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岩井俊二『ラストレター』、傑作の誕生…言葉を失う“映画的瞬間”に魂が揺さぶられる

文=深笛義也/ライター
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『ラストレター』公式サイトより

 岩井俊二監督の映画『ラストレター』が、1月17日に公開された。その魅力を、映画業界関係者から聞いた。

※以下、一部に映画の内容に関する記述があるため、閲覧にご注意ください。

「現代の人は皆、手紙を書かなくなって久しいと思うんですけど、松たか子が演じる裕里が必然的に手紙を書かざるをえなくなる状況が、すんなりと進んでいきます。姉の未咲が亡くなったことを知らせに同窓会に行った裕里が、皆から未咲に間違われてしまうのが物語の始まり。ちょっとマンガ的なシチュエーションなのに、岩井俊二の演出力で違和感なく見せています」

 高校時代の裕里の片思いの相手であり、大学時代に未咲の恋人だった、乙坂鏡史郎を演じるのが、福山雅治だ。

「今までの映画でこんなにダメな福山見たことないってくらいの、みじめな売れない小説家ですよね。その冴えない感じがよかった。映画の中盤で、中山美穂と豊川悦司が、荒れた感じで出てきた時にドキッとします。岩井監督の25年前の映画『Love Letter』の2人じゃないですか」

 乙坂から未咲を奪った阿藤陽市を演じるのが、豊川悦司。その同居人を演じているのが、中山美穂だ。

「小説家として乙坂が抱えている問題を、グサリグサリとえぐっていく阿藤のモンスター性をトヨエツはみごとに演じています。酒浸りのダメな人間である阿藤に、乙坂は完膚なきまでに打ちのめされる。その負けた感じを演じる福山もまたよかったです。自殺から始まるけど悲壮感はなくて、悲しみを抱えた人たちを温かな視線で描いているけど、あそこだけ荒涼としている。だけどあのシーンがなければ、この映画は成立しません。脚本の良さと、演技の素晴らしさ、演出が優れていることが現れています」

 豪華キャストであるが、際だった役者は誰だろうか。

「映画監督の庵野秀明、フォークシンガーの小室等、ミュージシャンの鈴木慶一と、役者じゃない人たちが出ていますよね。この人たちの映画慣れしていない素の演技が、作品の世界観にぴったり嵌まっています。

 特筆すべきは、高校時代の裕里を演じた、森七菜。実際に彼女は高校生ですけど、芸術的感度の高い女の子らしいですね。自分がどんなフレームで撮られるか、わかって演じていると聞きました。新しいスターが出てきたな、と感じました。森七菜は高校時代の裕里と、現在の裕里の娘の一人二役。広瀬すずは高校時代の未咲と、現在の未咲の娘の一人二役。同じくらいの年代の女の子の二役で、普通にやったら無理がありそうですけど、みごとに別の人物になっています。器用な役者はいっぱいいるけど、森七菜も広瀬すずも本当にうまい人です。物語のクライマックスで2人は、アッと息を呑むような映画的な瞬間を観客にもたらします」

 映画の原作は、岩井俊二自身の小説『ラストレター』。小説ではこの場面が生み出す感情を言葉で語っているが、映画では一瞬にして観客の心に訴えかけている。

「初恋を扱った切ない物語だけど、映画ではなんでもありになった現代で、純愛こそがファンタジーなのかなと思わせる映画でした。昔からの岩井ファンが多いのか、映画館には年齢の高い観客が多かったんですけど、どの世代でも楽しめる映画。高校生などの学生や若い人に見てほしいです。『あれって、どういうこと?』『自分だったらこうするな』など、見終わった後に語り合えることが多いのではないでしょうか」

 映像の美しさもずば抜けている。スクリーンで見るべき映画だろう。

(文=深笛義也/ライター)

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