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スシローに客流れたくら寿司、客数減脱出は困難…“寿司がまずい”で苦境のかっぱ寿司の教訓

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
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くら寿司の店舗(「Wikipedia」より)

 回転ずし大手のくら寿司が、厳しい状況から抜け出せずにいる。12月12日発表の2019年10月期連結決算は、純利益が前期比27%減の37億円だった。減益は単独決算の時期も含めると8年ぶりとなる。売上高は3%増の1361億円にとどまり、営業利益は20%減の54億円だった。

 回転ずしは外食業界のなかでも有望市場とされている。そのため、大手の多くは業績が好調だ。大手5社では、不振が続く「かっぱ寿司」を展開するカッパ・クリエイトを除き、くら寿司を含めた4社が好調を保ち、他業界が羨むほどだ。だが、近年はこの構図が崩れている。くら寿司が脱落し始めたのだ。一方でほかの3社は依然として好調を保っている。

 ここで、くら寿司以外の各社の直近本決算の業績を見てみよう。

 まず、長らく不振が続くカッパ・クリエイトだが、19年3月期連結決算は、売上高が前期比3%減の761億円、純利益が82%減の1億4200万円だった。厳しい状況が続いている。

「スシロー」を展開するスシローグローバルホールディングス(HD)の19年9月期連結決算(国際会計基準)は、売上高が14%増の1990億円、純利益は25%増の99億円だった。絶好調といっていいだろう。唯一、2桁増の増収を達成している。

 外食大手のゼンショーHD傘下のはま寿司は、19年3月期の売上高は5%増の1242億円、純利益は30%増の36億円と増収増益だった。

 元気寿司の19年3月期連結決算は、売上高が5%増の420億円、純利益が3.6倍の18億円と増収増益だ。

 かっぱ寿司を除いた3社の業績はこのように好調だ。これらと比べると、くら寿司の苦戦のほどがよくわかる。

バイトテロの余波

 くら寿司の全社業績の不振の背景には既存店の低迷がある。19年10月期の既存店売上高は前期比3.8%減とマイナスだった。客単価は2.5%増とプラスだったが、客数が6.3%減の大幅マイナスだったことが響いた。客数の前年割れは3年連続、既存店売上高の前年割れは2年ぶりとなる。

 客数は特に19年10月期が深刻で、12カ月すべての月が前年割れとなった。これは、今年2月に世間を騒がせた、アルバイト店員が業務中に悪ふざけした動画が交流サイト(SNS)で拡散する「バイトテロ」が大きく影響したと考えられる。

 動画には、ゴミ箱に捨てた魚をまな板に戻して調理しようとする様子が映っていた。この映像から「ゴミ箱に捨てた魚を客に提供したかもしれないすし店」というイメージが広まってしまった。それにより、客足が遠のくようになったと考えられる。

 このインパクトは決して小さくない。そのため、くら寿司の客数がプラスになるのにはもう少し時間が必要だろう。では、どれくらいの時間が必要なのか。それを考えるため、似たようなかたちで客離れが起きた企業を見ていきたい。そうすることで、くら寿司の客離れがどれくらい続くかが見えてくるかもしれない。

 まずは日本マクドナルドを見てみよう。マクドナルドは14年7月に発覚した鶏肉期限切れの問題を受けて、深刻な客離れが起きた。前年同月比で20%超のマイナスになる月もあった。その後、長らく客数減が続き、プラスに転じるのに1年半ほどかかった。くら寿司の客数がプラスに転じるようになるのは、少なくともこれくらいの時間が必要だろう。

 もちろん、くら寿司とマクドナルドでは状況が異なるので、同様に推移するとは限らない。問題の深刻さの度合いは、くら寿司のほうがマシだろう。ただ、くら寿司はマクドナルドよりも規模が小さく、ブランド力もマクドナルドほどではないので、立ち直るために必要な力はくら寿司のほうが小さいといえそうだ。

 だが、くら寿司の場合、スシローやはま寿司など同等の力を持つ同業の競合が複数存在するため、競合に流出した顧客を取り戻すことはマクドナルド以上に難しいと考えられる。マクドナルドはハンバーガー業界で圧倒的な規模とブランド力を有しているため、流出した顧客を取り戻すことは、くら寿司ほど難しくはないといえる。そのため、鶏肉問題にしても、時間の経過だけで戻ってきた顧客は少なくないのではないか。一方、くら寿司はそう簡単にはいかないと考えることができる。

“すしがまずい”イメージ定着のかっぱ寿司

 くら寿司の客数が回復するのに時間がかかりそうなのは、かっぱ寿司の事例からも推測できる。

 かっぱ寿司のカッパ・クリエイトは減収が続いたり、幾度も最終赤字の計上を余儀なくされるなど、厳しい経営状況が続いている。かっぱ寿司が苦境に陥ったのは、“すしがまずい”とのイメージが定着してしまったためだ。それにより客離れが起きた。客数は19年3月期まで5期連続で前年割れとなっている。

 かっぱ寿司でこれだけ長期にわたって客数が減っているのは、スシローなど同等の力を持つ同業の競合が複数存在するためだ。すしを食べたい人がまずいイメージのすし店を選ばないのは当然だろう。多くの人がほかのすし店に行くようになったはずだ。同じようなことがくら寿司にも起こり得る。こうしたことを考えると、くら寿司の客離れはかっぱ寿司のように長期にわたる可能性が捨て切れない。

 いずれにせよ、くら寿司としては集客策を講じ続けなければならない。もちろん、これまでにも集客策は講じてきた。

 たとえば、3月に国産の天然魚を使ったフィッシュバーガーと合い挽き肉のミートバーガーの2種を発売して集客を図った。これらはお客からの評判は上々のようで、発売初月に100万食を売り上げたという。ただ、3月の客数は前年同月比5.2%減と大幅マイナスとなっており、ハンバーガーで全体の悪い流れを食い止めることはできなかったといえるだろう。

 ほかには、9月から販売を始めた、高級スイーツブランド「KURA ROYAL(クラロワイヤル)」が目新しい集客作といえそうだ。第1弾として「たっぷり完熟マンゴーパフェ」「黒糖タピオカミルクティー」「黒糖タピオカ抹茶ミルク」を、それぞれ480円(税別)で発売。くら寿司のスイーツとしては高額だ。その後も続々と新作を投入し続けている。

 ただ、客数の推移から、クラロワイヤルによる集客効果は限定的のようだ。9月の客数は6.6%減、10月は10.4%減、11月は6.2%減と、いずれの月も大幅マイナスとなっている。

スシローに流出した客を呼び戻せるかがカギ

 くら寿司のスイーツ強化に関しては、スシローの二番煎じの印象が否めない。スシローは17年11月 にスイーツ開発プロジェクト「スシローカフェ部」を発足。商品開発にパティシエを起用するなどスイーツの強化を図ってきた。

 スシローカフェ部ではヒット商品が誕生している。台湾のタピオカドリンク店「Sharetea(シェアティー)」と共同開発したタピオカミルクティーを7月に発売したが、約3カ月で累計175万杯上を販売するヒット商品となった。カップの下からライトを当てると黄金色に光るのが特徴で、SNS映えするとして人気を集めた。

 こうしたヒット商品もあり、スシローの既存店業績は好調だ。19年9月期の既存店売上高は前期比7.4%増と大幅なプラスとなった。しかも、すべての月が前年を超えている。客数は4.2%増、客単価は3.1%増だった。既存店売上高、客数、客単価の前年超えはいずれも2期連続となる。

 スシローが好調なのは、くら寿司の客離れも関係している。くら寿司の利用客がスシローに流れた面があるだろう。くら寿司とスシローが競合するケースは少なくないからだ。たとえば、「くら寿司 江戸川店」(東京・江戸川)は「スシロー 一之江店」(同)と「スシロー 北葛西店」(同)に挟まれるかたちで立地しているが、それぞれからの距離はどちらもクルマで約10分と近く、明らかに商圏が大きく被っている。

 こうした状況でくら寿司はバイトテロに見舞われたわけだが、それを機にくら寿司からスシローに客が流れたケースは少なくないと考えるのが自然だ。こうしたかたちでくら寿司の客数が減り、スシローの客数が増えた面があるだろう。

 こうして流出した顧客を取り戻すことは簡単ではない。くら寿司の客離れは当面続く可能性が高い。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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