救急車出動の理由を年齢区分別に見ると、最も多い急病では高齢者が241万1050人(62.0%)、一般負傷では高齢者が62万1929人(68.2%)と圧倒的に多い。結果的に救急車搬送人員の年齢区分では、高齢者が353万9063人(59.4%)、続いて成人193万5986人(32.5%)、乳幼児26万6032 人(4.5%)で、救急車の出動の約6割が高齢者搬送のために出動していることがわかる。
この搬送人員に対する高齢者が占める割合を5年ごとの推移で見ていくと、1998年には35.1%だったが、2003年には41.4%、08年には48.3%、2013年には54.3%増加し、18年には59.4%と約6割にまで上昇した。高齢者の比率は上昇の一途をたどっており、今後も増加していく見込みだ。ちなみに、高齢者の搬送比率が高い都道府県は、秋田県、山形県、山口県、島根県、高知県など高齢化率が高い県と一致している。
これでわかるように、救急活動は件数、搬送人員共に救急体制の人員と設備の増加を上回るペースで増加が続いていることで、迅速な救急活動の実施に影響を及ぼしかねない状況になっているということだ。実際に現場の救急隊員からは、「不測の事故や交通事故への出動時に、急病人(特に高齢者)搬送で救急車が出払っており、対応が遅れる可能性がある」との危機感を持った声が聞かれる。
この救急車の出動件数、搬送人員の増加には、2つの大きな要因がある。ひとつは救急車を呼ぶのに、どの程度の病気やケガの状態だったのかという点だ。搬送人員のうち、長期入院が必要な重症は8.2%、入院が必要な中等症は41.6%、外来診療で済む軽症は48.8%と、軽症で救急車を呼んでいる人が最も多い。極端に言えば、呼ぶ必要がない程度の病気やケガで救急車を呼んでいる人が多いということだ。特に、乳幼児では76.0%、少年では74.9%、成人では61.4%が軽症で救急車を呼んでいる。
だが、最も問題なのは“言わずもがな”だが高齢者の搬送が増加の一途をたどっていることだろう。15年の国勢調査における高齢化率は26.6%。比率と同様に救急車を使っているとすれば、救急車搬送人員の年齢区分でも高齢者の比率は27%程度のはずだが、実際には59.4%となっており、高齢者は概ね9人に1人(全体は21人に1人)が搬送されていることとなる。高齢者の場合、「同じ人が月に何度も救急車を呼ぶ」「病院への交通手段として救急車を呼ぶ」人がいるという指摘もある。
救急活動が本当に必要な重症の人たちに、遅れることなく十分な対応ができるように、高齢者の健康状態を見守りながら、救急車を使わなくても治療ができる体制をつくり上げることで、救急車がより一層有効に活動できるようにしていく必要があるだろう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)