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西島基弘「食品の安全、その本当と嘘」

食品添加物は危ないと煽る人は、生体では起きない実験を根拠に…国の安全評価過程に無知

文=西島基弘/実践女子大学名誉教授
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 ソルビン酸の塩類は水に溶けやすいため、食品にはよく混ざるので使用しやすいという利点があります。摂取されたソルビン酸塩は胃でソルビン酸になります。したがって、これら塩類をグループ化し、許可量も塩類も合算して(ソルビン酸として)各食品に使用してよい最大量を決めています。

 ADIは体重1kgあたりですので、食品安全委員会や厚生労働省が暴露評価に使用している日本人の平均体重55.1 kgであれば、1377mgを一生涯毎日食べ続けても大丈夫ということになります。食品に対して許可量を決める場合には、特定の食品だけを食べた場合も、複数の食品を食べた場合もADIに達しないように考慮されています。

 日本人が実際どの程度のソルビン酸を摂取しているかというと、平成28年度の厚生労働省マーケットバスケット方式の調査では4.407mg/日となっています。したがってADIに比較して0.3%とまったく問題はありません。

 このADIは発がん性試験だけでなく多くの試験を行い、食品安全委員会が必要とする試験の結果が揃っているものについては、もっとも感受性の高い試験でも毒性の出ない量(無毒性量)の100分の1をADIとしていますので十分に安全性を配慮した決め方をしています。

安心して食べて良いのではないでしょうか

 国で定めた基準値を少しでも上回った場合、都道府県・政令指定都市の食品衛生監視員の立ち会いの下に違反食品は回収され、廃棄されます。少し基準値を上回ったものを食べても常識的には健康被害は起こりません。しかし、常識的な専門の先生方は基準値を少しでも上回った食品に対して、安全だとは言いづらいので「ただちに健康被害は起きない」というような表現を使います。消費者のなかには、これを「すぐに健康障害は起きないが、のちのちはわからない」と考えてしまう方もいるようです。

 ソルビン酸の違反は基準値を上回ったものは健康を損なうという前出の週刊誌のコメント(1)(2)は、食品添加物の基準値の決め方をまったく踏まえていないものではないかと思います。(3)(4)のコメントの根拠はよくわかりませんが、少なくとも食品安全委員会の評価書やJECFAなどの国際機関の安全性に関する評価を見ていないか、理解できない方のコメントではないかと思います。

ソルビン酸と亜硝酸

(5)の「ソルビン酸と亜硝酸ナトリウムが混ざると、発がん物質ができることは世界的に有名」というコメントですが、確かに食の安全性に関係する人にとってはよく知られた話です。ソルビン酸塩と亜硝酸が共存する食品としては、ソーセージやハムがあります。その発がん物質というのはジメチルニトロソアミンという物質で、国際がん研究機関(IARC)ではランク2A(動物実験では発がんが認められる。ヒトでは発がんするかもしれない)に分類しています。

 この「発がん物質ができる」というコメントは、言葉足らずか食品安全委員会の評価書の中の文章の一部分だけを抜粋し、根拠としたコメントと思います。食品安全委員会は、ソルビン酸と亜硝酸の作用については当然考慮しており、評価書の中で「ソルビン酸と亜硝酸塩の併用使用について、通常の条件下ではヒトの健康に対する悪影響はない」と結論付けています。

 この通常の条件下というのは、コメントをした方が根拠としている論文は「亜硝酸ナトリウムの溶液を蒸留水中0.5モルのソルビン酸で懸濁した溶液に室温で加え、90℃の湯煎で1時間加熱した」という実験報告のようです。このような条件は、ヒトの体内やハムやソーセージの加工工程において起こりえません。この実験に使用したソルビン酸の濃度は、ハムやソーセージに使用されている量に比較して極端に高濃度です。また、人が病気をして高熱を出したとしても42~43℃程度でしょう。

 一方、ハムやソーセージの製造方法を見ると、確かに加熱工程がありますが、食品衛生法で食中毒防止のためであり、中心部の温度を63℃にして30分加熱することになっています。少し高温にして短時間で処理するにしても、品質に影響するのであまり高温にはしないようです。

 何のために行われた実験かはわかりませんが、生体では起こりえない条件下での試験管内での反応と、生体内の反応は安全性に関しては同一に評価できないということは当然です。国や国際機関の評価を理解できない人が、根拠もなく週刊誌やネット上で「食品添加物は危ない!」と発信し、消費者を脅かすような記事があることを消費者は知っておく必要があります。

(文=西島基弘/実践女子大学名誉教授)

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