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片山修「ずだぶくろ経営論」

小さなマツダが世界一のSKYACTIV-X生んだ“常識外れの”モデルベース開発手法

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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MAZDA3

 ポイントは、はじめにモデルを決めてしまい、仕事の手戻りを減らすことだ。そうすれば、試作の数も減らせる。つまり、知恵を絞った結果が、開発サイクルを短縮するために、モデル上で有効性を検証するモデルベース開発だった。バーチャルシミュレーションを用いた設計、検証、量産化を行うための開発手法である。そして、その検証作業では、CAE(コンピュータ・エイド・エンジニアリング)手法を用いた。

「CAEによって、商品開発部門も短い期間に少人数で開発ができるようになり、人を先行開発にシフトしてもらえるようになりました」

 じつは、人見がCAEを取り入れた狙いはそこにもあった。先行開発部門は、やることが山のようにあったにもかかわらず、悲しいかな、スモール・カンパニーのマツダには、人が足りなかった。だから、人見はCAEを活用して、商品開発を効率化し、先行開発に人を回してもらおうと考えたのだ。

「例えば、昔であれば燃焼実験には、それこそ何カ月間もかかったが、コンピュータを用いれば3日で計算することができる。うちの特徴は、あるクルマに使ったアイデアを法則化して、別のクルマの開発でも使えるようにする。そうすれば、カネも人手もかかりませんからね」と、人見は言う。

 2004年に10%だったエンジンのコンピュータ上の検討は、次第に上昇し、現在では約80%がコンピュータ上で検討できるようになった。試作の数も減り、手戻りも少なくなった。人見は、次のように言う。

「じつは、『SKYACTIV‐X』のエンジンの燃焼は、CAE上でやらなければ絶対にできないんですね。計算で燃焼がシミュレーションできなければ、ああいうエンジンはできない」

大胆不敵な藤原清志との出会い

 2007年、スカイアクティブ開発を担当するパワートレイン開発本部長として送り込まれたのが、現副社長の藤原清志である。人見は、上司が他部門から送られてきたことに、複雑な心境を抱いた。

「心の底では、じつに憂鬱な気持ちでした」。というのは、藤原はエンジンの経験が皆無だった。その藤原を、いきなりパワートレイン開発本部長に抜擢するのは、いかにもマツダらしい大胆な人事だ。藤原は、知る人ぞ知る個性的な人物だ。ひとことでいえば、大胆不敵だ。他社からは“ヤクザ”と恐れられている。その藤原が、エンジンのリーダーとしてやってくることに、人見は不安を抱いた。就任にあたって、藤原はパワートレイン開発本部の幹部社員を講堂に集め、最初からガツンと宣言した。

「私は、これまでの常識を壊しにきました。目指すのは、世界一のクルマをつくることです」

 当時の先行開発部門は、不満が渦巻き、沈みきっていた。世界一のエンジンをつくるどころではなかった。「何を言っているのか」という空気が漂った。挨拶の最後に、藤原はこう言った。

「同じビジョンが持てない人は申し出てください。異論がある人は私にメールをください」

 公の席で、しかも最初から、ここまで率直にモノを言うリーダーがいるだろうか。いかにも彼らしい発言だった。

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