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Google、クッキー提供完全廃止の衝撃度合い…ネット広告業界は存亡の危機に陥るのか

文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長
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サイトgoogleより

 電通がまとめた「2018年 日本の広告費」によれば、日本の広告費は6兆5300億円ですが、「インターネット広告費」は1兆7589億円(前年比116.5%)と5年連続で2桁成長を続けており、媒体としては地上波テレビ広告1兆7848億円(前年比マイナス1.8%)に肉薄しています。すでに米国ではネットがテレビを抜いており、日本も時間の問題だといわれています。

 そんな急成長中のネット広告業界に衝撃を与えるニュースが飛び込んできました。米グーグルが1月14日に同社のウェブブラウザ「Chrome」でのサードパーティークッキー(Cookie)のサポートを、2年以内に完全に廃止する計画を発表したのです。これだけを聞いても、意味がよくわからない方もいると思いますので、まずはじめにネット広告についてわかりやすくご説明します。

リスティング広告

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「大学4年間のマーケティング見るだけノート」(平野 敦士 カール/宝島社)

 ネット広告にはさまざまなものがありますが、専門用語が多いのです。

 まず、「媒体(メディア)」とは情報伝達の媒介手段ですが、具体的には新聞、ラジオ、テレビ、ウェブサイトのことです。

「純広告(純広)」とは、主にバナー広告などを指し、広告主が媒体の広告枠を買い取り、広告主側が制作した広告を掲載するものです。ディスプレイ広告とも呼ばれます。広告を掲載するサイト等を「媒体」と呼びます。純広告の種類にも、以下のようにさまざまあります。

 たとえばバナー広告(画像による広告)、テキスト広告(文字・文章による広告)、デモグラフィックターゲティング広告(性別・年代などのユーザー登録情報によってターゲットを絞る広告)、エリアターゲティング広告(特定地域に絞った広告配信でIPアドレス別や都道府県別などが可能な広告)などです。

 また、「リスティング広告」とは、グーグルなどの検索エンジンでユーザーがあるキーワードで検索したときに、その検索結果に連動してウェブサイトの一番上や右側に「スポンサー」と表示される広告のことで、「検索連動型広告」「PPC広告」とも呼ばれます。

 リスティング広告はキーワード単位で広告出稿ができるために、検索キーワードに含まれるユーザーの興味・関心にターゲティングすることができます。そのため、検索連動型広告はクリックされる確率が高く、表示されただけでは費用は発生しません。あくまでも実際にクリックされた数に応じて広告料金を支払うため、「PPC広告(Pay Per Click)」とも呼ばれます。

 広告主は自由にキーワードを指定でき、そのキーワードに複数の入札があった場合には、入札価格と広告の品質(クリック率など)で決定される広告ランクによって掲載順位が決まります。したがって一般的なキーワードで上位に出すには、かなりの高額になることもあります。また、複数のキーワードを組み合わせることでよりターゲットを絞ることができます。

アドネットワーク

アドネットワーク」とは、広告媒体となる複数のウェブサイトを束ねて広告配信のネットワークをつくり、それらのサイトに広告配信を行うことができるようにする仕組みのことです。一つひとつのウェブサイトのトラフィックは少なくても、束ねることで全体では大量のトラフィック量となる可能性があります。

 従来、広告主はさまざまな媒体に個別に広告掲載の依頼をする必要がありました。しかしアドネットワークの登場によって、広告主は多数のウェブサイトを比較検討しながら、アドネットワーク事業者に入札制によるワンストップでの広告配信を依頼することができるようになりました。さらに広告効果測定データは、第三者であるアドネットワーク事業者が行ったものであるため、信頼性も高くなるとともに、データ分析も自社で行う必要がなくなりました。

 たとえば美容系のサイトなどの配信ネットワークのジャンルを指定できる場合には、広告効果も期待できます。また、また媒体側としてもアドネットワークに加入することで、あまりアクセスが多くない中小サイトでも手間をかけずに広告が掲載される可能性が出てきます。さらに、広告枠の売れ残りが減ることや広告に関するデータの実績管理のほか、広告の受注や掲載の手続き等も委託できるため、非常に多くのメリットがあります。

 ただ、アドネットワーク事業者はすべての媒体情報を広告主に開示していない場合もあり、広告主としては自社のブランドにそぐわない、あるいはターゲットでないウェブサイトに掲載されてしまうという可能性もあります。このため、特定のウェブサイトには広告を掲載しない仕組みも導入されてきました。

 そしてアドネットワークを使った広告では、多様な種類の広告や広告媒体が混在してしまうために、広告配信の効果を最適化する技術として、ユーザーがウェブサイトを利用したときに、ウェブブラウザ経由で送られるクッキーというデータをもとにユーザーの傾向を分析する「行動ターゲティング広告(BTA)」が普及してきました。

 クッキーとは、ウェブサイトを見たときにウェブブラウザ側で作成される閲覧履歴ユーザー情報を保管する仕組みのことです。たとえばログインしたサイトに再度アクセスした際にログイン状態が保たれているのは、とても便利ですが、これはまさにクッキーを活用しているわけです。

リターゲティング広告

「リターゲティング広告」は、一度自社のウェブサイトにアクセスしたユーザーに対して再度広告を配信する仕組みで、多くの企業で導入され実績をあげています。「リマーケティング」とも呼ばれています。

 たとえば、自動車の販売サイトを閲覧したあとに、ほかのサイトを見たら、また自動車の広告が出ていることに驚いた経験があるのではないでしょうか。一度ウェブサイトに訪問したユーザーは、そのサイトに興味を持ったユーザーである可能性が高いので、再度広告を配信することは、非常に有効なターゲティング方法であり、実際にその有効性は証明されています。ただし、過度の露出はかえって反感を抱かれてしまう危険性も指摘されています。

 リターゲティングの具体的な方法は、まず自社のサイトにリターゲティング用のタグを配置します。これによって、たとえばある商品のサイトにアクセスしてきたユーザーには、その商品に適したコピー(宣伝文句)を見せるようにしたり、申し込みページまでアクセスしたユーザーには広告露出を増やしたりします。また、すでに購入したユーザーには配信をしないようにすることで広告効率を上げたり、一定期間以上前にアクセスしたユーザーに再度告知をしたり、購入ユーザーには別の商品の広告を配信したりすることが可能になっています。

 もちろん、こうしたクッキー情報はブラウザの設定で個人が自らの設定を変更することで削除することはできます。小生は定期的に削除していますが、多くの人はそのままなのではないでしょうか。そして、あなたが閲覧したサイトのドメインから発行されているクッキーはファーストクッキー、それ以外はサードパーティークッキーと呼ばれます。

 今回問題となっているのはこのサードパーティークッキーで、複数のサイトからクッキーを発行して、個人を特定するような仕組みができているのです。

高まる自社メディアの重要性

 今回グーグルが発表したのは、サードパーティークッキーの使用を2年以内に完全に廃止するという内容でした。すでに米Mozillaは同社のウェブブラウザ「Firefox」についてデフォルトでサードパーティークッキーをブロックしていますが、市場の6割を占めるといわれているChromeでも廃止となる予定です。現段階でもChromeの設定をユーザーがブロックすることはできますが、今後はデフォルト(初期値)でブロックされることになり、ネット広告業界に大きな影響が出ることが予想されます。

 欧州の一般データ保護規則(GDPR)や、米国のカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、個人情報保護のための規制は強化されつつあります。とはいえ自社メディアを有している企業が取得するファーストクッキーについては対象とはなりませんので、今後広告主としてはますます自社メディアの重要性が高まるのではないかと思います。

 複数ドメインを横断的に提供している場合も、このクッキーの仕組みを使っている場合があります。ユーザーとしては便利である一方で、プライバシー保護の観点から規制がされつつあります。とくにEUにおいては、GDPR、Cookie lawが施行されており、ユーザーをトラッキングする際にクッキーを利用する場合には、ユーザーからの承諾を得る必要があります。

 以前、小生もサン・マイクロシステムズにおけるシングルサインオンのプロジェクトにおいて、プライバシーに関するワーキンググループのメンバーとして参加していましたが、欧州委員会の厳しい問い合わせがあり、厳しい指摘を多数受けた記憶があります。

本当に広告主とユーザーにとって有益な方法は何か

 すでに述べたように、アップルのSafariにはサードパーティークッキーを破棄するような設定がされており、ファーストパーティクッキーも30日後に破棄するとのことです。Firefoxでも利用者特定のためのサードパーティークッキーをブロックできるようになっています。

 もちろんサードパーティークッキー以外にも個人を特定する技術に近いものはあります。

 たとえばフィンガープリンティングという技術がありますが、あくまでも推測することができる技術といわれており、端末や個人の特定までには至らないとされています。

 また、今回のグーグルの発表を受けてログリーというマザーズ上場企業の株価がストップ高となりましたが、同社はクッキーを用いないでユーザー属性やデジタル行動などの分析・推定を行う技術で特許を保有するとされています。ほかにも類似の技術は開発されつつありますが、今後も個人情報保護の観点から規制は強化されていくため、イタチごっこになる可能性もあるでしょう。

 今回のグーグルの対応は、ユーザー側にとってもちろんプライバシーの観点から望ましいのですが、一方で不便な点も出てくる可能性があるでしょう。ユーザー自身が自分の情報を誰がどのように保持しているのか、それらをどのようなかたちで活用しているのかをコントロールできるようになるのが理想的でしょう。

 今後ネット広告会社は、抜本的な対応策を考えないと相当に深刻な事態になる危険性があると思います。大切なことは、「本当に広告主とユーザーにとって有益な方法は何か」という原点に立ち戻って、広告というものをとらえ直すことではないでしょうか。

 今後、広告主には自社メディアの構築による顧客情報収集の重要性が増してくると考えられます。そしてGAFABATなどのプラットフォーム戦略(R)に基づく企業がますます優位になっていく可能性が高いのではないでしょうか。

(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)
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平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

米国イリノイ州生まれ。麻布中学・高校卒業、東京大学経済学部卒業。


株式会社ネットストラテジー
代表取締役社長、社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。日本興業銀行、NTTドコモを経て、2007年にハーバードビジネススクール准教授とコンサルティング&研修会社の株式会社ネットストラテジーを創業し社長に就任。ハーバードビジネススクール招待講師、早稲田MBA非常勤講師、BBT大学教授、楽天オークション取締役、タワーレコード取締役、ドコモ・ドットコム取締役を歴任。米国・フランス・中国・韓国・シンガポール他海外での講演多数。


著書に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)『図解 カール教授と学ぶ成功企業31社のビジネスモデル超入門!』(ディスカヴァー21)『新・プラットフォーム思考』・『シリーズ 経営戦略・ビジネスモデル・マーケティング・金融・ファイナンス』(朝日新聞出版)監修にシリーズ18万部を突破した『大学4年間の経営学見るだけノート』『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社)など30冊以上。海外でも翻訳出版されている。

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