矢野耕平「塾の小窓をのぞいたら」

中学受験は「親」次第?途中でつまずく子/やり抜く子の「親」の共通点

「Getty Images」より

中学受験は順風満帆にはいかない

 中学受験は「子どもの意志」でスタートすることなどほとんどない。子の将来を考えた際に、保護者がよかれと考え導いていく世界である。そういうものだと思う。ただし、保護者に「勉強させられている」という感覚を子に持たせては絶対にならない。

 中学受験は順風満帆にはいかないもの。苦手分野に出くわしたり、スランプに陥ったりしたとき、「わたしは(保護者によって)塾に通わせられている」と子どもが思い込んでしまっていると、勉強が思い通りにいかない場合など子が他責的になってしまうことが多く、結果的に受験勉強の途中で挫折してしまうこともある。

 保護者のなかには「こんなに小さな子が塾通いするのはかわいそうだ」と感じてしまう人がいるかもしれない。もし、そのような感情が拭い去れないなら、子を中学受験の道へ導くのは潔くあきらめたほうがいい。保護者のそんな同情は子どもにやがて伝播し、中学受験勉強の「踏ん張りどころ」で踏ん張れずにそのまま脱落してしまうからだ。「勉強させられている自分は『かわいそう』な存在である」と考える子が、中学受験に向けたハードなカリキュラムを消化できるわけはない。

中学受験をする子は「かわいそう」?

『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)

 それでは、中学受験勉強に早期から打ち込んでいる子どもたちは「かわいそう」なのか。わたしはそんなことは思わない。むしろ、中学受験というチャンスが与えられている「恵まれた」子どもたちだと考えている。

 よく考えてみよう。「勉強」ってつらく苦しいものなのだろうか。もちろん、そういう側面もあるかもしれない。しかし、算数だって国語だって、理科、社会だって、多くの知識を身に付ければ身に付けるほど、子どもたちの視野は格段に広がっていく。それは、とても楽しく思えることだ。

 たとえば、中学受験の社会では「地理」「歴史」「公民」の3分野の学習をかなり深いレベルまで踏み込んでいく。「公民」の内容の一例を挙げると「国会」「内閣」「裁判所」といったことから「世界情勢」まで幅広く学んでいく。そんな中学受験生たちと、中学受験をしない小学生がニュース番組を見たら、「見える景色」が大きく異なるはずだ。

「ああ、いまの首相は改憲を目論んでいるけれど、自衛隊の位置づけをどうするのかは難しいよな。憲法9条を改めることには反対勢力が多いだろうし」

 中学受験生ならニュースを見ながら自然とそんな感想を持っても不思議ではない。そうなのだ。中学受験勉強は子どもたちの「世界」を広げていく実にエキサイティングなものである。

中学受験をする子は幸せである

 勉強は「楽しい」ものだと表現したが、もちろん膨大な知識を覚えなければならないときもあれば、思うように成績が伸びないなど、つらくて苦しい時期もある。でも、これは勉強特有のものではない。スポーツだって同じではないか。たとえば、野球に打ち込む少年だって、日々のハードな練習に悲鳴を上げることもあれば、ときには逃げ出したくなることもあるだろう。でも、それを乗り越えたときには大きな喜びが待っている。

 だからこそ、中学受験の世界に身を置ける子どもたちは幸せだとわたしは考えるし、子を中学受験の道に導く保護者サイドも本気でそういう価値観を持たなければならない。そのような考えで子の中学受験を後押しすることができれば、長期間にわたる子の中学受験に寄り添う準備ができたといえるだろう。

ご褒美が子どもを勉強嫌いにする

 ところで、いままでわたしは多くの中学受験生の保護者と接してきて、「良い成績が取れればご褒美を用意する」タイプの保護者の子は勉強面で大きくつまずいてしまうケースが多いことに気づいた。これはどうしてだろうか。その理路を説明しよう。

「褒美」を用意するということは、換言すれば「勉強とは苦役である」という考えを子の心に刷り込んでしまうということだ。子どもは「つらいことに我慢したからこそご褒美がもらえる」といつの間にかそういうふうに思ってしまうのだ。そして、「褒美をとらす」というその行為は、子が勉強して成果を出すのは保護者の「利益」のためであると子が思ってしまう危険性を孕んでいる。

 だってそうだろう。殿様が家来に「褒美を遣わす」のは、たとえば、殿様の敵を排除したとか、殿様に対して謀反を起こそうという企てを未然に防いだとか、殿様にとって「よいこと」をその家来がもたらしてくれたからである。

 勉強、学習とは、子が確かな教養を備えるためのものであり、中学受験の世界に絞っていうと「子が好きな学校で中高生活を謳歌できる」ために行うもの。つまり、学習の主体は子ども自身にあるわけだ(当たり前だが)。勉強とは「子が自分自身のために」行うものだ。

我が家は中学受験に向いているのか?

 これから中学受験を始めようか検討している保護者に、わたしはよくこんな質問をされる。

「ウチの子、中学受験に向いているでしょうか?」

 正直に答えよう。中学受験に「向いている子」「向いていない子」などほとんどいない。でも、子を中学受験させる親の「向き」「不向き」はあるように感じている。

 わたしは12月13日に予備校講師の武川晋也氏との共著『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)を刊行する。本書ではいまの中学受験・高校受験・大学受験の実情を横断的に描いている。そのなかで、中学受験の経験が「善」にも「悪」にもなる子どもたちの「生々しい」実例をいくつも紹介している。

 我が家は果たして「中学受験向き」なのか? そんな不安を抱えている保護者にとっての「羅針盤」になるような内容を盛り込めたと自負している。ぜひ手に取ってもらえたら幸いである。

 次回の記事では中学受験の経験がかけがえのない「財産」となった生徒の実例を紹介したい。

(文=矢野耕平/中学受験指導スタジオキャンパス代表)

矢野耕平/中学受験指導スタジオキャンパス代表

1973年生まれ。大手進学塾に13年間勤めたのちに、中学受験専門塾スタジオキャンパスを設立、代表に就任。現在は、東京・自由が丘と三田で2校を展開。また、国語専科・博耕房の代表も務める。
様々なオンラインメディアで中学受験や国語教育について記事を執筆中。著書に『男子御三家』『女子御三家』(ともに文春新書)、『13歳からの「気もちを伝えることば」事典』(メイツ出版)、『旧名門校 VS. 新名門校』(SB新書)など多数。最新刊は『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)。
2児の父。
株式会社スタジオキャンパス

Twitter:@campus_yano

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