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トヨタ、“全方位で他社提携”戦略へ転換…EVでも世界一へ、なりふり構わず“勝ち”に固執

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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ラスベガスで「CES 2020」 まもなく開催 トヨタが実証都市構想を発表(写真:AP/アフロ)

 最近、トヨタ自動車が国内外の企業との提携を積極的に進める姿が目立っている。同社が提携を進める背景には、いくつかの要因がある。まず、世界の自動車業界は “100年に一度”といわれるほどの大きな変革期を迎えていることがある。具体的には、自動車の電動化の動きがある。世界各国で、ガソリンやディーゼルエンジンからハイブリッド(HV)を経て、プラグインハイブリッド(PHV)や電気自動車(EV)の新エネルギー車の普及が重視されている。また、インターネット空間との接続や、自動運転技術などの開発も世界全体で急速に進んでいる。 

 競争激化と事業環境の変化に対応するために、トヨタは異業種企業なども含めて提携を強化し、さらなる成長に必要な要素を取り込もうとしている。その上で同社はモノづくりの力を高めようとしている。長期的に考えるとトヨタの積極的な提携戦略は、さらなる成長実現の重要なファクターになるだろう。

中国でのシェア拡大を狙うトヨタ

 11月、広州国際自動車展覧会において、トヨタはレクサスブランドのEVを初公開した。満を持して、トヨタはEV戦略を本格始動しようとしている。中国は、世界の自動車メーカーにとってもっとも重要な市場のひとつだ。2018年の新車販売台数は約2800万台と世界最大だ。さらに、25年、中国政府は新車販売台数の25%をPHVとEVの新エネルギー車にする目標を発表した。この目標にはトヨタが得意とするHVが含まれない。中国市場におけるトヨタのEV戦略は、同社の中長期的な競争力と業績に無視できない影響を与える。

 ただ、足元の中国の自動車市場の動きは不安定だ。19年11月まで中国の新車販売台数は17カ月連続で前年同月の実績を下回った。この背景の一つに、6月に中国政府がEVなどの新エネルギー車購入のための補助金を減額したことがある。加えて、投資に依存してきた中国経済は、成長の限界を迎えている。豚肉価格の急騰などを受けて、個人の消費も減少している。それを受け、中国市場でトップシェアを誇る独フォルクスワーゲンは需要低迷に直面している。米中の貿易摩擦の影響などから、米GM、フォードは販売が大きく落ち込んでいる。

 対照的に、レクサスは中国での人気が高まり、販売台数が伸びている。中国政府が輸入車への関税を引き下げたことや、日本のモノづくりへの信頼感などが追い風となっているようだ。トヨタはレクサスをさらにヒットさせたい。そのために、同ブランドのEVを国内で生産し、中国に輸出することでさらなるヒットを実現しようとしている。

 ライバル企業もトヨタと同様のことを考えている。35年、独フォルクスワーゲンは中国での販売台数の半分をEVにしたい。ただ、同社は中国事業の減速から大幅な人員削減などを余儀なくされている。ダイムラーも同様だ。一方、19年4~6月期トヨタは上期の過去最高益を更新した。中国市場にて競合企業が苦戦するなか、トヨタはEVのヒットを目指す好機を迎えつつあるように見える。

トヨタのアライアンス体制強化

 EV化以外にも、トヨタを取り巻く事業環境は大きく変化している。環境の変化に対応するために、トヨタは国内外の企業とのアライアンスを進めている。この背景には、生き残りに向けたトヨタ経営陣の強い危機感がある。端的に、トヨタは自動車業界以外の企業との競争に勝ち残らなければならない。

 自動車の電動化に加え、インターネット空間との接続や自動運転技術の実用化などによって、自動車の役割は大きく変わる。端的にいえば、自動車は“移動の手段”に加え、人工知能や高性能の半導体やセンサーなどを多数搭載した“移動型IoTデバイス”としての性格も持つようになるだろう。

 EV化によって、自動車は5万点にも及ぶ部品などのすり合わせを重視したものから、バッテリー、車体などのパーツごとの組み立てにシフトしていく。また、IoT関連の分野において自動車企業は世界のIT先端企業やエレクトロニクス企業とも競合しなければならない。5G通信の普及などに伴って世界経済の変化のスピードも加速化している。

 急速かつ大きな環境の変化に対応するために、トヨタは経営体力をつけなければならない。そのために同社はスズキ、スバル、マツダと資本提携などを結び、協働体制を強化している。中国においてトヨタは燃料電池車(FCV)などの開発に向けて第一汽車集団や広州汽車集団との提携も結んだ。中国政府はEVに加えFCVの普及も重視しているだけに、こうした取り組みはトヨタが生産効率を高め、中長期的な収益の基盤を強化するために欠かせない。

 IT分野でもトヨタはアライアンスを強化している。すでに米グーグルは自動運転の分野でトヨタよりも高い競争力を有しているとみられる。トヨタは競争力を高めるためにソフトバンクなどと自動運転技術の開発に取り組んでいる。見方を変えれば、トヨタは“ハード(自動車)”と“ソフト(自動運転などのソフトウェア)”の両分野において競争力を高めようと必死に取り組んでいる。

世界経済の先行きには不透明感も

 自動車業界は、競争激化に加え、世界経済の不確定要素の増大にも直面している。各社は米中の貿易摩擦などに影響された世界的なサプライチェーンの混乱に対応しなければならない。今後もIT先端分野における米中摩擦は続く可能性がある。また、世界経済を支えてきた米国経済も、いずれピークをつけ減速が一段と鮮明化するだろう。債務問題の深刻化などから中国経済が安定感を取り戻し、その状況が続く展開も想定しづらい。

 その状況下、トヨタのライバル企業は思い切った取り組みを進めている。そのひとつに、新技術の開発力の強化がある。20年からの5年間で、独フォルクスワーゲンはEV開発力の強化などに総額600億ユーロ(約7.2兆円)を投じる計画だ。フォルクスワーゲンはディーゼル排ガス不正問題の負の印象を払拭するために、EV事業に生き残りをかけている。

 競争に勝ち残るためにトヨタEV、FCVやコネクテッドカーなどの新商品をライバルに先駆けて中国をはじめとする市場に投入し、業績を拡大しなければならない。国内外の企業との提携、あるいは出資戦略を強化していくことは避けて通れない。

 その上で同社に期待したいことは、複数の企業・組織の利害をうまく調整し、モノづくりの力を引き上げることだ。それは、トヨタと提携先企業だけでなく、日本経済の活力にも大きな影響を与える。すでにトヨタは仕入れ先に設備などの保全の専門家を派遣し、さらなる原価低減に協力する姿勢を示した。トヨタの姿勢は大きく変わろうとしているように映る。トヨタはこれまでに培ったモノづくりの力を先端のテクノロジーと融合することで、新しいモノの創出を目指す人材の確保・育成なども重視している。

 新しいモノの創造を目指すトヨタの考えが複数組織間で共感を集めることができれば、同社はアライアンス企業からさらなるコミットメントを引き出すことができるだろう。それは、トヨタがHVに次ぐヒットを生み出し、さらなる成長を実現するために欠かせない要素のひとつと考える。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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