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杉江弘「機長の目」

航空機、パイロット1人制検討、極めて危険…パイロット無視の超ハイテク化で墜落事故多発

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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エチオピア航空機が墜落 乗客乗員全員が死亡(写真:AFP/アフロ)

 民間航空機がパイロット1人だけで操縦されるようになるかもしれない――。

 一般の方は「まさか」と思われるかもしれないが、この計画は主要航空機メーカーが実際に約5年後に実現しようとしているものである。具体的にはエアバスと部品メーカーのタレスがパイロットの負荷を減らす新たなテクノロジーを導入することによって、2023年以降には長距離便を運航するパイロットの数を現行の交代要員を含めた3人から2人へと合理化し、巡航中ではコックピットの中で実際に操縦する者は1人だけにして、もう1人は休憩に入れるようにするという。一方の大手メーカーのボーイングも、計画中の中型ジェット旅客機についてパイロットの数を減らしたかたちでの2025年の試航を目指しているという。

 これらの動きは、国内線や近距離国際線の便では1人乗務、長距離便では2人乗務にする、つまり実際に操縦に当たるパイロットは常に1人で構わないとする「パイロット1人制」を導入しようというものである。

目的はパイロット不足を補うため

 スイス大手金融機関UBSの試算では、これによって世界的なパイロット不足が補われ、世界の航空会社は年間約1.7兆円のコストを削減できるとしている。

 ただ、長距離便での巡航中といえども、2009年に大西洋で起きたエールフランスの447便事故のように、コックピットで2人の副操縦士が操縦に当たっていながら機長が休憩に入っていたため、突然の速度計のトラブルに対してすぐに対処できず、乗客乗員228人もろとも海底3300メートルに沈んでいった事故がある。そのため、エアバスなどは休憩に使うベッドはコックピットの中に設置するという案を検討しているという。

 しかし、現代のハイテク機といえども、技術的に1人のパイロットだけで操縦することは難しく、操縦以外にも管制官との交信やCAとのやりとりなどの乗務もどうやってこなすのか、緊急事態ともなればさらに複雑な操作や適切な判断が求められる。

 当然のこととはいえ、米国のパイロットたちは猛反対している。前述のUBSのアンケートでは、パイロット1人だけで操縦される航空機に乗ってもいいと答えた人は13パーセント。はたして日本ではこれがどう評価されるであろうか。

2人でも墜落事故を防げない複雑なハイテク化

 ボーイングが社運をかけて開発した主力機の737MAXは、いまだにいつ飛べるようになるかまったくわからない状況になっている。

 アメリカでは上下院の公聴会が開かれて、2018年10月のインドネシアでのライオン航空機事故と2019年3月のエチオピア航空機事故をめぐって真相究明と責任の追及が行われている。そのなかで、これまで出席を拒んできたボーイングのデニス・ミューレンバーグ最高責任者(CEO)は2019年10月29日に開催された上院の公聴会に出席し、両事故について初めて「我々が間違いを起こした」と責任を認めて謝罪した。

 そして驚くべきことに、同社のテストパイロットが2016年時点で安全性の問題(事故の原因となった失速回避システム<MCAS>等)を指摘したことにも質問が集中した、メディアの報道によると、テストパイロットからの指摘に対して、上層部が圧力をかけて封印したといわれている。

 現代のハイテク機は、パイロットではなく技術者たちがコンピュータを駆使して斬新に見える自動化システムを中心にして設計しているのが実情だ。メーカーのテストパイロットが完成した機材に試乗し、特に大きな問題がなければ量産化が進む。仮に今回の737MAXのように安全性に疑問が提示されても、設計変更をするには莫大な金と時間が必要となり、事実上パイロットの意見は無視されることも発生する。その結果、航空会社のパイロットは自分が操縦する機材に実は不完全なシステムやロジックが潜んでいても、それを知らずに多くの乗客を運ぶことになる。

 1994年に名古屋で起きた中華航空機の墜落事故でも、パイロットは自動操縦システムのゴーアラウンドモードの仕組みを知らなかったことが原因であった。それはたまたま事故機の2人のパイロットが知らなかったのではなく、世界の多くのエアバスA300・600型に乗務するパイロットもよく理解していなかった。

 前述の737MAXの2件の事故では、新しく導入されたMCASと呼ばれる自動制御システムが、センサーから送られた誤った情報をもとに急激な機首下げを起こしたのが原因だと判明している。機体後部の水平安定板(スタビライザー)が一方的にランナウェーと呼ばれる連続的な動きをしたためであるが、このようなことは何も離着陸時だけではなく巡航中などでも起こり得るものである。

 もしそのようなことが発生したら、機材によってはパイロットが2人一緒になって力いっぱいに操縦桿をスタビライザーの動きと反対側に押したり引いたりして、それ以上の機首変化を止め、その間に油圧や電気システムの関連スイッチを操作して回復させる手順となっている。男性でもパイロット1人だけでは力不足で、そのためチェックリストには2人で回復操作を行うように書かれている。

 この例はほんの1つであるが、現代のハイテク機の設計レベルでは、とてもパイロット1人での操縦は無理と断言できる。どうしてもというのなら、大きな設計変更が必要であろう。そうなると、結果的に高価な航空機を製造する必要となり、それでは合理化の意味がなくなってくる。

 実は航空機メーカーはこの「パイロット1人制」の先に、AI(人工知能)がパイロットにとって代わる時代を実現させようとしているが、はたしてAIは民間航空機を操縦できるのか。この問題については、また別の機会に検証したい。

(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

杉江弘/航空評論家、元日本航空機長

1946年、愛知県生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日本航空に入社。DC-8、B747、エンブラエルE170などに乗務する。首相フライトなど政府要請による特別便の経験も多い。B747の飛行時間では世界一の1万4051(機長として1万2007)時間を記録し、2011年10月の退役までの総飛行時間(全ての機種)は2万1000時間を超える。安全推進部調査役時代には同社の重要な安全運航のポリシーの立案、推進に従事した。現在は航空問題(最近ではLCCの安全性)について解説、啓発活動を行っている。また海外での生活体験を基に日本と外国の文化の違いを解説し、日本と日本人の将来のあるべき姿などにも一石を投じている。日本エッセイスト・クラブ会員。著書多数。近著に『航空運賃の歴史と現況』(戎光祥出版)がある。
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Twitter:@CaptainSugie

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