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日立“製作所”、AIと無関連の事業切り離し…社員2万人の「御三家」すら容赦なく売却

文=編集部
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日立高速鉄道向け新型車両 英サウサンプトンに到着(写真:Splash/アフロ)

 日立製作所は、AI(人工知能)を中核事業に据えるべく、事業の「選択と集中」を進めている。2022年3月期に連結売上高営業利益率を10%超の水準に高めることを経営目標に掲げる。選別の基準は営業利益率5%以上だったが、現在は7~8%以上に高めた。それ以下の事業は整理対象となる。

日立グループの「御三家」日立化成を昭和電工に売却

 日立は上場子会社、日立化成(51%を出資)を昭和電工に売却する。日立グループの「御三家」の1社である日立化成の売却には紆余曲折があった。「グローバルで戦える企業になるためのシナリオをつくってくれ」。日立の東原敏昭社長は日立化成の丸山寿社長に対し、数年前から再三にわたって要求してきた。

 日立化成はスマホの世界需要が一服し、電子部品や電子材料といった機能材料事業が苦戦。20年3月期の業績(国際会計基準)は売上高に当たる売上収益が前期比6%減の6400億円、営業利益は17%減の300億円の見込み。営業利益率は4.7%にとどまる。営業減益が続く一方で海外での買収を重ねた結果、19年3月期の有利子負債は15年3月期に比べ約5割増の974億円、従業員数は2万2989人と2割近く増えた。

 これに18年6月に発覚した品質不正問題が追い打ちをかけた。鉛蓄電池にとどまらず電池材料や樹脂製品など幅広い製品で不正が行われていた。しかも、最近起きたのではなく、1970年代から連綿と続いていた。不正は国内の全7事業所や子会社にも広がり、日立ブランドの信用が損なわれた。最終的に日立は日立化成とのシナジー(相乗効果)が見込みにくいと考え、19年春に日立化成株の売却を決断した。

 独立意識の高さで知られる日立化成だったが、グループから離脱することに対する不安は強かった。社員に動揺が広がり、日立化成の経営陣は日立に翻意を求めたが受け入れられなかった。買収先の企業を決める入札には、三井化学や住友化学、韓国ロッテケミカルなど国内外の化学大手や投資ファンドのベインキャピタルなどファンドなど10社超が名乗りをあげた。

 だが、ネックとなったのが株価だ。日立による日立化成株売却の観測が報じられると、高値でのTOB(株式公開買い付け)の期待から株価は高騰。時価総額は8500億円前後と、19年の年初から2.5倍以上になった。買収額はプレミアムを加味すると1兆円前後となる高額のディール(取引)となった。このため、手を引く企業が相次いだ。2次入札を経て、昭和電工、日東電工、投資ファンドのベインキャピタル、カーライル・グループの4陣営に絞られた。

 最終選考で選ばれたのは、メインバンクであるみずほ銀行の支援などで1兆円近い買収資金の調達のメドをつけた昭和電工だった。昭和電工は19年12月18日、日立化成を買収すると正式に発表した。TOBを通じて9600億円強で全株式を取得する。買い付け価格は1株4630円。18日の終値(4080円)に対して約13%のプレミアムをつけた。昭和電工は電池材料や半導体分野の強化が不可欠だった。日立化成は、願ってもない連携相手だった。財務に重い負担がかかることもいとわず、買収を決めた。

 化学業界10位の昭和電工は18位の日立化成の買収で売上高は1兆7000億円規模になり、三菱ケミカルホールディングスHD、富士フイルムホールディングス、住友化学、旭化成に次ぐ業界5位に浮上する。

画像診断機器事業は富士フイルムHDに売却

 日立製作所は画像診断機器事業を富士フイルムHDに譲渡する。売却額は1790億円で20年7月に売却を完了する予定。譲渡されるのは16年に日立本体に統合された子会社の旧日立メディコが手がけるMRI(磁気共鳴画像装置)とCT(コンピューター断層撮影装置)、さらに旧日立メディコの子会社の超音波診断装置を中心とした画像診断機器事業だ。売上高は1432億円(19年3月期)。営業利益率が基準以下で整理対象となった。

 16年、旧東芝メディカルシステムズ(現キヤノンメディカルシステムズ)の買収でキヤノンに競り負けた富士フイルムHDの執念が実ったかたちだ。日立の言い値に近い金額での買収が決まった。富士フイルムHDの古森重隆・会長兼最高経営責任者(CEO)はヘルスケア事業を新たな成長の柱に据え、旧東芝メディカルの買収に名乗りを挙げた。当初は4000億円と見られた買収価格はつり上がり、キヤノンが6655億円で傘下に収めた。

 富士フイルムHDにとって取り逃がした魚は大きかった。日立の画像診断機器事業の買収をテコにヘルスケア事業を伸ばす。同事業の20年3月期の売上高は5200億円の見通し。今回の買収で売り上げは6600億円強に拡大することになり、オリンパスやテルモの医療関連事業を上回る。

三菱重工とは合弁を解消、火力発電事業から撤退

 日立と三菱重工業が、損失の負担額をめぐって争っていた共同出資会社、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の火力発電事業について和解が成立した。日立は保有するMHPSの全株式を三菱重工に譲渡し、和解金の支払いを含めて3780億円を負担する。15年3月期に計上した引当金を含めると、日立の負担は累計で5000億円相当に上る。日立は火力発電事業から事実上、撤退。今後は、発電所の保守サービスなどに専念する。

 日立三菱重工が対立していたのは、MHPSが南アフリカで進めていた石炭火力発電所の建設プロジェクト。日立が07年に5700億円で受注したが、ストライキの発生などで工期が大幅に遅延。14年に発足したMHPSが事業を引き継いだものの、その時点で損失が出ていた。三菱重工は日立側が追加コストを全額負担すべきだとして、17年7月、7743億円の支払いを求める仲裁を日本商事仲裁協会に申し立てていた。「可能な限り、今年中に懸案を片付けてほしい」。19年11月、日立の東原社長は幹部が集まる場でこう発破をかけた。これで三菱重工との和解へと一気に動いた。

 日立は16年3月期までに約1000億円規模を引き当てたとされる。紛争の長期化の懸念が株価の重荷になっていたが、最大の懸案がこれで決着した。和解に伴う費用の計上で、日立は20年3月期の連結純利益を前期比24%減の1700億円に下方修正した。従来予想では62%増の3600億円だった。日立化成の売却益では補えなかった。

 今後日立は機器とAIを組み合わせたソフトウェアサービス事業に経営の舵を切る。次の売却候補はA1との関連性が低い日立金属などの上場子会社とされる。

(文=編集部)

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