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東京・都教委、税金から不正支出疑惑…都立高校で偽装請負を隠蔽、人員を適切に配置せず

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
【完了】東京・都教委、税金から不正支出疑惑…都立高校で偽装請負を隠蔽、人員を適切に配置せずの画像1
東京都庁(「Wikipedia」より)

 東京都立高校の学校図書館で2015年5月に起きた偽装請負事件。教育現場が違法認定されるという前代未聞の出来事であるにもかかわらず、東京都は、その事実をこれまで一切世間に公表してこなかった。

 そのプロセスが詳しく記録された内部資料からは、学校図書館の民間委託が、偽装請負にとどまらず、不正の温床となりかねないずさんな実態が次々と浮かび上がってきた。1月16日付当サイト記事『東京都教委も非公表、都立高校・図書館運営で偽装請負発覚…都教委が現場に責任転嫁』に引き続き、その実態に迫っていきたい。

 筆者が独自に入手した資料によって、都立高校の図書館運営に関して、少なくとも15年度に業務を受託した2社において8件の契約不履行が起きている証拠をつかんでいた。だが、それは当時、起きていた不履行の全体像からすれば、ほんの一部であることが次第にわかってきた。

 それは、教職員組合による独自調査が発端だった。都立高校関係者によれば、受託者の不履行は15年時点でかなり大規模に発生していたという。

 15年4月、契約通りに従事者が配置されていない旨の相談が寄せられたのをきっかけに、東京都高等学校教職員組合(都高教)が委託校全校(80校)の分会を通して実態調査を実施したところ、17分会から契約違反事例が報告された。

 さらに翌16年4月にも委託校全校(97校126分会)に対して実態調査が行われ、そこでは21校で従事者配置欠損が報告されたほか、従事者名簿の未提出20校、未経験者の雇用16校などの違反事例も報告されている。このうち5校は、6月時点でも従事者配置欠損が解消されていないことが判明している。

 15年に労働局による是正指導を受け、都教委の指導があったにもかかわらず、1年たって状況は改善されるどころか深刻化しているようにみえる。だが、都はこれらの事実を一切公表していない。

契約不履行でも委託費は減額せず

 この不履行問題を追っていくと、契約に違反した事業者に対してペナルティを課さず、当初の契約通りの委託費が支払われるという不適切な経理処理の問題に行きつく。

 関係者に取材したところ「不履行でも委託費は減額されていないはず。(不履行が起きた)15年当時、都が事業者と締結していたのは総価契約なので、日数に応じて委託費を減額できる仕組みにはなっていないから」との証言が得られたからだ。

 そこで筆者が「不履行が発生した分、委託費は減額したのか?」と、都教委の担当課長に質問したところ、当初、あくまでも「開館できなかった日数等の計算によって、委託費は適正に減額処理をしている」との回答だった。

 その証拠となる15年度と16年度分の文書を情報開示請求したところ、45日の延長の末にようやく一部黒塗りで開示決定が出た。だが、開示された資料をいくら調べても、不履行を犯した2社8件について減額された記述は見当たらなかった。

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2015-16年度に起きた不履行についての減額処理をした資料の内容を一覧表にしてみると、15年度にもっとも多く不履行を起こした荻窪高校を受託したサービスエースは、減額されていないことがわかる

 あらためて都教委に確認すると「15年度については、開示したもの以外の文書は存在しない。つまり、これ以上減額した事実はない」とのこと。結局、15年度については、2件(総額5700円程度)減額処理されただけ。前回記事で紹介した、荻窪高校で起きた長期にわたる司書不配置などについては減額対象にはなっておらず、このとき一部減額されたのは16年度の不履行についてのみであることが判明した。

 不履行について、一部しか委託費を減額していないことを正式に都教委が認めたわけだが、その点について、ある図書館関係者は、こう断罪する。

「税金を扱うものとして、極めて不適切な処理を行っていたわけです。一方で減額処理を行った企業があるのに、もう一方ではそれをしていないことについて、どのような基準に基づいて差別が生じたのか、公平な処理を行わなかった理由を明らかにすべきでしょう」

 都立高校の関係者も、こう批判する。

「現場には厳しく『都民の貴重な税金を有効に使うように』と言いながら、自分たちは無責任に無駄遣いをしていたんですね。何か特別な事情があったのかもしれませんが、都民が損害を受けたことは事実であり、校長や容認した本庁の管理職、減額を求めないことを決めた本庁の管理職などは、本来は連帯して賠償責任を負うべきではないかと思います」

 別の都内学校関係者は、学校ではあり得ない不正経理ではないかと指摘する。

「たとえば、うっかり誤発注して給食の食材費が予算オーバーしたら、校長と栄養士が連帯して超過分弁済するのが学校経理の世界です。それなのに、都教委が不履行の委託費を一切減額しないなんて信じられません」

 そもそも都教委は、不履行と同時に発覚した偽装請負についても、労働局から是正指導を受けるという重大事案であったにもかかわらず、「指導をもとに是正した」と述べるだけで、誰ひとり責任を取っていないと指摘されている。

実質的にペナルティなし

 いったいなぜ、そんなチクハグな行為を都は行ったのか。前出の図書館関係者は、15年度の2件のみ処理した日付に注目する。

 下の図を見ると、15年度に2日分・約5700円を減額処理した日付が「3月30日」になっている。筆者は、16年度にこの件が問題になったとき、急遽アリバイづくりのため15年度もついでに減額処理をしたかたちにしていたのだろうと疑っていたが、この関係者は、さらに一歩踏み込んだ見解を示した。

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15年度中に起きた不履行分の委託費を減額することを決定した文書。3月24日に起案されて3月30日に決裁されている。

「もし、アリバイづくりであれば、3月30日以前に行っているはずです。30日に決定というのは、4月以降にこの問題に気付いて減額をしようとしたが、受託会社との調整が前年度会計閉鎖のギリギリになっても成立せず、成立した2社のみを対象に、3月30日にさかのぼって減額決定したということではないでしょうか。31日は最後の日なので避けて30日にした。実にばかばかしいのですが、それが役人の世界です。減額しないと危険だという認識を誰も持っておらず、新年度になって気が付いた人間がいて、慌てて処理したと考えればつじつまが合います」

 もちろん、これはあくまでも推測にすぎないのだが、荻窪高校のように延べ日数にして56日にもわたって不履行となった分については、結果的に委託費は1円の減額もされていないのだから、「税金の不正な使途」と指摘されても仕方ないだろう。

 さらにこの関係者が厳しく糾弾するのは、17年度から始まった新たな減額処理の仕組みだ。

 東京都は17年度以降、不履行が起きても委託費を減額しづらい「総価契約」から、履行された時間当たりで委託費を支払う「単価契約」ヘ移行した。不履行が起きても、16年度までのような手続きは不要で、受託者が“仕事をした分だけ支払う”仕組みを導入したことになるのだが、前出の図書館関係者は、これはとんでもない脱法行為だと批判する。

「契約通りに開館されないことが問題になっても、その場合は『ペナルティとして委託料を支払わない』と堂々と言えます。これで都教委はきちんと対応しているかのように装って、都民や都議会も乗り切れるということになるのでしょう。

 しかし、この場合の単価契約がどんなにおかしいことか、ほかと比較すればわかります。たとえば、公共図書館で従事者の人数が足りないので開館できないことを考えて単価契約にする、市民に証明書を発行している部署を外部に委託して、業務できない日が出たら減額するといった事態です。人数が足りない日があれば委託費を減額するという契約ではなく、きちんと業務を遂行できる業者を選ぶべきです」

 つまり、単価契約は「きちんと業務を遂行できない“不良業者”に、引き続きその業務を行わせるために編み出したウルトラC」なのではないか。

 減額処理の方法についても、契約書には不履行を犯した場合のペナルティは定められておらず、別途、東京都が受託事業者との協議のうえで減額処理する方式で進められたことがわかった。しかし、肝心の算定部分については、開示資料が黒塗りされているためわからない。

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2016年度に不履行を犯した事業者が、契約書で定められた「仕様書に定めのない事項については、委託者と受託者の協議の上定める」に基づいて、都教委が提示した不履行分の減額処理について受託者が同意した書面
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減額処理を行うために、不履行日数分の委託額を事業者が提出している原価計算データをもとに計算した書面

 この2枚の写真は、この会社が16年4月の2日分、5月の1日分の計3日分について、仕様書通りに従事者を配置できなかったとして、計3万2681円が委託費から引かれるという処理がなされることを承諾した書面である。

 この間の人件費は発生していないわけだから、事業者にとっては、この減額による損失はない。つまり、なんのペナルティにもならない。都高教による調査結果を教えてくれた関係者は、こう指摘する。

「従事者の欠損した分の委託費が正しく減額されていないとすれば、(民間委託は)もともと無理な施策だったということになろうかと思います」

 内部資料からは、受託者の報告があとから虚偽であったことが判明するなど、そもそもこの民間委託のスキームには、都教委側が業務履行の確認・正確な状況把握すらできていないという致命的な欠陥があったことが浮き彫りになった。

公務を受託する事業者の実態

 なぜ学校図書館で、このようにずさんな運営がまかり通っていたのだろうか。

 15年当時、事業者との契約は単年度だった。だが、毎年、入札価格のみで決まっていたため、業務の質によって事業者が翌年意向の仕事を落とされるようなことはなかった。つまり、安い入札価格さえ提示できれば落札可能なのだ。学校図書館の運営業務に入ってくる民間事業の多くは、ビル管理や清掃業をメインにして手広く公務を受託している企業ばかり。図書館はもちろん、学校教育にかかわっている企業は見当たらない。公務を受託する“うまみ”を知っている業者たちだけで仕事が回っていく、利権みたいなものなのかもしれない。

 いずれにしろ、何度注意しても契約違反を繰り返す事業者に対して、都教委としても、まったく打つ手がなかったのだ。

 偽装請負と同時に発覚した、こうした不履行の実態についても、公表されていれば、事態は変わっていたのではないだろうか。現場で担当教諭と受託スタッフが打ち合わせしただけで偽装請負になってしまい、業務を遂行するスタッフの採用がうまくいかなければ、たちまち不履行を犯してしまう。そんな学校図書館の委託スキームそのものが根底から崩壊しつつある実態が広く世間に知られたはずだが、東京都がこれらの事実を隠蔽し続けたことで、学校図書館の民間委託の難しさは伝わらないまま年々、野放図に広がり続けた。

 実は、不履行は都立高校だけの問題ではない。区立の学校図書館を民間に委託した練馬区などでも、同様の不履行が大規模に起きていることがわかっている。

 いったいどうして、学校図書館がそんな無茶苦茶な状態に陥ってしまったのだろうか。次回、学校図書館の委託会社で働く人たちにスポットを当てて、その劣悪な労働条件と、雇用する委託会社の実態について詳しく見ていきたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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