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中曽根陽子の教育最前線

教員は第一線の専門家、本格的インターン組み込み…志願者絶えない専門職大学の秘密

文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表
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 英語の外部試験の導入延期や、記述式問題の採点の公平性についての議論が起きるなど、ブレーキがかかる感が否めない2020年度からの大学入試改革。スピード感を持った変化が求められる時代に遅々として進まない大学教育改革を尻目に、外側では着実に新しい教育の芽が生まれつつある。そのひとつ、大学教育の台風の目となりそうなのが、情報経営イノベーション専門職大学(愛称iU)だ。今回は、設立準備室室長の宮島徹雄氏に話をきいた。

新しいタイプの大学、専門職大学とは

 この記事で取り上げるiUは、20年4月に墨田区に開学する専門職大学だが、そもそも、専門職大学とはなんなのか。ご存じない方も多いと思うので簡単に説明しよう。

 専門職大学とは、学校教育法の一部改正により55年ぶりに新設された新しいタイプの大学/短期大学で、専門とする職業分野の高度な実践力と、それを他分野の知識等と結びつけて新たなモノやサービスを生み出す豊かな創造力を育てることを目的としている。背景には、AI(人工知能)などテクノロジーの急速な進化などで産業構造が急激に変わっていくなかで、国が成長・発展を持続していくためには、優れた「専門技能」と高度な「実践力」、そして新たなモノやサービスを創り出せる「創造力」を有する人材の育成強化が急務となっているが、既存の大学ではその要望に応えきれないということがある。

 実際、「最近の大学生に不足している能力」としてあげられている能力のトップ3と、それをあげた企業の割合は、

(1)創造力:68.3%

(2)産業技術への理解:66.4%

(3)コミュニケーション能力:58.1%

となっている(日本経団連「産業界の求める人材像と大学教育への期待に関するアンケート結果」<2011年>より)。

 そこで、質の高い実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関として制度化されたのが、専門職大学というわけだ。既存の大学との大きな違いは次の3つ。

1. インターンシップを600時間以上行うことが、卒業条件になっていること。

2. 授業が原則すべて40名以下で行われること。 

3. 実務家専任教員が4割以上を占めることが義務付けられていること。なおかつその半分は、大学等での教員歴、修士以上の学位、企業等での研究上の業績のいずれかを持つ人材でなくてはならい。

 つまり、実社会とつながって実践的に学びながら、専門的な技能が身につけられる大学ということだ。卒業すれば学士が取得できる。

 この条件をクリアして認可された専門職大学は、18年度が3校、19年度が7校。そのうちの1校がiUというわけだ。

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情報経営イノベーション専門職大学、墨田キャンパス

640時間のインターシップが必修。在学中に全員起業のチャンスがある

「本学のプログラムは、経済経営系の分野50%、情報系30%、グローバル系20%で構成されている文理融合型です。SEやクリエイターという専門職を育てるのではなく、ICT時代に、グローバルな現場でリーダーを張っていける人材を育てます」と宮島氏。

 学長に就任するのは、現慶應義塾大学大学院教授の中村伊知哉氏。「10年、20年後には、今ある仕事の約50%がAIに取って代わられるといわれる時代、予測不能な未来をワクワクしながら生き抜く人材を育てたい! かつてない大学になる」と熱い。

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学長に就任する中村伊知哉氏

 専任教員には、例えばスーパーコンピュータ「京」を開発した富士通の研究者など、素晴らしい実績を持つ実務家教員が全体の75%以上(※20年4月開学時)を占めており、ドワンゴ社長の夏野剛氏ほか、100名を超える多岐にわたる分野の専門家が客員教員に名を連ねている。

 そうした産業界の最先端に身を置く人から、1~2年次に徹底的に学んだ後に、3年次に、640時間(約5カ月)のインターシップを行う。大学生の多くが行う就活のための短期インターシップは、会社説明の域を超えないが、ここでは実際に会社の業務やプロジェクトにかかわりながら、他の社員と同じようにプロジェクトのメンバーとして業務を遂行するという。これにより社会に出る前に、リアルな体験ができ、また学びを深めるポイントも理解することができる。

 もうひとつの大きな特徴が、全員が起業のための事業計画を立てることが義務付けられている点だ。4年間継続科目の「イノベーションプロジェクト」では、論理的思考やデータ分析力、事業計画策定力などを高めていく。そして、事業化できそうなプランには、資金の一部が支援され、実際に起業もできる。つまり全員に起業のチャンスがあるのだ。

「ほとんどは失敗するかもしれないが、それでも構わない。日本は減点主義の社会で、結局何もしない人が評価されるシステムがまかり通っているが、ここでは、大学にいる間に、できるだけたくさん失敗をしてほしい。起業の資金もファンドを作って支援する」と宮島氏。学生にとって、安心してチャレンジができる環境があるというのが、この大学の最大の魅力ではないだろうか。

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「意欲のある学生に来てほしい」と話す宮島徹雄氏

本当の学びを求めて優秀な学生が応募

 20年度から大学入試改革が行われるが、これを契機に大学がどこまで進化できるかは、正直先が見えない。その一方で、中高では入試改革に先んじて、プロジェクト型の学習の機会を取り入れるなど、さまざまな改革を行う学校が生まれている。高大接続が今回の改革の大きなテーマだが、先を見据える目を持った意欲のある学生の受け皿となりうる環境を提供できる大学がどれだけあるかは疑問だ。

 正式な認可がおりたことで出願も始まっているが、すでに定員を上回る応募があるという。そのなかには、いわゆる偏差値の高い進学校の生徒や、今話題の通信制高校N高の生徒など、さまざまな背景の子どもたちがいるという。

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体験授業に熱心に参加する若者たち

 来春、どんな学生たちが集まるのか、大人たちとタッグを組んでどんなイノベーションを起こすのか、そして、この大学のチャレンジが、大学教育に大きな風穴をあける存在になるのか、興味深く見守っていきたい。

(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表)

中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表

中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。

マザークエスト 中曽根陽子オフィシャルサイト

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