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ソニー、過去最高益更新、死角なき繁栄…ものづくり企業へ回帰、「CMOS」企業に変身

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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ソニーの社屋

 市場関係者の間で、ソニーの復活に向けた期待が徐々に高まっている。12月に入り、株価は過去5年間の最高値を更新した。その背景の一つとして、同社が画像処理に用いられるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサー事業の好調さがある。

 もともと、CMOSイメージセンサー市場におけるソニーの競争力は高い。同社の世界シェアは約50%に達する。2位の韓国サムスン電子のシェアは20%程度だ。今後も、ソニーが画像処理分野での研究・開発をさらに進め、同社の収益の柱としての地位を一段と強化したいと考えていることだろう。

 ソニー経営陣は、最先端分野でのモノづくりの重要性を認識し、それを高めることが自社の長期存続を支えるとの見解を示している。この姿勢も、“ものづくり企業”であるソニーの成長には欠かせない要素だ。一時、ものづくり企業の軌道から離れていたソニーのこれからの進む道を注目したい。

ソニーの業績拡大を支えるCMOSセンサー

 近年、CMOSイメージセンサー事業は、ソニーの業績拡大にとって重要なファクターの一つとなってきた。2019年度上期の大手電機企業の業績を見ると、ソニーの好調さが際立つ。多くの企業が、米中の貿易摩擦や中国経済の減速に直撃され、減益に陥った。一方、3期続けてソニーは、上期業績が過去最高を更新した。

 今後もソニーが持続的な成長を目指し、実現するために、画像処理センサー事業の重要性は高まると考える。現在の世界経済を見渡すと、日常生活から企業の生産活動など、さまざまな分野でより多くの画像処理センサーが用いられている。端的な例に、スマートフォンカメラの複眼化がある。

 また、自動車一台に搭載される画像処理センサーの数も増加傾向だ。それは、多くの自動車に自動ブレーキが搭載されていることから確認できる。自動ブレーキシステムは、複数のカメラに組み込まれた画像処理センサーによって道路状況を把握し、危険を回避する。ソニーは、CMOSイメージセンサーの開発に取り組むことによって、雨天、濃霧、逆光などさまざまな環境下におけるより安全な自動車の走行を支えてきた。2021年に政府は自動ブレーキ搭載の義務化を目指している。加えて、世界的に自動運転技術の研究・開発も加速化している。さらに多くの、より高性能な画像処理センサーへの需要は高まるだろう。

 また、世界的なIoT(モノのインターネット)への取り組みとともに、これまで目視に頼ってきた作業などの省人化も進むだろう。企業の生産ラインにおける品質管理、農作物の育成状況、異常気象による自然災害の防止など、多くの分野で高性能の画像処理センサーへの需要は高まると考えられる。センサーを通して得られた画像データを人工知能(AI)で分析することにより、人々は実際に起きていることを、より詳細に理解できるだろう。そうした期待からCMOSイメージセンサーへの需要は堅調に推移しており、ソニーの業績期待も徐々に高まっているようだ。

競争力強化へのコミットメント

 ソニーの成長期待を支える要因として、経営陣のコミットメントも見逃せない。端的に、ソニー経営陣は、CMOSイメージセンサー事業の重要性を明確に理解し、その強化に注力してきた。ソニーはCMOSイメージセンサーの生産能力を増強する方針も示している。その上でソニーは、2025年に世界のイメージセンサー市場におけるシェアを、60%に引き上げたい。

 長年エレクトロニクス業界を担当してきたある投資銀行のバンカーは、ソニーの現経営陣を「非常に心強い」と評していた。ソニーの経営陣は組織全体の向かうべき方向を端的に示すことができている。中長期的な収益の屋台骨が整備され、経営陣が競争力引き上げにコミットするという経営は、外部から見ていても非常にわかりやすい。それは、株主や従業員などの利害関係者がソニーの成長を期待するために欠かせない要素だ。

 重要なことは、ソニーが無から有を生み出すという意味でのモノづくりの重要性を再認識し、それを磨こうとしていることだ。1990年代以降、ソニーはコングロマリット(複合事業体)経営を重視した。金融、映画、音楽、家電など、複数の事業分野においてソニーは成長を目指した。

 しかし、非製造業と製造業には、根本的に異なる部分がある。製造業では、原材料やパーツを仕入れ、そこに新しいテクノロジーを宿し、需要の獲得や創出が目指される。まさに、無から有を生み出そうとするのである。これに対して、金融では、いかにリスクを抑えて資金を調達し、それをより高い利得が見込める分野に投じるかなどが問われる。

 ある意味、コングロマリット経営を進めたことは、ソニーがモノづくりの魂を忘れてしまったというべき状況をもたらしたように見える。結果的に、ソニーがどの事業で成長を目指しているか、経営がわかりづらくなってしまった。

 一転して、現経営陣は、コングロマリットからモノづくりへの変革にコミットした。それは、ソニーがCMOSイメージセンサー分野に注力し、業績拡大を実現するために欠かせない取り組みだった。

次のヒット商品の創造を目指せ

 ソニーには、新しい発想を大胆に用いて、より多くの人が必要とするモノを生み出すことが求められる。ソニーが長期の存続を目指すには、常にイノベーションの発揮を目指すことが重要だ。現在の業績を見ていると、円高が進行しているにもかかわらずソニーは増益基調を維持している。ソニーは他企業にとって欠かせない高機能のCMOSイメージセンサーを生み出すことによって、世界経済のリスクに左右されづらい収益基盤を手に入れつつあるようだ。

 それは、ソニー本来の収益獲得力が回復しつつあることを示唆する。1979年、ソニーが「ウォークマン」を世に送り出した時、新しい発想を実装したプロダクトをどうしても手に入れたいと思う人が一気に増えた。それがウォークマンのヒットと、同社の成長を支えた。

 当時と現在で世界経済の環境は大きく異なるが、CMOSイメージセンサーはアップルや中国ファーウェイなど、世界の先端企業にとって欠かせないパーツとして扱われている。技術力を最大限に発揮し、新しいヒット商品の創出を目指すというソニーのスピリット、エネルギーは復活しつつあるといえる。ソニー経営陣には、そのスピリットをさらに高め、組織全体に浸透させてもらいたい。一部株主はソニー経営陣にCMOSイメージセンサー事業の分社化を求めている。経営陣が、その要求を拒否していることは重要だ。

 ソニーにとって、長期存続のためにモノづくりは欠かせない要素と考えられる。現在、CMOSイメージセンサー事業はソニーのモノづくりの根幹といってよい。ソニーはその根をより深く広く張り巡らせ、太い幹を育てたいのだろう。その上で、経営陣がAIやウェアラブル端末、ロボットなど新しい分野に経営資源を再配分できれば、ソニーの魅力には一段と磨きがかかる可能性がある。ソニーは既存の研究開発体制とは独立したAI専門組織も立ち上げる予定だ。ソニー経営陣が新しい発想の実用化を目指して体制の整備と強化に取り組んでいることは、新しいヒット商品の創造を目指すために欠かせない取り組みと考える。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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