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グーグル、クッキー提供完全廃止の衝撃度合い…ネット広告業界は存亡の危機に陥るのか

文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長
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リターゲティング広告

「リターゲティング広告」は、一度自社のウェブサイトにアクセスしたユーザーに対して再度広告を配信する仕組みで、多くの企業で導入され実績をあげています。「リマーケティング」とも呼ばれています。

 たとえば、自動車の販売サイトを閲覧したあとに、ほかのサイトを見たら、また自動車の広告が出ていることに驚いた経験があるのではないでしょうか。一度ウェブサイトに訪問したユーザーは、そのサイトに興味を持ったユーザーである可能性が高いので、再度広告を配信することは、非常に有効なターゲティング方法であり、実際にその有効性は証明されています。ただし、過度の露出はかえって反感を抱かれてしまう危険性も指摘されています。

 リターゲティングの具体的な方法は、まず自社のサイトにリターゲティング用のタグを配置します。これによって、たとえばある商品のサイトにアクセスしてきたユーザーには、その商品に適したコピー(宣伝文句)を見せるようにしたり、申し込みページまでアクセスしたユーザーには広告露出を増やしたりします。また、すでに購入したユーザーには配信をしないようにすることで広告効率を上げたり、一定期間以上前にアクセスしたユーザーに再度告知をしたり、購入ユーザーには別の商品の広告を配信したりすることが可能になっています。

 もちろん、こうしたクッキー情報はブラウザの設定で個人が自らの設定を変更することで削除することはできます。小生は定期的に削除していますが、多くの人はそのままなのではないでしょうか。そして、あなたが閲覧したサイトのドメインから発行されているクッキーはファーストクッキー、それ以外はサードパーティークッキーと呼ばれます。

 今回問題となっているのはこのサードパーティークッキーで、複数のサイトからクッキーを発行して、個人を特定するような仕組みができているのです。

高まる自社メディアの重要性

 今回グーグルが発表したのは、サードパーティークッキーの使用を2年以内に完全に廃止するという内容でした。すでに米Mozillaは同社のウェブブラウザ「Firefox」についてデフォルトでサードパーティークッキーをブロックしていますが、市場の6割を占めるといわれているChromeでも廃止となる予定です。現段階でもChromeの設定をユーザーがブロックすることはできますが、今後はデフォルト(初期値)でブロックされることになり、ネット広告業界に大きな影響が出ることが予想されます。

 欧州の一般データ保護規則(GDPR)や、米国のカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、個人情報保護のための規制は強化されつつあります。とはいえ自社メディアを有している企業が取得するファーストクッキーについては対象とはなりませんので、今後広告主としてはますます自社メディアの重要性が高まるのではないかと思います。

 複数ドメインを横断的に提供している場合も、このクッキーの仕組みを使っている場合があります。ユーザーとしては便利である一方で、プライバシー保護の観点から規制がされつつあります。とくにEUにおいては、GDPR、Cookie lawが施行されており、ユーザーをトラッキングする際にクッキーを利用する場合には、ユーザーからの承諾を得る必要があります。

 以前、小生もサン・マイクロシステムズにおけるシングルサインオンのプロジェクトにおいて、プライバシーに関するワーキンググループのメンバーとして参加していましたが、欧州委員会の厳しい問い合わせがあり、厳しい指摘を多数受けた記憶があります。

本当に広告主とユーザーにとって有益な方法は何か

 すでに述べたように、アップルのSafariにはサードパーティークッキーを破棄するような設定がされており、ファーストパーティクッキーも30日後に破棄するとのことです。Firefoxでも利用者特定のためのサードパーティークッキーをブロックできるようになっています。

 もちろんサードパーティークッキー以外にも個人を特定する技術に近いものはあります。

 たとえばフィンガープリンティングという技術がありますが、あくまでも推測することができる技術といわれており、端末や個人の特定までには至らないとされています。

 また、今回のグーグルの発表を受けてログリーというマザーズ上場企業の株価がストップ高となりましたが、同社はクッキーを用いないでユーザー属性やデジタル行動などの分析・推定を行う技術で特許を保有するとされています。ほかにも類似の技術は開発されつつありますが、今後も個人情報保護の観点から規制は強化されていくため、イタチごっこになる可能性もあるでしょう。

 今回のグーグルの対応は、ユーザー側にとってもちろんプライバシーの観点から望ましいのですが、一方で不便な点も出てくる可能性があるでしょう。ユーザー自身が自分の情報を誰がどのように保持しているのか、それらをどのようなかたちで活用しているのかをコントロールできるようになるのが理想的でしょう。

 今後ネット広告会社は、抜本的な対応策を考えないと相当に深刻な事態になる危険性があると思います。大切なことは、「本当に広告主とユーザーにとって有益な方法は何か」という原点に立ち戻って、広告というものをとらえ直すことではないでしょうか。

 今後、広告主には自社メディアの構築による顧客情報収集の重要性が増してくると考えられます。そしてGAFABATなどのプラットフォーム戦略(R)に基づく企業がますます優位になっていく可能性が高いのではないでしょうか。

(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)

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●平野敦士カール:経営コンサルタント

米国イリノイ州生まれ。麻布中学・高校卒業、東京大学経済学部卒業。

株式会社ネットストラテジー代表取締役社長、社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。日本興業銀行、NTTドコモを経て、2007年にハーバードビジネススクール准教授とコンサルティング&研修会社の株式会社ネットストラテジーを創業し社長に就任。ハーバードビジネススクール招待講師、早稲田MBA非常勤講師、BBT大学教授、楽天オークション取締役、タワーレコード取締役、ドコモ・ドットコム取締役を歴任。米国・フランス・中国・韓国・シンガポール他海外での講演多数。

著書に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)」『図解 カール教授と学ぶ成功企業31社のビジネスモデル超入門!』(ディスカヴァー21)『新・プラットフォーム思考』・『カール教授のビジネス集中講義 マーケティング』『カール教授のビジネス集中講義 経営戦略』『カール教授のビジネス集中講義 ビジネスモデル』 (朝日新聞出版)監修に『大学4年間の経営学見るだけノート』『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社)など多数。海外でも翻訳出版されている。

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