見方を変えると、日立は自ら、日立という企業の常識を覆そうとしているようにさえ見える。長い間、「日立は電機メーカー」と考える人は多かったはずだ。日立の経営を見ても、同社はプロダウトアウトの考えをもとに、自社の考えを起点に電気製品などを開発・生産・販売し、成長を目指してきた。

 しかし、新興国企業のキャッチアップやテクノロジーの開発とともに、事業環境は変化する。その変化に対応するには、発想を転換しなければならない。日立は、他社との協働を通して、さまざまな業界における問題解決のためのソフトウェアやシステムを提供し、それを収益につなげようとしている。

 これは、日立がマーケットインの発想を重視していることを意味する。日立は、ハード(エレクトロニクス製品)を開発し販売する企業からの飛躍を目指しているといってもよい。目指されていることは、コンサルティングなどを通して社会全体にソリューション(新しい取り組みを進めるための具体的な方策)を提供することだろう。将来的には、日立が社会の問題解決に貢献する新しいデバイスなどを開発し、成長を目指す展開も考えられる。

今後の改革進展のロードマップ

 先行きの展開には不確実な部分もあるが、リーマンショック後に進められてきた日立の経営改革には有効と考えられる部分が多い。日立の改革が有効と考える理由のひとつとして、ルマーダ事業の売上が着実に伸びている。2018年度通期のルマーダ事業の売り上げは1兆円を超えた。顧客企業の経営改善や社会インフラ分野でルマーダは需要を取り込むことができている。

 世界経済の変化のスピードが加速化していることを考えると、ルマーダ事業の成長は重要だ。また、世界的に人手不足が大きな問題となっていることを考えると、データ分析を通した業務改善などの需要は今後も増加する可能性がある。

 また、日立は各事業が自律的に判断を下し、変化に対応できるよう組織体制も再構築してきた。その一例として、鉄道システム事業ではグローバルな意思決定機能をロンドンに移し、事業全体が統括されている。それは日立が世界の社会インフラ運営に関する問題や潜在的なニーズを発掘し、ルマーダの活用を通して収益を獲得することにつながるだろう。

 同時に、世界的にIT先端分野での競争は激化している。すでに、中国や米国では量子コンピューターや6G通信など次世代テクノロジーの研究が進んでいる。情報通信技術の革新とともに世界経済の変化のスピードはさらに加速化し、そのマグニチュードもより大きくなるだろう。

 日立が変化に適応し、さらなる成長を実現するためには、低収益事業の見直しと成長分野への経営資源の再配分などの改革を更に深化させる必要があると考えられる。経営陣に求められることは、変化のスピードが加速化する可能性が高まっていることをしっかりと認識し、それに遅れないよう組織をまとめ、改革を続けることだろう。

 改革が進むに伴い、日立の経営風土は大きく変わる可能性がある。問題は、それにすべての組織構成員がついてこれるか否かだ。日立にとって、事業ポートフォリオの改革だけでなく、人材育成の重要性も増しているとみられる。同社の経営陣には改革に伴う組織の不安定化などを抑えつつ、不退転の決意のもと改革を貫徹する姿勢が求められていると考えられる。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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