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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

自動車保険、対物賠償を無制限にせず賠償金2億円?保険会社が交渉してくれない事故?

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
自動車保険、対物賠償を無制限にせず賠償金2億円?保険会社が交渉してくれない事故?の画像1
「Getty Images」より

 このところ高齢ドライバーが起こした自動車事故の報道が続いています。特に昨年4月に発生した東池袋自動車暴走死傷事故では、死亡された親子には1点の落ち度もなく、ご遺族の悲しみは何年経過しても消えることはないでしょう。おケガをされた方の一日も早い回復をお祈りするばかりです。

 こうした報道が相次いでいることもあり、自動車保険の見直しが全国的に広がっています。ただ、「いざという時のことがわからず不安」という声も多いものです。自動車保険に関する多くの疑問が寄せられています。そこで今回は、それらのなかで一般の人々から誤解されやすい疑問を集めてみました。

Q5:自動車事故で壊れた持ち物は補償されるの?

 東池袋暴走事件でも多くの荷物が散乱している映像が流れました。被害者が乗られていた自転車も真っ二つに破壊され、事故の衝撃の強さを如実に物語っていました。人の補償だけでなく、携帯電話やバッグの中身といった持ち物などが破損した場合でも、自動車保険で補償されるのでしょうか。

「身体の被害だけではなく、被害者の方の持ち物などが事故で破損した場合は、『対物賠償』から支払われます。品目を限定していませんので、カバン、メガネ、携帯電話、化粧品、洋服など持ち物以外に、ガードレール、信号機などに被害も与えた場合も同様となります」(損保会社の広報担当者)

 ここで、「対人補償を無制限にするのは理解できるけれど、対物賠償は無制限にせずに、3000万円ぐらいの設定でいいのでは?」と疑問を持たれる方もいるかもしれません。しかし、過去には対物賠償で高額の賠償額を支払った例も珍しくないのです。私が過去に取材した実例を紹介したいと思います。

 あるドライバーが初夏に住宅地を走行中、電信柱に激突したことで、住宅地一帯を数時間にわたって停電させてしまいました。停電地域にコンビニが1軒あったのです。これにより、コンビニの冷凍庫や冷蔵庫が使えなくなりました。今、コンビニは食品の品質管理を徹底させています。そのため、一切の食品関係をすべて廃棄処分したことで、総額5000万円を超える賠償額を請求され、認定されました。

「弊社でも高額お支払いの事例があり、HPで紹介しています。一例を申し上げると、走行中のトラックが前方を走行していた別のトラックに追突、追突されたトラックが中央分離帯を乗り越え、対向車線に飛び出し、路肩に横転。出火炎上し、積んでいた洋服・毛皮が焼失しました。最終的に、裁判所は積み荷の損害額を約2億6000万円と認定しました。それ以外にも、第三者の家に衝突したり、商業物件や企業や工場、踏切を突っ切り、立ち往生し、電車を止めた場合など高額な賠償額となるケースは存在します」(損保会社広報担当者)

 どうやら「対物賠償も無制限」と心得たほうが良さそうですね。

Q6:加害者の車が企業保険に加入している場合と個人保険に加入している場合では、被害者への補償額は違ってくる?

 一般の方が抱く疑問で多いのが、「加害者が個人より企業(事業者)のほうが、多く補償してもらえるのでは?」ということです。

「被害者の方の年齢や収入などによって逸失利益(本来得られるべき利益であるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益)の認定額が異なってくるため、被害者の方にお支払いする保険金の額はそれぞれ異なります。一般的に自動車保険の特約には、事業者向けのみ付帯可能なもの、個人向けのみ付帯可能なものはありますが、個人と事業者で被害者への賠償額に差が出ることはありません」(大手損保広報担当者)

「賠償」とは「損害を補償する」という性質上、加害者が個人であろうが企業であろうが、認定された補償額以上は受け取れません。にもかかわらず、たとえば企業のトラックが起こした事故で被害に遭われた方が、「事業者が起こした事故だから、加害者が個人の場合より多く保険金を受け取ったらしい」という風評被害で悩んでいらっしゃる方もいます。

Q8 事故が原因で、うつ病などの精神疾患を患ってしまいました。自動車保険から補償してもらえないのですか?

 自動車事故で、人に関する補償は身体のケガだけが対象だと思っていらっしゃる方が多いですが、実際のところはどうなのでしょうか。

「身体的なケガだけでなく、精神疾患も補償の対象にはなります。ただし、事故で精神疾患を発症された場合、専門医の所見を元に、事故との因果関係を慎重に判断することにはなります。因果関係が認められ、休業したり、退職したりとすると、逸失利益に反映されます。また被害者の方が人身傷害保険に加入していると、『後遺障害』ではなく『傷害』として補償します。同じ事故であっても、被害状況が違えば、被害者の方の賠償額は一人ずつ違ってきますし、支払い時期も当然異なります」(大手損保広報担当者)

 因果関係が認定されれば、事故の原因による精神疾患も補償の対象になる場合もあることは、覚えておきたいですね。

Q9:自動車事故でも、保険会社が交渉しない事故もあるって本当ですか?

「通常は事故が発生したら、保険会社同士で話し合います。一方で、示談交渉ができないケースもあります。たとえば、信号待ちで停車中に追突される、自宅の塀に車がぶつかって塀を壊された、信号が青になり横断歩道を歩行中に車が信号を無視してぶつかってきた等、補償を受けられる方に責任がまったくない“もらい事故”です。この場合、保険会社が示談交渉することはできませんので、被害者ご自身で交渉していただくことになります。損保協会のデータでは、もらい事故は自動車保険の賠償事故のうち約3件に1件の割合で発生し、全国で年間約200万人の方がもらい事故にあっていると推計されます」(大手損保広報担当者)

 私が業界紙の記者時代に交通事故裁判を担当していた経験から言えば、自動車事故は弁護士でも経験がなければ非常に難しいと痛感したものです。一般の方が、もらい事故に遭えば、自分で交渉しろと言われても困り果ててしまいます。どうすればいいのでしょうか。

「弁護士費用特約をセットすると安心です。弊社では『もらい事故アシスト』と呼ぶこのオプションは、相談料から報酬まで弁護士にかかる総トータル費用を、一定の限度額内であれば保険で支払うことができます」(大手損保広報担当者)

 逆にいうと、被害者のご遺族が自動車保険で弁護士費用特約をセットしていなかった場合、遺族の方やケガをされた方が自ら交渉するか、自力で弁護士を探さないといけないのです。示談交渉が難航することもありますので、弁護士費用特約は付帯しておくと安心です。

 また、示談交渉の際の重要な証拠映像が撮れるとなるドライブレコーダーは装着をオススメしたいものです。大手損保各社の商品は、ドライブレコーダーによる運転診断をオプションでセットできます。高齢者の運転免許の返上は話題ですが、なかには耳を貸さない高齢者も一定数います。そんな方にも客観視していただける判断材料として非常に有効だと考えます。

Q10:ネット自動車保険は対面の自動車保険と補償が違う?

 ネット保険は「安い」というイメージがあります。そのため、「対人・対物無制限といっても、代理店型損保の対面販売と比較すると補償内容が違うのではないか」という疑問です。

 ネット自動車保険を牽引する損保会社の広報に聞いてみました。

「ネット保険が安い理由は、ご承知のとおり、代理店などを通さず販売できるため、代理店を通してお客様とやりとりをする営業コストが抑えられるからです。当然のこととして、お客様の万一のときにご安心いただける事故解決サービス等の提供が保険の要であり、重要と考えております。対人対物事故の補償はもちろん、お支払いする保険金なども一般的な代理店型となんら変わることはありません。さらに事故解決サービスの一層の充実に向け日頃から注力しております」

 なお、前契約に等級ダウン事故等がない場合、前契約の保険会社を問わずに「無事故割引」が適用される会社もあるので、要チェックですね。

命日の花

 交通事故はその瞬間だけで終わりません。その後のご家族の人生まで大きく変わるケースも数多く取材しました。事故現場を訪れた際、「突然、事故で家族が亡くなってしまい、あれから3年も経過しているのに、まだ心の整理がつきません。きちんと片付けますので、せめて命日の今日は、花を供えることをお許しください」という手紙とともに、小さなお花が供えられている現場には胸を打たれました。

 交通事故のケガや心の傷は、お金で癒やすことはできません。けれど、お金がなければ相手への補償をすることも、被害者の方も事故後の雑費なども多くかかり、人生の一歩を歩み出すことができないのも事実です。その一助を担うのが自動車保険だと考えます。保険料は1円でも安いことは理想ですが、自動車事故ほど実務を知った上で選択していただくことが大切だと実感しています。少し眠かったり、いらいらしているときは、思い切って路肩に車を止めてリフレッシュするなどの決断も、非常に重要です。

【まとめ】

(1)自動車保険の賠償額は、判例を元に総合的に判断される。

(2)複数の自動車保険に加入することは現実的に難しい。また、認定された賠償額以上は支払われない。

(3)対人賠償補償は、5億円以上のケースも発生している。対人賠償無制限は不可欠。

(4)加害者の補償内容が対人無制限でない場合は、残念ながら保険会社は不足分を補てんしない。

(5)(4)の場合に備え、人身傷害保険の検討は必要。歩行者や自転車運転中の事故も対象となる車外補償型の検討も。

(6)自動車事故で被害に遭った持ち物や衣服なども補償の対象となる。

(7)加害者が企業の所有車に乗っていても、個人の所有車と賠償額が異なることはない。

(8)事故が原因で精神疾患になり、休業や失業をした場合、因果関係が認められれば逸失利益として認められるケースも。

(9)保険会社が交渉の対象とならないもらい事故が多発。こうした場合に備え、弁護士費用特約をセットしておけば安心。

(10)ネット自動車保険は対面販売と補償内容に違いはない。

(11)示談交渉や裁判でもドライブレコーダーの記録は証拠として採用される。ドライブレコーダーの装着は必須と考えるべき。大手損保各社は、ドライブレコーダーによる運転診断をしてくれるオプション付きの商品を発売しているため、こちらも検討したい。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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