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小澤貴子「化粧品のウソとホント」

人気のまつ毛美容液、皮膚被害急増…角膜の潰瘍や眼球のただれ、「育毛」等表記は違法

文=小澤貴子/東京美容科学研究所
人気のまつ毛美容液、皮膚被害急増…角膜の潰瘍や眼球のただれ、「育毛」等表記は違法の画像1
「Getty Images」より

 ぱっちり目元は女性の武器。まつ毛の育毛剤として専用の美容液の売り場もできるほどの人気ですが、その一方で、かゆみやかぶれ、炎症、ただれなどを起こす被害が急増しています。

 2018年に報告された281件(※)の内容は、まぶたが腫れるというものがもっとも多く、角膜潰瘍が起きて手術が必要だったケースも発生しています。使用後に視界がぼけて、目が痛むため眼科を受診したところ、角膜の潰瘍をひき起こしており、眼球の表面がただれた状態となった方もいます。

脱法事例が散見、まつげの育毛剤は化粧品では法律で許可されていない

 まつ毛美容液は、「発毛」「育毛」「養毛」「増毛」といったキーワードで商品がヒットするケースが多く、パッケージでもこうした効果をうたうものや、それをイメージさせる広告が多く見られます。

 実は、「発毛」や「育毛」といった効果効能の表示は、一般的な化粧品では薬機法で許可されていません。こうした表示をするためには、医薬部外品として販売しなければなりません。ところが、この「発毛」「育毛」をうたう医薬部外品として承認されているのは、日本国内では毛髪向け商品だけです。つまり、まつ毛の発毛や育毛をうたう美容液には、医薬部外品として承認されたものは一つもありません(2019年12月末時点)。

 それにもかかわらず、無作為に調査(※)した20銘柄のうち、5銘柄にはまつ毛の育毛という効果効能や「医薬部外品」「薬用」などと明記されていました。これらは薬機法に違反していますが、いまだにこうした違法商品があふれています。

なぜ、まつ毛の発毛剤や育毛剤が危険なのか

 一般的な化粧品が接触する皮膚という組織は、体のなかでは特殊な部分で、細胞としては死んだ細胞でできています。皮膚の内部は生きた細胞ですが、表面は死んでいる状態のため、皮膚表面についた成分が皮膚の体内に入りにくいという特徴を持っています。

 ところが、この皮膚にも何カ所かのウィークポイントがあり、それが粘膜との境目といわれる部分です。具体的には、目の周囲や唇、鼻など。特にまぶたや目の周囲は、体中の皮膚の中で最も角層(皮膚の死んだ細胞層でバリア層の一種)の厚みが薄く、バリア機能がもっとも脆弱な部分です。だからこそ、目の部分はかゆみや痛み、腫れといったアレルギー症状が発生しやすく、成分には十分な注意が必要です。

育毛剤の有効成分をまつ毛用に使う危険性

 発毛や育毛に関与する成分は、頭皮から生えている毛髪で研究開発されてきた成分です。頭皮は体の中でもっとも皮脂腺が多いため、もう一つのバリア層である皮脂膜が多く存在する部分です。こうした成分を体の中で経皮吸収率(皮膚を通して血流に成分が吸収されること)の高いまつ毛近くの皮膚に使用することは、かなり危険性が高いということが、おわかりいただけると思います。

 多くの法律が存在するため、化粧品メーカーは皮膚や成分に関する知識を持つことが求められますが、販売員への教育は徹底されているかどうかわからないのが現状です。商品のアピールポイントは理解していても、成分が皮膚に与える影響や皮膚科学の知識を持っていないかもしれません。美容液には高額商品も多く、定期購入などを勧められることもありますが、注意が必要です。

 なお、その後の動きとして、まつ毛用育毛剤として指摘されたある業者は、「まつ毛用ではなく目元用」「勝手に出品されて迷惑している」等の趣旨を主張されています。たしかに、個人のフリマ等は法律の抜け穴で大きな問題をはらんでいますが、現状では、少なくとも卸し先の販売店に対して化粧品製造販売業者は、適切な商品の説明をし、適切に販売させる義務があります。

(文=小澤貴子/東京美容科学研究所)

※独立行政法人国民生活センター、令和元年8月8日発表資料より

小澤貴子/東京美容科学研究所

小澤貴子/東京美容科学研究所

工学博士(応用化学専攻)
1975年生まれ。上智大学理工学部化学科卒業後、応用化学修士課程に進学。修士課程修了後、大手化学会社の研究員を経て、上智大学理工学部化学科非常勤助手として研究に携わる。
その後、祖父の代から続く、東京美容科学研究所に入所、肌と美容の研究の道へ。現在、同研究所にて、化粧品の研究とともに、正しい美容科学の普及に努めている。理美容のプロおよび一般の人々に対して、肌の生理や化粧品についての知識の向上を目指すべく、教育普及活動にとくに力を入れ、全国で講習会や講演を行っている。

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