セブン、40年間FC店社員・バイトに賃金未払い…労基署の指摘を隠蔽し是正せず

賃金未払いの概要が説明された会見(撮影=編集部)

「24時間営業の問題、7pay(セブンペイ)の不正利用、おでんの無断発注、そして今日、残業代未払いが発覚しました。創業から45年が経ち、社会の環境が変わっていく中で、我々自身が変わってこられなかったのが問題です。本気で変えていかなければなりません」

 セブン‐イレブン・ジャパンの永松文彦社長は10日、都内で開かれた謝罪会見で、今年に入って続出した不祥事を挙げ、何度も自社の変革の必要性を訴えた。この日、同社が受託しているフランチャイズチェーン(FC)加盟店の給与支払い代行業務で、残業手当の一部が支払われていないことが発覚した。同社では、今年2月にFC店との間で24時間営業の強制の是非をめぐって論争が勃発。7月にはコード決済サービスのセブンペイに不正アクセスが頻発し、9月にサービス廃止に追い込まれた。そして11月には本部社員によるおでんの無断発注も明らかになった。

 同社の経営陣にとって厄年ともいえる2019年だったが、永松社長の発言の通り、それもこれも古くから脈々と続いてきた同社の放漫経営による負の遺産が積み上がった結果だ。では、今回の残業代一部未払い問題とはどのような事案だったのだろうか。

労基署の指摘でつくられた「残業代が少なくなる計算式」

 同社ではFC加盟店が従業員を雇用し、人件費を負担するが、給与の計算や支払い業務を本部が代行する。今回の問題はこの支払代行業務で行った。

 労働基準監督署は今年9月、時間給で働くアルバイト従業員などが休まずに出勤した場合に支払う「精勤手当」や、職務の責任に対して払う「職責手当」から残業手当を算出する計算式が誤っていることを指摘した。計算式は労働基準法で定められているが、支給額が本来より少なくなる式が用いられていた。

 この結果、本来支払われるはずだった残業代は記録が残っている2012年3月以降だけで従業員約3万人分、計約4億9千万円。1人当たりの未払い平均額は約1万6千円、最高は7年9カ月分で約280万円という。同社は不足分を支払うとして、問い合わせ窓口を設けた。

 この「支給額が少なくなる計算式」が導入されるきっかけになったのも労基署の指摘だった。同社では01年6月まで、職責手当や精勤手当に基づく残業手当が支払われていなかった。この時点で、同社はこの指摘の事実を公表せず、これ以前の未払い分も現在まで支払われていない。アルバイトやパートのみならず、加盟店の社員など固定給で働く従業員の残業手当の一部も当時まで支給されていなかったという。

 しかも未払いが始まった時期は不明で、少なくとも1978年ごろから続いていたとみられる。同社は記録のない2012年2月以前も含めて、対象者に不足分を支払う方針だ。

鈴木敏文名誉顧問「承知していない」

 今回の問題の根幹は、01年に労働基準監督署の指摘を受けた段階で、同社が正確な計算式をつくらなかったことだ。10日の謝罪会見での石丸和美フランチャイズ会計本部長の説明によれば、「2001年6月、計算式を作った段階で社会保険労務士など外部の有識者に相談した書類などの記録は見つからなかった」という。つまり、外部の有識者にまったく相談せずに当時の労務担当部署が独自に計算式を設定したというのだ。

 不可解なのは、本部側の社員やアルバイトには「正確な計算式」を導入していたのに、なぜFC側のみ「誤った計算式」がつくられ、その後、約20年にも渡って誰にも気が付かずに運用され続けていたのかということだ。

 加えて、計算式が導入されるきっかけになった労基署の指摘があったことを、同社は公表していなかった。公表しなかった理由を、永松社長は「なぜ公表しなかったのかはわからない。当時の稟議書、役員会の議事録には労基署の指摘に関する記載がなく、当時労務を担当していた社員にも聞いたが知らなかった」と説明する。さらに永松社長はセブン‐イレブン・ジャパン創業者でもあり、当時、経営トップだった鈴木敏文名誉顧問にも今回の件を聞いたが、「承知していなかった」と話したという。

 だがこの説明だと、現在問題となっている「誤った計算式」をつくる発端となった01年の労基署の指摘を、創業者も、役員も、担当者も知らなかったことになってしまう。にもかかわらず、社内の誰かが誤った計算式を独自で立ち上げたということなのだろうか。

「この給料で嫌なら辞めろ」

 千葉県内で約20年にわたってFC店を運営する経営者は次のように語る。

「ちょうどうちの店が開店したころは、コンビニバイトは経営側の買い手市場でした。早稲田や慶應の学生も、普通に応募してきたものです。その後、ITバブルがはじけて就職氷河期が本格化したころがピークだったと思います。ちょっとでもバイト代がもらえればいいという若い人はたくさんいました。当時の本部は今よりもっとイケイケな雰囲気でしたから、『労基署が細かいことをごちゃごちゃ言うからしょうがない』という感覚だったのかもしれません。昔は本部社員が店に来て、バイトに対して『いくらでも人はいるんだ。この給料で嫌ならやめろ』とか言っていましたしね。

 時代は変わって、少子化で若年人口は減り、セブンだけで店舗数はこの20年で約1万店舗も増えました。もはやバイト人材確保のために、現場はてんてこまいです。24時間営業の問題も、新規出店計画も、創業当時から変わらないフォーマットをごり押ししてきた結果が、現在のこの状況です。

 今年1年で蔓延したセブンに対する悪印象は、正直重いです。今後一層、人員確保も厳しくなるでしょうし、目に見えて売上も減っています。しかし、これもFC店の努力不足になってしまうのかもしれません」

 永松社長が掲げる社会環境に合わせた変革は完遂されるのか。2020年は同社にとって本当の正念場になりそうだ。

BusinessJournal編集部

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