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かつては「幸せな気分になる薬」だったが… 人類の歴史を変えた「薬」たち

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※画像:『歴史を変えた10の薬』(すばる舎刊)

 人類の発展に対して、「薬」は非常に重要な役割を果たしてきた。時にそれは歴史を大きく変えるきっかけとなった。

 

■幸せな気分になるボーナス付きの「薬」はなぜ取り締まられたか

 例えば、「アヘン」と「モルヒネ」。

 アヘンは「麻薬に関する単一条約」のもと、国際統制下にある麻薬だが、20世紀までは「薬」とみなされていた。そのうたい文句は「痛み止め、睡眠薬、消化薬、咳止め、頭痛止め、目の炎症、ケガ、痛風に しかも幸福な気分になるボーナスつき」(『歴史を変えた10の薬』カバーより)というものだったそうだから、驚きである。

 かつて魅惑の薬とされ、大航海時代において重要な商品であったアヘンは、1840年に清国とイギリスの間で戦争を引き起こしている。「アヘン戦争」である。

 アヘン戦争が起きる前の1830年代後半では、当時の中国の人口の1%にあたる400万人がアヘン常用者だった。それを問題視した清国は、大量の金が動くアヘンの密輸入を断ち切ろうとして、輸入を促進していたイギリスと戦争する。

 この戦争はイギリスが勝利したが、清の皇帝・道光帝はそれでもアヘンに対して毅然とした態度を取り続けており、「我が民の悪習と苦悩から利益を得るという誘いに一切応じることはない」としていた。

 彼の3人の息子は、実はアヘンの影響で亡くなっていたのだ。アヘンは鎮痛剤だけでなく、娯楽として使われる世界中の一般市民が求める薬だった。だがそれは、大きな問題を起こす原因にもなっていた。

 一方のモルヒネは、19世紀にアヘンのメリットの部分に対する研究が発展する形で精製された。アヘンからモルヒネを初めて単離したのは、ゼルチュナーという当時20代前半の若手研究者だったが、無名のまま亡くなっている。

 医療における実用化が進んだのはそれからだ。

 アヘンより鎮痛効果がはるかに強いモルヒネは、病院の薬局や医師のカバンにつねに収まっている薬剤になる。1841年にはシャルル・ガブリエル・プラバというフランスの医師が、新しいツールである「注射器」を医学に導入。「プラバ」と呼ばれるようになった注射器は、モルヒネの投与に使われるようになった。

 しかし、モルヒネは一方で殺人の道具にもなったのである。

 有効に作用する容量の幅が狭く、多すぎると呼吸がとまる。1900年頃は過剰摂取による事件が新聞に常に載っていたという。まさに「金になるし、殺しの道具」にもなったのだ。

 それから、より安全で常用性をもたらさないオピエート(モルヒネアルカロイド)を探す研究が1世紀にわたって重ねられ、現在でも厳格な管理のもと、医療用麻薬としてがんの治療などでモルヒネは使われている。

 一方で、アヘンやモルヒネは法的に管理されている。なぜならば、これまでの人類の歴史に深く根差し、影響を与えてきた薬物だからだ。

短所がなく長所だけを得ることはできない。あらゆる科学的発見は諸刃の刃で、身体的にも心理的にも、利益には間違いなく危険が結びついている。
人は利益に飛びつき、危険は放置してあとで処理しようとする。それこそ、喜びをもたらす植物から生まれた、神の薬であるアヘンに対して人びとが起こした反応である。
(『歴史を変えた10の薬』p.76より引用)

 これは、メディカルライターであり、オレゴン大学プレスのディレクターを務めるトーマス・ヘイガー氏による『歴史を変えた10の薬』(久保美代子訳、すばる舎刊)による一節であり、「薬」というものの本質を言い表している。

 メリットがあれば、デメリットもある。アヘンはその振れ幅がとてつもなく大きかった例だ。

■「天然痘」の根絶をはじめとした10の事例。そして薬の将来。

 本書は、タイトル通り、歴史を変えた薬を10例取り上げている。もしこれらがなければ私たちの住む世界は大きく変わっていたかもしれないというものばかりだ。

 例えば「天然痘」は今でこそ根絶している感染症だが、1796年にイギリス人医学者のエドワード・ジェンナーが、牛にできる牛痘の膿を接種する(ワクチン接種)と予防になることを突き止め、根絶の道が開けている。

 天然痘はそれまで致死率が極めて高く、身分の高い低いを問わず人を殺していく「怪物」だった。本書ではジェンナー以前の1700年代における「ワクチン接種」への道のりを克明に辿りつつ、今のワクチンを巡る現状についても触れている。

 ヘイガー氏は「ワクチンの義務化が公衆衛生のためになることは明らかだ」と反対活動に対して牽制し、その歴史を通してワクチンの重要性を提示するのである。

 章を追うごとに現代と近づいていき、エピローグで語られるのは「薬の将来」だ。

 一大ビジネスと化している製薬業界において、自社医薬品を売るための様々な宣伝活動がなされている一方で、その裏にあるデメリットは伝わりづらくなっており、医療そのものへの信頼が危うくなることをトーマス氏は危惧する。

「あらゆる科学的発見は諸刃の刃で、身体的にも心理的にも、利益には間違いなく危険が結びついている」

 繰り返しの引用となるが、この言葉は肝に銘じておくべきだろう。その中で何が最善の判断となるのかは、これまでの歴史が教えてくれるのではないだろか。
(新刊JP編集部)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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