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箱根駅伝に番狂わせか…東大や山梨学院大を擁する学生連合チームの“雑草魂”に要注目

文=美山和也
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2012年の第88回箱根駅伝の様子(写真/スポーツニッポン)

 日本の正月の風物詩、箱根駅伝(正式名称は「東京箱根間往復大学駅伝競争」/主催は関東学生陸上競技連盟で、2020年で第96回)で、“ジャイアントキリング”が起きるかもしれない。ジャイアントキリングとはもともとはサッカーで用いられた言葉で、弱いチームが格上の相手から勝利をもぎ取ること。いわゆる「大番狂わせ」だ。そんな劇的なドラマが、2020年1月2日にスタートする箱根駅伝でも見られそうなのだ。しかも、その可能性が伝えられているのは、非常に意外なチーム。すなわち、「関東学生連合チーム」なのである。

「前年覇者の東海大学が、ベストメンバーを揃えられなかったんです。12月10日の出場校21チームの監督会見が開かれましたが、その際、各チームの登録メンバー16人も発表されました。ところが東海大は、エースで4年生の関颯人選手、3年連続で6区を走った中島怜利選手(4年生)がエントリーされなかった。他大でも、関東インカレで5000メートルと1万メートルの日本人トップ記録を持つ佐藤敏也(法政大)、2年連続5区を走った竹石尚人(青学大)などもいません。各校の主力ランナーの調子が上がってこなかったみたいで」(体育協会詰め記者)

 学生3大駅伝のひとつ、出雲駅伝を制した國學院大学も、なぜか目標を「総合3位」と低く設定してきた。理由は不明だが、優勝候補の一角と目される駒澤大学からも、力強いコメントは聞かれなかったという。

「優勝候補は東海大、青学大、駒澤大、東洋大、國學院大といったところ。10月に出雲駅伝があって、11月は全日本大学駅伝と続き、そして2カ月弱で、最大のイベントである箱根駅伝となります。学生のコンディション作り、つまり好調な状態を持続させることは非常に難しいので、どの学校も控えめなコメントになったのでしょう。実際、東海大のようにエースを外してきたところもありましたし」(前出・体育協会詰め記者)

2008年の“ジャイアントキリング”再び?

 冒頭で述べた学生連合チームの上位入りが予想されるようになった理由は、強豪校に不安要素が出てきたからではない。連合チームに選ばれた16人の学生たちが、本気で勝ちを狙いにきているというのだ。

「通常、連合チームに選ばれた16人は、11月下旬か12月上旬に内輪での記録会みたいなものをやり、そこで本番を走ることとなる上位10人を決めていく、という流れが普通。ところが今回は、その10人を決める内輪の記録会はナシ、箱根本番に合わせて調整することが決まったんです」(テレビ局スポーツ部員)

 ここでいう「箱根に合わせて」というのは、非常に意味が深いといえよう。

 そもそも「学生連合チーム」とは、箱根駅伝の予選会で敗退した大学のなかから、「箱根本番の未経験者、各校1名、留学生をのぞく」などのルールのもとに選考された混合集団であり、2003年の第79回大会から「関東学連選抜」の名称で設けられたもの。所属する大学のチームとしては予選突破はかなわなかったものの、好成績を残した選手が選ばれてきた。2014年にいったん消滅したが、2015年に復活。箱根本番での記録も「参考」とされてはしまうが、厳密にいえば2007年からの7年間だけは公式記録として扱われており、2008年には、なんと総合4位に食い込むという“ジャイアントキリング”が演じられたこともある。

「内輪の記録会をやらないという作戦が用いられたのも、まさにこの2008年でした。当時、この連合チームを指揮することになった青山学院大の原晋監督が、11月下旬に記録会などをやってしまうと、箱根本番までに体力が回復することが難しくなる……とし、学生たちを説得したんです」(前出・テレビ局スポーツ部員)

 エントリーされた16人から上位10人を決める記録会をやれば、選手たちは箱根駅伝に出たいという一心で、そこにピークを合わせてしまう。このリスクを回避する作戦が見事に的中したのが2008年というわけ。しかしそうなると、成績がトップ10に入っていても走れない選手が出てくる可能性も生じてしまう。つまり、「なぜオレが選ばれなかったのか!?」といった不満が出てしまうかもしれないわけだ。

「2008年大会では、原監督が選手の好不調を見極め、調子の良い選手、上り、下りの走路に適した選手をきちんと見極めたんです。そして今回、連合チームに選ばれた16人は、互いに連絡を取り合ってミーティングも開き、『勝ちたい』の気持ちを確かめ合ったといいます。勝つためには、やはり内輪の記録会などで機械的に選抜者を決めるのではなく、箱根本番に合わせて調整すべきなのでしょう。だからこそ今回の選手選考は、連合チームを指揮する麗沢大・山川達也監督に一任すると決まったのです」(前出・体協詰め記者)

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東京大学の阿部飛雄馬選手。10月の箱根駅伝予選会にて。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

東大の阿部は“まだまだ伸びる”

 連合チーム入りした選手たちが予選会で残したハーフマラソンの成績を見ると、やはり突出して速い選手はいない。しかし、1時間3分台の山口武(東京農大)を筆頭に、上位10人は全員、同5分台に収まっている。箱根本番で上位に食い込むだけの力は十分すぎるほど持っているのだ。

 また、今回の連合チームには個性的な選手が少なくない。主将を務める阿部飛雄馬(4年)は東京大学のランナーで、卒業後は大学院に進学することが決まっている。私立大学のような練習環境には恵まれなかった分、「効率良く練習すること」や、徹底した自己管理で晴れ舞台を勝ち取った逸材だ。

「東大の阿部には『まだ伸びしろがある』という声が、強豪校の監督たちからも聞かれました。予選会ハーフマラソンの個人成績なんですが、前回の224位から64位に上げてきたんです。予選会は異常な暑さを記録し、全選手が成績を伸ばせませんでした。そのなかでこれだけ伸びたわけですから、箱根本番ではもっと成績を上げてくるかも……と警戒する監督もいましたね」(前出・体協詰め記者)

 現在はあいおいニッセイ同和損害保険所属のプロランナーで、かつては“埼玉県庁所属”という異色のプロフィールで話題を呼んだ川内優輝も、学習院大学時代には連合チーム入りし、2007年と2009年の二度、箱根駅伝を走っている。卒業後に世界レベルに成長した経歴を考えると、連合チームの存在意義はやはり大きいといえよう。

山梨学院大の本気のサポート

 今回の2020年大会に向けては、箱根の常連校でもあった山梨学院大学が予選会で散っている。しかし、同大学の日本人トップの渡辺晶紀(2年)が、やはり連合チームに選ばれており、こちらは「連続出場が33回で途切れた悔しさ」をぶつけてくるだろう。山梨学院大といえば箱根を知り尽くした大学でもあり、当然、学校全体として渡辺には区間ごとの「風の特徴」や「走路の起伏」などの極意を伝え、サポートしてくるものと思われる。

 波乱を起こしてやるという意気込みが、「10人選出の内輪の記録会ナシ」につながったのかもしれない。たとえ参考記録扱いでも、箱根駅伝では本気で勝ちを取りにいく。1月2日・3日の2日間、連合チームの雑草魂をバネにした力走が、日本中を興奮させるかもしれない。

(文=美山和也)

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