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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

たった1人しかいない患者に効く薬は、なぜ創られたのか?「n=1研究」の複雑な議論

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
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 医師たちは、これをバンドエイドのようなものだと説明しています。しかし、先立つものはお金です。新薬を創り、役所の認可を得るには莫大な費用がかかるのです。「クラウドファンディング」という言葉を日本でもよく耳にするようになりましたが、米国ではすでに専用のサイトがあります。ミラちゃんの母親は、当時、これを利用した募金活動をすでに始めていて、後日談によれば最終的に3億円もの資金が集まったのだそうです【注3】。

 新薬は、2017年の秋、ほぼ完成しました。ミラちゃんから採取した皮膚の細胞で実験したところ、見事にバンドエイドとして働くことも確認されました。

国の認可という壁

 最後の課題は、どうやって米国食品医薬品局(FDA)の認可を得るのかということでした。普通、新薬の製造販売を認可してもらうには、まず動物実験を行い、次に大勢の患者で新薬を試験した上で、効果と安全性を示したデータを提出しなければなりません。とくに患者の人数(n)が認可を得るうえで大切な要素で、n=1000を超えるような規模で試験がなされることもあります。しかし動物実験はかろうじてできたものの、患者はミラちゃん1人だけだったのです。

 それでも医師たちは、思い切ってFDAに新薬の認可を求める申請を行うことにしました。そして2018年1月、FDAは早々と認可を決めてくれました。ミラちゃんの治療はすぐ始められ、症状がみるみるうちに改善していった……と、19年10月発売の専門誌で報告されたのです【注4】。

 着目すべきは、なぜ前代未聞の申請が認可されたのかという点です。このように患者が1人しかいない状況は、「n=1研究」と呼ばれています【注5】。この問題については、複雑な過去の議論もありますので、次回に改めて考えてみることにします。

(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献

【注1】Fliesler N, Shooting for the moon: from diagnosis to custom drug, in one year. Boston Children’s Hospital, 2019, on line.

【注2】Batten disease fact sheet. NIH Aug 13, 22: 02, 2019, on line.

【注3】Kolata G, Scientists designed a drug for just one patient. her name is Mila. New York Times, Oct. 9, 2019

【注4】Kim J, et al., Patient-customized oligonucleotide therapy for a rare genetic disease. N Engl J Med 381: 1644-1652, 2019.

【注5】Lillie EO, et al., The n-of-1 clinical trial: the ultimate strategy for individualizing medicine? Per Med 8: 161-173, 2011.

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