の“非常事態”は続きそうだ。

(文=編集部)

 

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