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競馬マニアの私も知らなかった「馬主」の世界と「馬の完歩数を数える」予想戦術

文=小川隆行/フリーライター
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競馬マニアの私も知らなかった「馬主」の世界と「馬の完歩数を数える」予想戦術の画像1
競馬の様子(「Wikipedia」より/Pastern)

 長年、競馬雑誌に携わってきた私は、騎手や調教師のインタビューを幾度となく行ってきた。馬に直接接する人たちの考え方も、馬券予想につながると考えていたためだ。

 そんななか、ほとんど接点を持たなかったが存在がある。馬主だ。馬主とは、競走馬の育成に直接携わることなく、金を出す存在である。財を成した成功者だが、悪く言えば「成金」というイメージもあったなか、「競馬を愛するがゆえに金を出す」ということを教えてくれる作品に出会った。

馬券だけでは見えてこない「競馬の本質」

 馬主をテーマに、競馬の本質を読ませてくれる小説。それが、今年10月に出版された『ザ・ロイヤルファミリー』(新潮社/早見和真)である。

 物語は、中小牧場生産の素質馬に金を出す中小企業経営者と、その一族が中心となっている。一族とかかわる騎手や調教師、生産者の姿が圧倒的なリアリティで描かれている。

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『ザ・ロイヤルファミリー』(新潮社/早見和真)

 たとえば「食事の席での空気感」。ライバルの馬主が自分の所有馬を高評価する場面では、その言葉の裏側を読み解いていく。負けず嫌いの馬主たちのやりとりが、とてつもなくおもしろい。そのほか、凱旋門賞出走馬の騎手が外国人となる場面など、「これはあの騎手がモチーフでは?」と競馬ファンが想像を膨らませる描写にいくつも出くわす。これらの展開が、競馬ファンの琴線を刺激してくれるのだ。

 5年以上にわたって数多くの関係者を取材してきたという著者の早見和真氏は、当初は馬主を「得体の知れない存在」だと感じていたそうだ。しかし、取材を進めていくと、その先入観はガラリと変わり、小説の主人公となる馬主像が立ち上がってきたという。

 また、本書は馬主のみならず、騎手・調教師・厩務員・生産者・競馬記者・競馬会職員など、総勢数百名もの関係者への取材により描かれた濃密な作品である。そのため、長年競馬に携わっていた私でも知らなかったことがいくつか描かれている。

 物語の核となっているのは、「相続馬限定馬主」という制度だ。JRA(日本中央競馬会)の場合、新たに馬主になるには7500万円以上の総資産と2年連続1700万円以上の年間所得という条件を満たさなければならないが、馬主が死去した場合には特例として相続馬限定馬主になることができる。

 また、予想戦術においても興味深い描写がある。馬の完歩数を数えるという手法だ。数多くの馬券戦術を研究してきた私でさえ、初めて聞く戦術だった。早見氏と昵懇の間柄である川島信二騎手の協力により、描くことができたという。

 私を含め、多くの競馬ファンは馬券を通じて競馬と対峙しているが、馬券だけでは見えてこないものがある。それに気づかせてくれるのが、本書の価値である。

『ザ・ロイヤルファミリー』のテーマのひとつになっている有馬記念は、12月22日に開催される。競馬ファンがもっともワクワクする有馬ウィークに、その予想とともに競馬のディティールに触れれば、競馬における視野は間違いなく広がるだろう。

(文=小川隆行/フリーライター)

『ザ・ロイヤルファミリー』 継承される血と野望。届かなかった夢のため――子は、親をこえられるのか? 成り上がった男が最後に求めたのは、馬主としての栄光。だが絶対王者が、望みを打ち砕く。誰もが言った。もう無理だ、と。しかし、夢は血とともに子へ継承される。馬主として、あの親の子として。誇りを力に変えるため。諦めることは、もう忘れた――。圧倒的なリアリティと驚異のリーダビリティ。誰もが待ち望んだエンタメ巨編、誕生。 amazon_associate_logo.jpg

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