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ヤフーは“無名ブランドの寄せ集め”化するZOZOを買ってしまった…モール型サイトの限界

文=沼澤典史/清談社
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左から、ヤフーの川邊健太郎社長、ZOZOの澤田宏太郎社長、ZOZO創業者の前澤友作氏(写真:つのだよしお/アフロ)

 今年9月、ヤフーによるZOZOの買収が大きな話題となった。ファッション通販サイトで他を寄せつけない不動の地位にあったZOZOだが、近年は売り上げが伸びずに失速気味だったという。

 一方、総合ECサイトの分野でアマゾンや楽天に追随したいヤフーにとってZOZOを手に入れるメリットは大きく、ウィン・ウィンな買収劇と評されているが、これによって業界勢力図はどう変わるのか。ファッション通販サイトの現状と展望について、ファッションビジネスコンサルタントの北村禎宏氏に聞いた。

「ZOZOなら安泰」から「ZOZO離れ」へ

 9月12日、ソフトバンク傘下のヤフーが「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの買収を発表した。ヤフーによると、収益面でネット広告依存からの脱却を図り、ネット通販を第二の柱にするためだという。

 これまで、ZOZOはファッション通販では無敵を誇ってきた。そんな大手を傘下に収めたことで、今後はヤフーがアマゾンや楽天などのライバルを猛追し、勢力図に変化が起きると予測されている。まず、ZOZO買収以前のファッション通販事情について、北村氏はこう語る。

「量的にはZOZOの一強で間違いなかったです。ファッション通販の黎明期、ブランド側はECサイト出店によるイメージの低下と店舗の売り上げ減少を懸念していましたが、ZOZOはそれらを払拭するほどの力を発揮しました。ブランドとしては『アマゾンや楽天ではなくZOZOに出店していれば安泰』という時期があったのは事実です」(北村氏)

 ZOZOは2004年のサイト開設以来、ファッションに関心の高い20~30代の若者層を中心に顧客を獲得してきた。ブランドの世界観を壊さないサイトづくり、詳細なサイズ表記や品揃えの豊富さを武器に、「試着が必要な服はネットで売れない」という常識を覆し、国内最大のファッション通販サイトにまで拡大した。

 開設当初は「ユナイテッドアローズ」や「ビームス」などの有名セレクトショップ系のブランドが中心で、利用者にとっても「ZOZOで買えば間違いない」というイメージが強かった。そのため、出店を希望するブランドも続々と増えていった。

 しかし、ZOZOの隆盛も長くは続かない。近年はブランドからの信頼が低下し、「ZOZO離れ」が加速していた。

「質的にかなり劣化していたことは明らかです。そもそもファッションブランドの存在意義は、その『ブランド力』によって価格競争に左右されないこと。しかし、ZOZOはクーポンや割引を連発し、価格面で訴求するしか打つ手がなくなっていきました。『ZOZOARIGATO』は、その象徴でしょう」(同)

 ZOZOでは「周年記念」と銘打ったブランド負担のディスカウントクーポンが常態化していたが、さらに昨年12月末からは「ZOZOARIGATO」を開始した。会費を払うとZOZOTOWNでの購入が一律10%割引となるキャンペーンで、これを嫌った「オンワード」「ミキハウス」「4℃」などの有名ブランドがZOZOから撤退し、その後もブランドの流出が続いた。

「割引によるブランドイメージの低下もZOZO離れの一因です。それに加えて、メーカーが問題視したのは顧客情報の所有権がブランド側にないこと。ZOZOに限らず、アマゾンや楽天などのモール型ECはすべての顧客データをモール側が所有しています。そのため、ブランド側は個別の顧客データを得られず、効果的なプロモーションができないのです」(同)

 また、ファッション業界では商品とともに販促物などを同包するプロモーション法があるが、楽天やZOZOなどモール型からの発送では商品以外の同梱物は許されない。そのため、ブランド側から顧客に有効にリーチできないという事情が、年を追うごとに問題視されていったのである。

「モール型に出店すれば瞬間風速的な売り上げは稼げるが、継続的に拡大していくCRM(顧客関係性マネジメント)型のビジネスはできない。ZOZOなどのプラットフォームが、保有するデータを分析してブランドごとのプロモーションをやってくれるはずはないですからね。顧客情報が活用できないため、ブランド側がプラットフォーム内でできることは限られてしまうのです」(同)

ヤフー「PayPayモール」にZOZOTOWNも出店

 ZOZOを買収したヤフーは10月から新ECモール「PayPayモール」をスタートさせ、ZOZOTOWNも同モールに出店する。今後、ファッション通販サイトの勢力図はどのように変化するのだろうか。

「アマゾンや楽天、ZOZOを取り込んだヤフーなどのプラットフォームに、ハイブランドは参加しなくなるでしょう。前述のように、有効なプロモーションができず、イメージが損なわれることをブランド側は学習しましたから。そのため、大手通販サイトで売られるのはコモディティ化した衣料品が多くなっていくでしょう」(同)

ハイブランドなきファッション通販サイトでも、一定の需要はあるだろう。しかし、若者への訴求力はなくなり、各サイトが差異化を図るのは難しくなってしまう。

「現在、ハイブランドは独自のサイトを拡充させています。総合アパレルTSIは、すでに自社ブランドサイトの通販に力を入れ、ビームスも直営サイトを全面リニューアルしました。今後は総合アパレルやセレクトショップが自社サイトの通販を確立し、その他のブランドがそれをマネる、という形になると思います。一方で、名もなきブランドはアマゾンなどのモールに依存し、コモディティとハイブランドの線引きが明確になるでしょう」(同)

 北村氏によると、ネット通販と店舗に来店する顧客の情報を照合すると、年間を通じて客単価が高いのは両方で購入する人だという。つまり、いかにネットと店舗で相互集客するかがカギとなり、そのためには独自のプロモーションが欠かせないことになる。言い換えれば、「ロイヤル顧客予備軍にブランド側が自ら手を出せないという点が、モール型ビジネスの限界」(同)というわけだ。

 これらの事情を踏まえると、今後のファッション通販はモール型ではなく、各ブランド独自の動きが激化していくことになりそうだ。ZOZOがヤフーに買収されるという動きは、隆盛を誇ったモール型ファッションサイトのあり方に一石を投じるものになるのかもしれない。

(文=沼澤典史/清談社)

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
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