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片山修「ずだぶくろ経営論」

マツダSKYACTIV-X、世界震撼のガソリンエンジン性能向上達成への10年間の戦い

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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 一方、欧州の自動車メーカーは、エンジンの排気量を小さくすることによって燃費を改善し、出力性能の低下をターボで補う、いわゆる「過給ダウンサイジングエンジン」に取り組んでいた。マツダは、それも選ばなかった。

「ダウンサイジングも、やはりコストが相当高くつく。コンベンショナルなエンジンで頑張るのがコスト的にもいいし、性能的にも絶対にいいわけです」と、彼は譲らなかった。過給ダウンサイジングエンジンには、過給機や加圧された空気を冷やすインタークーラーなどの部品が必要になる。しかも、排気量を小さくして、燃費を稼いだとしても、エンジンそのものの効率を高めたことにはならない。それは、技術者としての誇りが許さなかった。人見は、自分たちの考える方式が燃費もコストも優位であると確信していた。

 あくまで内燃機関の可能性にこだわり続ける人見に対して、社内からは「このままでは後れをとってしまう」と、反対の声があがった。外部からも、「持たざる者の遠吠えに過ぎない」と酷評された。彼は、一計を案じる。“外圧”の活用で社内の反対を突破した。

「欧州のCO2排出規制案という“外圧”をむしろ、利用したんです」と、人見はいう。

 組織で働く以上、抵抗勢力との闘いは避けられない。だが、それを乗りこえなければ新しいことはできない。“外圧”を盾にとって、反対勢力を抑え込む作戦に出た。つまり、一点突破を図ったのだ。これが転機となる。

「“外圧”がなければ、あのとき内燃機関の強化などといった、時代遅れで、ぶっ飛んだ発想は社内に受け入れられなかったと思います。なぜ、そんなリスクをかけなきゃいけないんだ。大丈夫なのかという声に圧倒されていたでしょうね。しかし、世の中が要求しているということであれば、リスクをかけてでもやるしかない、と社内も納得せざるを得ないと思います」

 人見に「それは、開き直りですか」と問うと、一瞬、考えたのち、「まあ、開き直りかもしれない」と口にし、さらに一呼吸置いたあと、次のように力を込めて語った。

「じゃあ、ほかに対案があるんですかということなんですよ。あれば、どうぞ勝手にやってくださいということですが、なかったら、やるしかないじゃないですか」

 人見は、ここでジャンプした。すなわちリスクをとり、内燃機関の改善に取り組む。安定志向の大企業にはできない挑戦だ。

「どんな会社でも、厳しい規制がきたらね、チャレンジせざるをえないと思いますよ」と、彼は言う。

吸排気に関わる研究成果、マツダのエンジンのトルク向上に貢献

 人見は子供のときから、飛行機が好きだった。クルマには、さほど興味があったわけではなかった。

「飛行機を開発したいと思ったことはないけれど、見るのがえらく好きだった。高校生のときには、パイロットになろうと思ったこともあった」

 79年に東京大学工学部航空工学科を卒業し、大学院を修了後、当時の東洋工業(現マツダ)に入社した。志望動機は単純だった。マツダの本社のある広島県の隣県の岡山県出身だからである。入社後、エンジン技術開発課に配属になり、高圧縮比化の研究に従事した。技術者としてエリートコースを歩んだわけではない。

「あのころは、エンジンを回して遊んでいたような気がします。こうやるとこうなるのかなどと、いろいろなことを試していましたね」

 会社には、必ず陽の当たらない部署があるものだ。当時の先行開発部門は、具体的な製品開発には直結しないことから、存在感が薄い部署だった。「僕は、ほったらかしにされていたんですよ」と苦笑する。

「先行開発は、陽の目を見ないんだけど、関心が持たれない分、好き勝手やっていても何もいわれなかったよね。とはいえ、いつも虚しさを感じていたね」

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