ユニクロ柳井氏「日本人は全部ヒステリー」発言、韓国内で異常に話題になっている理由

ユニクロ・柳井正会長(写真:ロイター/アフロ)

 韓国でたびたび不買運動にさらされてきた、ユニクロ。だが11月には韓国ユニクロの15周年記念で、ヒートテック10万着を買い物客に無料でプレゼントするイベントを行い、開店前から行列ができる盛況となった。

 こうした現象をどう見るか。元在韓国大使館一等書記官で大東文化大学教授の高安雄一氏は語る。

「ユニクロは衣服を扱っているので、外から見えますから『おまえ、なんでユニクロ着てるんだ』ということになって、不買運動の標的になりやすいということがあります。今回、ユニクロに行列ができたということに対しても、ネットでも批判が出ています。だけども、たとえば床暖房やガスコンロを売っているリンナイは、家で使うもので外から見えないので不買運動の標的にはなりにくいですね。日本から進出している部品工場なども、韓国の元請けが不買をするかといったら、そんなことをしたら自分の首を締めるだけなのでしません。

 衣服というのは、見えるので標的になりやすい。ゴルフウェアを扱っているオンワード樫山は、業績悪化で10月に韓国からの撤退を決めました。ゴルフウェアと比べたら、ヒートテックは韓国に浸透しています。韓国は日本と比べたら、もの凄く寒いですから。ゴルフウェアなら日本製以外を買えばいいということになりますけど、ヒートテックという安価で性能のいいものはユニクロ以外にないので、不買運動もある種、我慢比べのようになりますね」

韓国の世論、反日から反安倍に

 ユニクロといえば、創業者の柳井正会長(70)のインタビューが10月9日に「日経ビジネス」に掲載され、韓国で話題になった。取り上げた中央日報の見出しは『ユニクロ会長「日本は最悪、韓国が反日なのは分かる」…安倍政権に苦言』。

 インタビューの内容は「(日本は)ひょっとしたら、発展途上国になるんじゃないかと僕は思うんですよ」として、日本の社会全体を俎上に上げたものだが、安倍政権の経済政策を失敗と見なし、「(憲法改正よりも)日米地位協定の改正の方が、将来よほど必要ではないでしょうか」と対米従属を問題にするなど、かなり踏み込んだ内容だ。

 韓国への言及は全体から見れば僅かなもの。「韓国にみんながけんか腰なのも異常ですよね。韓国の人が反日なのは分かりますよ。でも日本人は本来、冷静だったものが全部ヒステリー現象に変わっている。これではやっぱり日本人も劣化したと思います」と語っている。

「中央日報だけではなく、朝鮮日報、東亜日報、毎日経済、聯合ニュースなどのマスコミがこぞって取り上げています。日本の日経ビジネスという1つのインタビュー記事を、韓国紙がこぞって取り上げるというのは異例なことです。韓国の日本に対する世論は反日というよりは、反安倍というものに変わってきています。安倍政権が韓国に対して強硬だということに焦点が当たってきているわけですね。ユニクロは韓国でも知らない人がいない企業で、そのカリスマ的な経営者である柳井さんが、安倍政権を批判したということ。韓国もアメリカには逆らえないことでは同じなわけですけど、日本とアメリカの関係に物申したということ。そこが韓国の人々の心に入り込んだんだと思います。

 おもしろいのは、柳井さんが韓国に言及した部分について、朝鮮日報なんかは、ヒステリー現象というのは日本のことを言っているようで、実は韓国のことを言っているんじゃないかって書いているんですよ。日韓関係がギクシャクしていると言っても、日本では民間レベルで韓国製品の不買運動みたいなものは起きていないわけですから。嫌韓本が書店に並んでいるとか、ヘイトスピーチが行われているということはありますけれども、それらは現象的には目立ちますけど実際にはごく一部です。99%の国民は韓国に対して冷静に対応しているわけです。

 柳井さんは安倍政権について、もうちょっと韓国に対しては柔軟にやってもいいんじゃないかと言いたかったのかもしれませんが、そういった捻った捉え方もされています。柳井さんのほうとしては、韓国での不買運動を意識したものではなくて、常々考えていた持論を展開したもので、それがたまたま韓国でめちゃくちゃ受けたということでしょう」

日韓間、みえにくい強固な関係

 この間の日韓の大きな出来事としては、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の延長がある。本年8月23日、韓国政府は、GSOMIAの破棄の通告を日本政府にしてきた。だが失効直前の11月23日午前0時直前、破棄を停止すると韓国政府は決定した。

「GSOMIAの破棄を言い出せば、アメリカが韓国に有利なように仲裁してくれるだろうというのが、韓国の読みだったわけですね。ところがアメリカの取った姿勢は、日本の主張はそのままにして、韓国に一方的に降りろというもので、韓国の目論見は外れてしまったわけです。GSOMIAが続いて安全保障上の繋がりが維持できたんで、日米韓にとってはよかったんですが、日韓関係には一つのしこりが残ったということになるでしょう。

 文在寅政権はかなり追い込まれたと思います。経済においても政治においても、韓国は勝ち負けで考える傾向が強いんですね。今回のGSOMIAの件は誰が見ても韓国が譲歩したということなんで、韓国人としてはおもしろくないでしょう。今後、徴用工問題で差し押さえられている日本企業の資産が現金化されてしまうかもしれないという問題があります。徴用工問題の解決のため、日本の企業も資金を出して一緒に基金を作って、それで慰謝料相当額を支給するっていう案が韓国から出ているわけですけれど、日本としてはあり得ない話なわけですね。徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みのはずで、韓国政府もずっとそう言ってきたわけですから。

 そういうさまざまな問題があるので、日韓関係がよくなる兆しはないですね。ただユニクロとかが不買運動の矢面に立たされて苦労されているわけですけれど、日韓の経済というのは衣服のような消費財よりも、部品などの中間財で繋がっているので、地味なところで強固な関係が維持されるというのが私の見立てです。そして、韓国にとって日本はライバルでもあるわけです。

 柳井さんは、このままでは日本はダメになるということを言ってるわけですけれども、韓国でもこの先ちょっと大丈夫なのかという悲観論があって、日本も大変なんだ、お互いがんばらなきゃいけない、ということで共感されているということもあるようです」

 まだまだ多難が続く、日韓関係。柳井氏の発言が韓国で共感されたのは、一服の清涼剤といったところか。

(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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