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体育会系男子、経営学修士を取得し、介護業界を変革す!【後編】

介護事業はオワコンではない!群馬の若きMBAホルダーが介護業者を3倍に成長させたワケ

文=宮下公美子/介護ライター
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“マーケットイン”の出店で結果を出す

 事業拡大のため、八木さんが最初に開設したのは、住宅型有料老人ホーム「花みづき新町駅前」である。

 開設した2011年当時、「しんまち元気村」が運営していた唯一の施設、特養「花みづき寮」には、実人数で200人が入所の順番を待っていた。つまり、確実にこれだけの入所ニーズがあるということである。八木さんはここに目をつけた。

 介護施設は制度上、事業者が自由に開設できるものと、そうできないものとがある。ちなみに、特養は事業者が自由に開設することはできない。そこで八木さんは、特養の代わりに同等のケアが受けられる有料老人ホームを開設。入所を待つ高齢者を呼び込むことにした。その運営のため、「株式会社日本ケアストラテジー」を設立。「しんまち元気村」と併せ、「花みづきグループ」として事業拡大を図ったのである。

 ここまでは、介護業界ではしばしば見られる取り組みだ。しかし八木さんは、他の法人とは異なる出店戦略によって、成果を出す。ニーズに合わせてものをつくる、“マーケットイン”である。

 有料老人ホームなどの介護施設を運営する事業者の多くは、持ち込まれた用地等の情報を吟味し、新規施設の開設を検討する。あるいは、大まかな出店計画エリアを定め、そのエリア内で開設可能な用地等がないか、情報を集め、施設をつくる。いわば、ものをつくってから売り方を考える“プロダクトアウト”の発想である。

「しかし私たちは、“マーケットイン”の発想で、こちらから動きます。運営したいサービスに適した土地がどこかをリサーチし、その土地を買収して、出店します。ニーズがあるところに出店するから、計画通りの収益が上げられるのです」

2010年に設立された「株式会社日本ケアストラテジー」。

独自の取り組みで他社との差別化を図る

「花みづき新町駅前」を開設したのは、JR新町駅から歩いてすぐの国道の角地だ。しかも、多くの買い物客で賑わう町一番の大型スーパーもすぐ近くにある。交通量が多く、目にとまりやすい場所に出店し、多くの人の目に触れさせる。そんな宣伝効果を計算した出店戦略である。

 介護のスタイルも、他社とは一線を画した。“結果を出す”自立支援介護を前面に打ち出したのだ。要介護高齢者は、年々、心身機能が衰えていく。要介護度は、次第に重くなっていくのが自然な流れだ。そんな要介護者に生活のなかでリハビリを行い、8年間で10人以上の在宅復帰を実現した。なかには、介護4(7段階の要支援・要介護度で、重いほうから2番目)から、1年後、介護保険非該当(自立)まで回復させたケースもある。

 しかも、これだけの結果を、リハビリの専門職ではなく介護職員が引き出してみせた。八木さんは、職員の介護力アップのため、外部研修への参加を促すとともに、2015年から企業内教育制度「花みづきアカデミー」もスタートさせている。そうして介護職のレベルアップを図ることが、サービスの質を高め、結果として集客に結びつくという好循環を生んでいく。

2法人によって成る「花みずきグループ」では、介護の度合いによって、 デイサービスから特別養護老人ホームまで、多くの施設・事業が運営されている。

集中出店でも法人内で競合しない理由は

 2019年11月現在、「しんまち元気村」と「日本ケアストラテジー」を併せた「花みずきグループ」では、2つの特別養護老人ホームと1つのショートステイ、2つの住宅型有料老人ホーム、4つのデイサービスを運営している。

 特別養護老人ホームは、常駐する介護職のケアを受けながら、人生の最期まで暮らすことができる介護保険の入所施設。一方、住宅型有料老人ホームは、特別養護老人ホームや介護付き老人ホームとは違って介護職が常駐せず、賃貸住宅に近い。外部の介護サービスを利用しながら暮らす施設だ。また、デイサービスは自宅等で暮らす要介護者が、日中通って利用するタイプの介護サービス。食事や入浴、レクリエーション、筋トレなど楽しみながら、半日、あるいは一日を過ごす。

 高崎市新町という狭いエリアに絞って、八木さんは戦略的にこうしたサービスを次々と展開してきた。それでもグループ内で利用者の奪い合いにならなかったのは、拠点ごとに訴求ポイントとターゲットを明確に変えているからだ。

 有料老人ホームでいえば、先述の自立支援型「花みづき新町駅前」にマッチしない高齢者を受け入れるため、2014年には、“長期滞在型”の住宅型有料老人ホーム「休屋(やすみや)」を開設した。こちらは、広い通りから少し入った落ち着いた住宅街にある。入り口にはのれんが掛かり、まるで旅館のような雰囲気だ。

 

黒塗りの外観にのれんが印象的な住宅型有料老人ホーム「休屋」。玄関の引き戸を開けると正面に帳場風のカウンターがあり、旅館さながらの雰囲気。

 特養も、2003年開設の「花みづき寮」がやや年を経ていることから、2017年に新たな特養「さくら寮」を開設した。こちらは無垢の木をふんだんに使った温かみのあるデザインが特徴で、特養らしからぬ雰囲気が人気を集めている。

無垢の木が温かみを醸す、2017年開設の特別養護老人ホーム「さくら寮」。次項で紹介するデイサービス「THE GREEN TERRACE(ザ・グリーンテラス)」と隣接する敷地に立つ。

 収益を上げるには、どれだけ稼働率を上げられるかが肝になる。有料老人ホームでいえば、損益分岐点は80~85%といわれ、それ以上であれば経営は安定する。八木さんが手がけた2つの有料老人ホームは、2019年11月現在、どちらも満室だ。

「事業計画から実際の収益が下振れしたことはありません。調査・分析して、そこから導き出した事業計画の裏付けを十分に取ってから実践すれば、見込みと違うことはまずないんです」

 ちなみに人材面でいえば、2009年にはパート職員も含めて約20%だった離職率は、2015年には一度0%となった。その後も4%台で推移しており、介護業界平均の15.4%(2018年度)と比べると、格段に低い。八木さんの打った施策は、法人内外共に確実に効いているのだ。

デイサービス嫌いも来たがるデイサービスとは

 八木さんが、特に明確なターゲットに“刺さる”ことを意識して開設したのが、デイサービス「THE GREEN TERRACE(ザ・グリーンテラス)」だ。通りから見ると、同名のカフェしか目に入らないが、裏手にガラス張りの明るいデイサービスが併設されている。その入り口には、どこを見ても「デイサービス」の文字はない。ここに八木さんの戦略がある。

若者が行くしゃれたカフェのような軽度要介護者向けのデイサービス「THE GREEN TERRACE」。どこにも「デイサービス」という表示はない。

 デイサービスは要介護になった高齢者が、最初に利用を勧められることが多いサービスだ。しかし、「自分には必要はない」と、行くのを嫌がる高齢者は多い。

「『デイサービスなんて行きたくない』と言うと、介護関係者はすぐに『困難事例だ』と判断してしまいがちです。でも僕らに言わせれば、行きたくなるデイサービスがないだけのこと。だったら、行きたくなるデイサービスをつくればいいじゃないか、と」

 そうして、デイサービス利用を嫌がる高齢者にリサーチしてつくったのが、この「THE GREEN TERRACE」だ。徹底的に、“デイサービス臭”を廃したデイサービスである。

「『デイサービス』という表示をしていないのも、そのためです。昼食は、メニュー表から好きな料理を好きな時間に注文して食べるスタイルに。風呂も、旅館のような大浴場でお湯を掛け流しにし、好きな時間に入れるようにしました」

 設備の視覚的イメージも大切にした。ヨガ教室やミニシアター、カラオケなどで使うこともできるフィットネスルームはガラス張りに。希望者がベッドで横になるための「静養室」は、扉を閉めると個室になるしつらえにし、「BREAK ROOM(ブレイク・ルーム)」と表示した。あん摩マッサージ師によるマッサージを受けられるSPA(リラクゼーションルーム)も用意した。

 それだけではない。介護施設にはつきものの車いす用のトイレを、「THE GREEN TERRACE」にはあえてつくらなかった。

「体や認知機能の障害が比較的軽い方に利用していただくことを想定してつくったからです。このデイサービスでの対応が難しい方は、例えば、リハビリ中心に行っている、うちのデイサービスをご紹介し、リハビリで心身の機能が改善してから『THE GREEN TERRACE』をご利用いただくようお話ししています」

 このデイサービスを気に入った利用者は、他社のデイサービスには行く気になれなくなるのだと、八木さんは言う。

「介護の入り口のところで、うちのサービスに囲い込む。そういう戦略です」

 そうして高崎市新町は、「花みづきグループ」の独壇場となっていく。

「THE GREEN TERRACE」内部の様子。“デイサービスっぽさ”は微塵もない。

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