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阿部誠「だまされないマーケティング…かしこい消費者行動:行動経済学、認知心理学からの知見」

オークションサイト、なぜ私たちは不当に高値で入札してしまう?情報の非対称性の罠

文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
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「Getty Images」より

1.知識がないと痛い目に合う「レモン市場」 ― 情報の非対称性

 行動経済学とは離れますが、2001年にノーベル経済学賞を受賞したアカロフのレモン市場を紹介しましょう。1970年の論文では、中古車が壊れやすいといわれる現象を、売り手は取引する商品の品質を知っているが、買い手は購入するまで品質がよくわからないという、情報の非対称性によって説明しました。英語でレモンというと、消費すると酸っぱい思いをすることから「欠陥品」を指します。

 中古車市場には良品と欠陥品の2種類が存在します。たとえば、良品であれば100万円、欠陥品であれば30万円の価値となる車があったとしましょう。売り手は取引の商品がどちらのタイプかを知っていますが、買い手は見分けられません。

『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(阿部誠/KADOKAWA)

 買い手は欠陥品をつかまされる可能性を考慮して、商品に対しては30万円以上、100万円未満の値段しか払いたがりません。すると良品の売り手は、本来の商品価値である100万円より安い値段しか得られないので、売るのをやめます。

 一方、欠陥品の売り手は、本来の商品価値である30万円より高い値段を得られるため、喜んで売りに出します。そのことを買い手が知ると、市場にある中古車はすべて欠陥品であると推測して、30万円以上の値段は払いません。よって、市場には欠陥品の中古車だけが流通して、故障が頻繁に発生することになります。

 今は違いますが、さまざまな手段を駆使してレモンを買わせようとする怪しい中古車のセールスマンは、昔のアメリカン・カルチャーのアイコンともいえます。

 情報経済学という分野では、市場メカニズムが機能しない理由の一つである情報の非対称性を中心に研究が行われ、モラルハザード、シグナリング、スクリーニング、契約理論、ゲーム理論などの概念に発展しました。

 消費者が安心して中古車を買える、つまり欠陥車であふれないような中古車市場をつくるためには、この情報の非対称性をなくす仕組みが必要になります。たとえばトヨタのT-Valueやヤナセの認定中古車は、第三者による品質鑑定や修理保証を提供しています。その他の業界でも、オークションサイトやeコマースサイトにおける、買い手が売り手を評価するレビューシステムなど、情報の非対称性を緩和する仕組みが存在します。

 オークションでは売り手や商品に関する情報を十分吟味しないと、良品が混ざっていることを過大評価してしまい、不当に高い金額で入札してしまうような間違いを起こしがちです。賢い消費者は、情報の非対称を避けるべく、なるべく多くの情報を検討しましょう。

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