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キリン、米企業の巨額買収額非公表の怪…人権団体が反対活動、ミャンマー軍との親密関係

文=編集部
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キリンビール 横浜工場(写真:ロイター/アフロ)

 国内ビールシェア2位のキリンビールを傘下にもつキリンホールディングス(HD)は、米クラフトビール大手ニュー・ベルジャン・ブルーイングを買収する。海外子会社を通じて2020年3月までに全株式を取得する。買収額は非公表。買収後も現CEO(最高経営責任者)は続投し、従業員の雇用も維持する。

 クラフトビールとは小規模な醸造所がつくる多様で個性的なビールのこと。色や香り、味わいを楽しみ、グラスや料理を楽しむというのが、クラフトビールの飲み方。日本では地ビールとも呼ばれる。

 米国にクラフトビールメーカーは約7000社ある。ニュー・ベルジャンは米クラフトビール市場で3位に位置する。同社は40種類以上の商品を持ち、全米50州に販路がある。18年の売上高は2億ドル(約218億円)。年間販売量は約10万キロリットル。日本やオーストラリアにも一部を輸出している。

 キリンHDの磯崎功典社長は「米国では若者を中心にナショナルブランド(NB)に価値が認められなくなっている。多様な味を楽しめるようにする必要がある」と、クラフトビールに本格進出する理由を語った。

人権団体がキリンに買収反対を突きつける

 キリンHDはニュー・ベルジャンの買収額を公表していない。ニュー・ベルジャン買収に暗雲が立ち込めているからだ。19年12月15日付日本経済新聞は、次のように報じている。

「米クラフトビール3位のニュー・ベルジャン・ブルーイングの買収に米国の人権団体が反対し、同社の株式を保有する社員に買収を承認しないよう求める声明を出した。キリンが15年に買収したビール会社、ミャンマー・ブルワリーがミャンマーの軍部との結びつきが強いため」

 キリンHDは15年8月、ミャンマーのビール最大手、ミャンマー・ブルワリー(MBL)を697億円で買収した。MBLの主力ブランドは「ミャンマー・ビール」で、同国のビール市場で8割のシェアを持つ。キリンHDはMBL株式の55%を取得。残りの株式を持っているミャンマー国軍系複合企業、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)と共同経営している。

 17年2月には、ミャンマーのビール会社マンダレー・ブルワリーを買収した。マンダレー・ブルワリーは国軍系企業MEHLの1部門で、同国で1割程度のシェアを持つ。キリンHDはMBLとマンダレー・ブルワリーを合わせてミャンマーのビール市場の9割のシェアを握ったことになる。

ミャンマーのジェノサイド問題が飛び火

 ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は19年12月、ミャンマー軍によるイスラム系少数民族ロヒンギャへのジェノサイド(集団殺害)をめぐる国際司法裁判所(ICJ)で、「審理を取りやめるよう」求めた。事実上の政権トップがICJに出廷するのは異例だ。同氏はミャンマーの民主化を追求し、そのために15年近くにわたり自宅で軟禁された。その姿に世界中の政府や都市、人権団体が次々と賞などを贈った。1991年にはノーベル平和賞を受賞した。

 軟禁を解かれた同氏は2016年、仏教徒が大半を占めるミャンマーで事実上の指導者になった。それ以来、ミャンマー軍によるロヒンギャの大量虐殺を止めるよう、国際社会が圧力をかけたが、同氏は拒否し続けた。国際社会で迫害を認めない同氏への批判が強まった。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは18年11月、同氏に授与していた、同団体最高の栄誉「良心の大使賞」を取り下げた。自宅に軟禁状態にあった09年に同賞を授与していた。同団体はミャンマーの軍事弾圧から逃れた約70万人のロヒンギャのために、同氏が声を上げなかったことに「深く失望した」と、取り下げた理由を説明した

 この問題はミャンマーだけにとどまらない。キリンHDは、ミャンマーで展開する国軍系企業との合弁事業を忌避され、米人権団体はキリンによるニュー・ベルジャンの買収に反対する声明を出した。ジェノサイド問題がキリンの米国での買収に飛び火したのだ。

巨額買収した海外企業を切り離す

 ミャンマー問題は、海外に進出する日本企業に新たなカントリーリスクの存在を突きつけた。キリンのMBLの買収は、結果的に同国のビール市場の9割のシェアを得たことから、成功した海外M&Aの事例と見なされてきた。しかし、ミャンマー軍と結びついたため、国際的信用は失墜した。

 キリンは連結売上高3兆円の目標を掲げた06年以降、海外M&Aに傾注。海外企業への出資総額は1兆円を超えた。11年、3000億円で買収したブラジルのスキンカリオール(のちブラジルキリン)は海外M&Aの金字塔になることを期待したが、競争激化でつまずき、17年にブラジルキリンを740億円でハイネケンに売却し、ブラジルから撤退した。

 07年、豪ナショナルフーズを2980億円で買収。08年、豪デアリーファーマーズを840億円で買収した(現・ライオン飲料の前身)。豪やニュージーランドを統括するライオン飲料は、20年中に中国の乳業大手、蒙牛乳業に456億円で売却する。これで大型不採算事業の整理にメドがついた、としている。

 21年12月期までの中期経営計画ではクラフトビールや健康事業に注力する。健康事業では19年9月、無添加化粧品・サプリメントのファンケルに約1300億円を投じ、3割出資した。ニュー・ベルジャンの買収も、中期経営計画の線に沿ったものだ。だが、買収前から暗雲が漂う。米国のクラフトビール3位企業の買収に、首尾よく漕ぎつけることができるのだろうか。

(文=編集部)

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