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文筆家・森下くるみがテレビを斬る!「エンタメとしての料理番組」

すべてが新鮮だったレイチェル・クーの料理番組…生活に根ざした料理番組を日本でも!

文=森下くるみ
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『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』(レイチェル・クー著、清宮真理訳、世界文化社刊)

 森下くるみとして文章を書くようになって10年ほどが過ぎ、現在40歳を目前にして、執筆のかたわら家事に育児にと落ち着かない日々を過ごしている。

 もっぱらの悩みは、育児をするようになってから趣味にかける時間が極端に少なくなり、気持ちがパサパサしていることだ。購入した本は長年積んだまま(読むのは原稿を書くための資料や献本)、あれだけ好きだった映画もろくに観ておらず、音楽は執筆中にPCのスピーカーで聴くなど、味気ない。

 それでも唯一、好奇心を失わないものが「食」の分野である。日々こなすだけの炊事にあらず、わたしにとって料理は半ば錬金術だ。とにかく面白い。五感を総動員して根菜を煮たり自家製チャーシューをつくったりするうちに、パサパサの精神が少しだけしっとりしてくるし、美味しいご飯があれば家族も満足、よいことだらけである。

 ただ、自宅の台所での料理はコツコツとも淡々ともいえる極めて地味な行為で、適度に新しい知識をインプットするなど、何かモチベーションになるものがいる。そのためにわたしが活用しているのが、「料理番組」だ。すっかり定番化したバラエティ番組のグルメロケ&レポートで食欲を刺激されるのもいいが、良質な料理番組に織り込まれた文化的エンタメ性は、わたしにとって大いに刺激になるのである。

 そこで、そんな刺激を求めて日々料理番組を渉猟しているわたしにとっての「お気に入りの料理番組」を、今後紹介させていただきたい。

世界中で大人気だったレイチェル・クーの料理番組

 さて、早速おすすめしたいのが、いま話題のイギリス人フードライター兼料理人、レイチェル・クーの番組だ。

 1980年生まれ、父が中国系マレーシア人、母はオーストリア出身の彼女は、黒髪で黒目がちの、キレイと可愛いが両立した健康そうな女性だ。細身のモデル体型でなく、小柄で肉感的である。衣装はビタミンカラーのトップスにふわっとしたスカートを合わせたり、柄物のワンピースにシンプルなカーディガンを羽織ったり、キュートかつクラシカルで、真っ赤な口紅も画面に映えている。

 ロンドンの芸術大学で学んだあとにパリへ移住。2012年にイギリスBBCで放送した初期シリーズ『レイチェルのパリの小さなキッチン』(LaLa TVで再放送中)で世界中に知られる人気料理家となり、イギリス発のレシピ本は日本でも評判を呼んで、2018年に引き続き今年も来日を果たしている。

 先日はNHK Eテレで新シリーズとなる『レイチェルのスウェーデンのキッチン』(毎週月曜午後10時50分〜)が放送され、最終エピソード8の放送が終わったばかりだが、いずれ再放送されると思うので番組表をまめにチェックしたい。

 日本で2016年にNHK Eテレにて放送を開始した『レイチェルのパリの小さなキッチン』は、移り住んだパリのアパルトマンの、両腕を伸ばしたくらいのキッチンスペースで、彼女流にアレンジした「難しくないフレンチレシピ」を披露するというものだ。

・自宅キッチンがロケ場所で、
・日常的に使い込まれた調理器具で、
・高級な材料でもなく、難易度の高い調理法でもなく、
・レシピを語るのは最初から最後まで自分(日本版では吹替)ひとりで、
・料理する人の見た目や服がすごく可愛い

 このすべてに当てはまる料理番組を観たことがなかったので、すごく新鮮だった。

 30分の放映時間の中では、カレイのムニエルや仔羊の煮込みのようなメイン級のフレンチが3品、マドレーヌやタルトなどスイーツ1品、ひとつあたり5分ほど(もちろん編集してある)で紹介される。合間には市場で食材を購入する場面、パリで人気のお菓子屋を眺めてレシピのヒントを得るといった風景が挟み込まれる。

 ライブ配信のようなくだけた空気も、番組が人気となった理由のひとつだと思う。30代を謳歌するひとりの自立した女性が、自分の人生の楽しみとしての料理を、カメラを通して世界中の人とシェアする様子なのである。

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昨年末で放送を終了した『レイチェルのスウェーデンのキッチン』(NHK Eテレ公式サイトより)
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『レイチェルのパリの小さなキッチン DVDs & Recipe Cards』(世界文化社)

生活に根ざした料理番組を日本でも

 2019年放送の新シリーズ、『レイチェルのスウェーデンのキッチン』になると、結婚と出産を経験した彼女が、夫の故郷であるスウェーデンに移住。キッチンは木こりが住んでいそうな森のコテージ内となる。奥行きのある空間に大きな冷蔵庫が鎮座し、薪をくべた暖炉のオーブンでバーガー用ミートパティの仕上げ焼きをしたりする。パリのキッチンから世界が広がり、その土地のムードも相まって料理の深みがより増しているので、ぜひシリーズを見比べてほしいものだ。

 ただ、わたしはレイチェルの料理番組を「今夜の夕飯の参考にしよう」と思って観ていない。我が家ではあまり使わないバターが大きなかたまりで投入され、肉を煮込むのには数時間単位の鍋使い&オーブン使いをする。ハーブも生のものをちぎって入れるなど、真似しようとしても、食材の調達と下準備に手間とお金がかかってしまう。とにかく「節約」「減量」「時短」「作法」の概念はすっ飛んでいくので、これは完全に異文化として楽しむやつだなー、と思って観ている。

 しかし、子育てと家事と執筆のほんのわずかの隙間にできた大事な30分をこの番組の視聴に使うのは、その「異なる食文化」に触れたいからにほかならない。

 グルメレポートでなく、調理工程の実演というのでもなく、ファッション、インテリア、食材とのコミュニケーションなど、女性のみならず男性も元気になる、ライフスタイルの溶け込んだエンタメとしての料理番組なのだ。

 欲をいうと、こういった料理系番組を日本のテレビ局でも企画してくれないかなぁと思う。いや、京都のベニシアさん(NHK『猫のしっぽ カエルの手 京都 大原 ベニシアの手づくり暮らし』や、奈良の尼寺の方々(NHK Eテレ『やまと尼寺 精進日記』)など、生活に根ざした料理番組はあって人気もあるし、男性タレントがMCをする食をテーマにした番組(NHK Eテレ『グレーテルのかまど』、テレビ東京『男子ごはん』ほか)は山ほどあるのだが。

 実際、料理研究家を肩書とする人はいっぱいいて、料理本はバンバン出ているし、インスタのフォロワーもすごく多いのに、彼女らは番組内の料理コーナーでゲスト出演するのみだ。なぜだろう?

 これからの日本文化のために、20代30代の女性が主導する生活×料理の番組が観たいのは、わたしだけなのだろうか。

(文=森下くるみ)

森下くるみ

森下くるみ

1980年、秋田県生まれ。文筆家。著作に『すべては「裸になる」から始まって』(講談社、2008年)、『らふ』(青志社、2010年)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ、2016年)など。

Twitter:@morikuru_info

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