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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クリスマス、12月25日ではないとの見解が有力に…キリストの誕生日は5月か

文=篠崎靖男/指揮者
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 ところで、こういった聖遺物はヨーロッパ中にたくさん散らばっており、実際に本物かどうかは、それこそ“神のみぞ知る”です。それは中世の考古学的検証がない時代に、イスラム教徒に占領されていた聖地を奪還するためにエルサレムに向かった十字軍兵士たちが、記念になる戦利品を手に入れようと、「この辺りが、キリストが十字架にかけられた場所のはずだ」とか、「ここで最後の晩餐をしたはずだ」などと適当に掘り、出土したものを「これはキリストの骨に違いない」「これは聖杯に違いない」といった説明を加えてヨーロッパに持ち帰ったものが、今では聖遺物として大切に保管されているのがほとんどだからです。

 聖杯の話が出ましたが、映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(パラマウント)のなかで、考古学者のインディがナチス・ドイツと争ったのは、キリストの聖遺物中の聖遺物である“聖杯”です。聖杯とは、キリストが最後の晩餐でワインを飲んだグラスで、十字架上のキリストの血も受け止めたといわれています。所有すれば奇跡を起こすことができるとして、今もなお世界のどこかに隠されていると信じられている、ヨーロッパでは誰もが知る大ミステリーです。

 この聖杯伝説を基に、ドイツを代表する作曲家ワーグナーは4時間半に及ぶオペラ『パルジファル』を作曲し、このオペラを上演するためだけに、ワーグナーに心酔していたバイエルン国王ルードヴィヒ2世に大劇場を建てさせました。そのような散財の結果、バイエルンの国庫は深刻な状況となり、国王は湖で謎の死を遂げてしまいますが、国王も“聖杯の呪い”に取りつかれたともいえます。そんないわくつきの『パルジファル』は、“聖槍”まで登場するなど、ミステリーのオンパレードです。ちなみに聖槍とは、キリストが十字架にかけられた際に、死んだことを確認するためにローマ兵がキリストのわき腹に刺した槍のことで、この槍を持てば世界を征服できるといわれていたのです。

 実は現在、聖槍はオーストリアのウィーンにて一般公開されています。ウィーンに持ち込んだのは、かのナポレオンです。しかし、聖槍を手にした彼の末期はみじめなものでした。南半球の絶海の孤島セントヘレナ島で、屈辱的な扱いを受けながら非業の死を遂げてしまいます。そしてその後、聖槍を所蔵していたオーストリアのハプスブルク皇室も、第一次世界大戦で終焉を迎えてしまいます。実は、これだけで話は終わらず、第二次世界大戦が勃発し、ナチス・ドイツのヒトラーが、聖槍を手に入れて世界を征服しようと奪い取ったのです。しかしご存じの通り、ヒトラーも滅びてしまうだけでなく、多くのユダヤ人を苦しめることになりました。聖遺物を悪用すると災いが起こるのかもしれません。

 さて、この飼い葉桶の木片ですが、これも本物かどうかは皆様のご想像にお任せしますが、ベツレヘムの聖誕教会のパットン神父は、返還された木片について「今から2000年以上も前にベツレヘムで聖母マリアのもとに神の御子が生まれたということを、私たちに思い起こさせてくれるゆえに、われわれはこの聖遺物を崇敬します」と語り、人々を感動させました。そして、この聖遺物の返還を、クリスマスまで幸せに祝うそうです。このベツレヘムの教会は、僕も訪れたことがありますが、キリストが生まれたといわれている場所が地下にあり、クリスマスに向けて毎年、世界中のキリスト教徒たちが集まるのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

クリスマス、12月25日ではないとの見解が有力に…キリストの誕生日は5月かの画像2

●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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