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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックオーケストラ楽員が持つ“特殊能力”…彼らは安くて美味い店を探り当てる

文=篠崎靖男/指揮者
【完了・28日掲載希望】クラシックオーケストラ楽員が持つ特殊能力…彼らは安くて美味い店を探り当てるの画像1
「Getty Images」より

「明日の地方公演ですが、主催者からお弁当が用意されています」

 クラシックオーケストラでは、リハーサルの前に事務局からいくつかの伝達事項を楽員に伝えられるのですが、このように最後にさりげなくアナウンスされると毎回、楽員は大喜びします。

 バブル期の頃、各市町村は競ってコンサートホールをつくっていました。ちょうど、ホールの音響設計レベルが上がっていたこともあり、現在の日本は、どこに行っても一定水準を超えた素晴らしいホールがある、世界でも珍しい国です。実際に、音楽の本場ドイツや、イギリスの地方都市では、「こんなひどいホールで演奏しているのか」と思ってしまう場所も少なくはなく、むしろ日本の地方都市のホールのような演奏会場があれば、オーケストラにとって大幸運といえるくらいです。

 ただ、日本の市町村のなかには、急に計画してつくったホールも多かったので、田んぼの真ん中にポツンとコンサートホールがあるような場所も少なくなく、そうでなくても町中から離れているホールが多いのです。そうすると、楽員が食事をする場所や、食事を購入できるコンビニエンスストアやスーパーマーケットが近くになかったりして、実際に弁当が必須という事情もありますが、何より弁当が支給されること自体が嬉しい出来事なのです。しかも、スタッフも合わせて80名くらいになるオーケストラのメンバー全員が同時に食事をするところを探すのも難しいので、楽屋でめいめい自由に食べてくれる弁当の存在は、オーケストラの地方公演を支えているといっても過言ではありません。

 これは、海外のオーケストラでも同じです。弁当の中身が安っぽいサンドイッチとポテトチップス、リンゴ1個だけだったのを見た時には、日本の素晴らしい楽屋弁当に慣れていた僕は驚いてしまいました。しかし、そんなランチボックスでも、みんな喜んで手に取っていく光景は、世界中どこでも同じです。

 日本では、その土地の名物が入った弁当もあり、みんな大喜びすることもあれば、時には「これはどうかなあ?」と首をかしげたくなるような弁当もあります。もちろん、ありがたく頂く気持ちは同じですが、主催者が依頼した業者が、朝から心を込めてつくっていることがよくわかる弁当に出合ったときには、演奏会自体がとても良い雰囲気で進んでいくように思うのです。

 遠くから演奏にやってきてくれた楽員をもてなしたいという主催者の気持ちと、依頼された業者の地元の文化に対する理解があって出来上がる弁当だからかもしれません。たかが弁当なのですが、音楽家は当日にやってきてリハーサルと演奏会をして、さっと帰っていくわけで、ほとんどの時間は演奏と準備に神経が取られているので、唯一、ホールからのもてなしを感じるのは弁当を通じてのみ、となってしまうこともあるからです。

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