NEW
野村直之「AIなんか怖くない!」

AIを敵視するのは電子顕微鏡に嫉妬するのと同じ…「AIは自発的に問題解決」という誤解

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
【この記事のキーワード】

, ,

 最後の、「人物が活動、行動している動画」に、その顔だけ入れ替えて、自然な表情の別人に作り替えるようなAIも実用化されています。Deep Fakeというもので、大きな社会問題になりつつあります。

AIは私たちを不毛な仕事から解放

 いくら専門能力で人間を凌駕するとはいえ、意思も自発性もない道具=今日のAIをライバル視、敵視するのは、まるで電子顕微鏡に嫉妬するみたいで、本来おかしなことです。「超人AI」といえども、できることは、その専門タスクのみ。正解データを1つ見ただけで、あるいは1つも見ないで、別種の経験からの類推、論理的思考力により、初めての接する課題を解決できる人間のような知能は(少なくともまだ)持っていません。

 庶務、雑用といわれるようなこまごまとしているけれど、実は教科書にない創意工夫を伴う仕事をこなす。日々遭遇する新しい事態に即興で対応したり、そもそも何をすればいいかを考えて、受け身でなく自発的に新しい行動を起こしたりする。自ら新種の問題を発見し、それらを解決する。これらのようなことは、少なくとも当面、見通しのきく将来にわたって、AIには無理です。

 人間は、意地や責任感、世のため人のため役に立ちたい、自己実現したいなどの欲求(拙著『AIに勝つ!』をご参照)に突き動かされて、主体的に提案しながら、行動し、責任をもってその提案の有効性を示すことができます。そして描いた大きなビジョンを実現するため、どんな手段が必要かを新たに考案し、ロードマップを描いて第三者を巻き込み、あらゆる工夫を重ねて自発的に責任をまっとうしようとします。

 以上をまとめて、図3「1人の人間を置き換えられる1つのAIはまだ存在しない」と図解しました。

AIを敵視するのは電子顕微鏡に嫉妬するのと同じ…「AIは自発的に問題解決」という誤解の画像4
図3「1人の人間を置き換えられる1つのAIはまだ存在しない」

 ここを勘違いしていると、AI時代の働き方についての議論が成り立ちません。意識や責任感、人格をもった“強いAI”や、教わっていない多種多彩な仕事のやり方を自ら発見し、論理的思考を突き詰めて解決法を新たに発想してくれるような“汎用AI”の実現の目途はたっていません。それらは実現可能だとしてもかなり先の議論であり、SF小説とどっこいであることを肝に銘じておかねばなりません。

 今回の締めくくりに、AIは何ができて何ができないか、人間との比較をしたシンプルな図を示します。初出は、朝日新聞出版「月刊ジュニアエラ」(2019年4月号)の「特集 君たちはどう『働く』か」というもので、小学生にすんなり理解できるようにとの厳命で、誤解を恐れずまとめています。

AIを敵視するのは電子顕微鏡に嫉妬するのと同じ…「AIは自発的に問題解決」という誤解の画像5
図4 人間とAIの能力の対比 ~朝日新聞出版「月刊ジュニアエラ」(2019年4月号)「特集 君たちはどう『働く』か」より

 本連載のタイトルは「AIなんか怖くない!」です。前回と今回の記事で、AIへの恐怖心が和らいだとすれば幸いです。そうして、AIを身近に感じ、AI導入に全力をあげたり、喜んで使いこなしたりする人が増えることを期待します。これにより、生産性が向上し、豊かな社会、個人生活、クリエイティブで楽しい職業生活を満喫できる人がぐっと増える。多種多彩な新たな仕事が誕生し(たとえばカスタマーサポートもこう変わります)、やり甲斐、生き甲斐を感じて仕事をし、生活する人が増える。労働人口の減少に追いつくかは微妙ながら、不毛な仕事から解放される人が増えることはほぼ間違いないでしょう。

「AIなんか怖くない!」と言われて、「では何が怖いの?」という質問が連想されるでしょう。そこで、次回のタイトルは、「怖いのは人間です」を予定しています。どうぞお楽しみに!

(文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

●野村直之

AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科次世代病理情報連携学講座研究員

1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NEC C&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。MITでは、「人工知能の父」マービン・ミンスキーと一時期同室。同じくMITの言語学者、ノーム・チョムスキーとも議論。ディープラーニングを支えるイメージネット(ImageNet)の基礎となったワードネット(WordNet)の活用研究に携わり、日本の第5世代コンピュータ開発機構ICOTからスピン・オフした知識ベース開発にも参加。日々、様々なソフトウェア開発に従事するとともに、産業、生活、行政、教育など、幅広く社会にAIを活用する問題に深い関心を持つ。

RANKING
  • 連載
  • ビジネス
  • 総合