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南清貴「すぐにできる、正しい食、間違った食」

電車の優先席に座る若者、“非常識”ではなく“骨盤の開閉に問題”が原因?

文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事
【完了】電車の優先席に座る若者、非常識ではなく骨盤の開閉に問題が原因?の画像1
「Getty Images」より

 冬の岐阜県・大垣は寒い。滋賀県との県境にある伊吹山から吹いてくる風が、ことのほか冷たく、それを「伊吹おろし」と呼びます。その風は大垣を吹き抜けて平野部を吹きわたり、三重県の桑名まで達するといわれるほどです。思えば、筆者が大垣に住まいを移してから3月で9年がたつわけですが、いまだにこの伊吹おろしには慣れません。

 東京に行くと、確かに寒いことは寒いのですが、その寒さの質みたいなものが違うように感じます。また、東京は本当に人の数が多いと感じ、ちょっと打ちのめされるような感覚をおぼえます。数年前までここに住んでいたというのが、何か妙に感じるくらいです。

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 そんな東京に住んでいる人たちのなかに、生粋の東京人がどれくらいいるのかは定かではありませんが、とにかく東京の人のマナーが悪くなったと思うのです。筆者が、ほかの人より頻度高く、そのような場面に出くわすのかもしれないとも考えたりするのですが、たとえば駅の改札とホームを行き来するエレベーターなど、本来は高齢者や体が不自由な方が優先的にお使いになるために設置されていると理解していますが、何かしらのハンディキャップなどをお持ちではないような若者が我先に乗ったりしている姿を見かけます。筆者もキャリーバッグを引っ提げ、重たいリュックも背負っていたりする時があり、そのような時にはエレベーターを利用することもありますが、手ぶらの若者が我が物顔でエレベーターを利用するのには、どうしても違和感を拭えず、抵抗感があります。

 また、今や「優先席」というのも名ばかりのような気がします。若者がどっかと腰を下ろし、ご高齢の方がその前に立って手すりやつり革を握りしめている、というような光景もよく目にします。

 これは一体どういうことかといえば、若者たちの足腰が弱っているのです。

 日本の若者は体力だけではなく、学力も大きく落ちています。経済協力開発機構(OECD)が行っている、国際学力調査「PISA:Programme for International Student Assessment」によると、日本の高校1年生の学力は2000年の段階で科学リテラシーが世界で2位、数学リテラシーは1位でした。それが18年はそれぞれ5位、6位と、明らかに低下傾向にあります。読解力は15位と、さらに低いランクです。全体的に見ると、OECD加盟国の平均得点より高かったのですが、この低下傾向に歯止めをかけることは難しいようです。

若者の体力低下は学校教育の「体育」に問題

 体力も同じように低下傾向にあるのですが、そこには根本的な間違いがあると、筆者は睨んでいます。それは体育とスポーツを混同している、という間違いです。学校教育のなかの体育という授業は、スポーツのスペシャリストを養成するためのものではないはずです。子供たちのなかでアスリートになるのは、ごくわずかであるのにもかかわらず、体育の授業ではさまざまなスポーツに取り組ませようとします。

 筆者は、そんなことをする前にやるべきことがあるだろう、と主張したいのです。まずは総合的な体力をつける、体を鍛えることをすべきです。その考えの下に、いろいろなスポーツ競技を活用する、というのであればわからないでもないのですが、実際に学校教育のなかで行われているのは競争です。競技に勝つことが最優先されていて、体を育てる、体を鍛えるということに重きを置いているとは、とても思えません。

 学力低下の原因も、入学試験に合格することがゴールになってしまっているため、何かを憶えることが先行して、じっくり考えるということが蔑ろにされています。競争することが悪いことだと言う気などさらさらありませんが、競争がすべて、勝つことが目的というのは、明らかに生き方として間違っていると筆者は思っています。昨年引退した大相撲の嘉風関は、こう言いました。

「勝つことが目的なのではない。いい相撲を取ることが目的なのだ。その結果、勝てればなおいい」

 嘉風関が周囲から尊敬され、長く現役を続けられた秘訣は、ここにあるのだと筆者は思います。

 いつの時代であっても、教育に完璧などということがあろうはずはありませんが、いくらなんでも今、行われている学校教育が十分なものとは、到底考えられません。教育の無償化や、学力強化のために学習塾に通わせるのも結構ですが、問題は教育者の質が低下していることではないでしょうか。学校の先生が置かれている環境は、単純に労働条件という観点からしても優良とはいえません。給料もそれほど良いとは言い難く、優秀な人が先生になる確率は低くなります。もちろん、優秀な、素晴らしい先生もいることは百も承知ですが、全体としては、そういうことになります。

 今、先生として活躍している優秀な方は、何か強い使命感みたいなものを感じて、がんばっていらっしゃるのだと思います。しかしそれは、そのまま続くわけではないのです。したがって、このままの状況が続けば、子供たちの体力、学力はともに落ち続けていくことでしょう。筆者が憂慮するのは、子供たちの教育自体が、ビジネスの対象になってしまっていて、そこには本来あるべき教育者の質や、もっと大事な子供たちの個性を生かし伸ばす、という視点が欠けていることです。

足腰が弱る原因は「砂糖」

 もうひとつ重要なことは、優先席にどっかと座ってしまっている若者たちは、そうしたくてしているのではないということです。彼らの足腰が弱っているのは確かですが、それとは別に骨盤の開閉がうまくいっていないという事実があるのです。骨盤の開閉がうまくいかないと、立ったり座ったりという動作がスムーズにはいきません。億劫になってしまうのです。だから、あの若者たちは、悪気があって優先席に座っているのではなく、骨盤が閉まらないから立てないのです。

 骨盤の開閉というのは、基本的に不随意筋が行います。つまり不随意運動です。この不随意筋を鍛えるのは、スポーツでは無理です。なぜなら、スポーツは大半が随意運動によるものだからです。いくら随意筋を鍛えても、不随意筋は鍛えることができないのです。体を育てるため、体を鍛えるためには、不随意運動を教えなければならないわけですが、今の学校教育では、その点が決定的に欠如しています。

 さらに問題なのは、甘いものの食べすぎです。甘いものを食べると、骨盤は開く傾向に向かい、それが続くと閉まりにくくなります。今の子供たちも、大人たちも、甘いものに囲まれていると言っても過言ではありません。だから、骨盤を閉められなくなっているのです。

 加えて、かつての日本人は、生活の中で自然と骨盤の開閉の能力を鍛えられていたのですが、洋式の生活が定着してしまったため、骨盤の開閉能力が育たないまま、大人になってしまうのです。電車の優先席に座っている若者は、骨盤の開閉能力を失っているため、サッとは立てないのです。

 おやつに少量の、しかも良質な甘いものを食べることまでやめろと言うつもりはありませんが、考えなければならないのは、料理に砂糖を使うことです。料理教室などを開催している方には、重い責任があります。外食産業にも当然、同様の責任があります。料理に砂糖を使うのは、決してスタンダードではありません。むしろ下品なことだと認識すべきでしょう。甘いものの食べすぎをやめ、砂糖を使った料理をしなくなれば、優先席に座ったまま立てなくなってしまう若者の数が、いくらかでも減ることになるでしょう。食べるものは、私たちの生活の意外なところにまで、大きな影響を与えているのです。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)

南清貴

南清貴

フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会
代表理事。舞台演出の勉強の一環として整体を学んだことをきっかけに、体と食の関係の重要さに気づき、栄養学を徹底的に学ぶ。1995年、渋谷区代々木上原にオーガニックレストランの草分け「キヨズキッチン」を開業。2005年より「ナチュラルエイジング」というキーワードを打ち立て、全国のレストラン、カフェ、デリカテッセンなどの業態開発、企業内社員食堂や、クリニック、ホテル、スパなどのフードメニュー開発、講演活動などに力を注ぐ。最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した新しいタイプの創作料理を考案・提供し、業界やマスコミからも注目を浴びる。親しみある人柄に、著名人やモデル、医師、経営者などのファンも多い。

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