
中国発の新型肺炎ウイルスが世界に拡大していることを受け、日本政府が掲げる「インバウンド観光客、2020年に年間4000万人」の目標達成は絶望的になった。日韓関係悪化で離れた観光客に続き、最大消費客の中国人離れも起きれば、多額の損害も予想される。
「やはり国際関係の善し悪しや海外情勢に左右される観光業のリスクが浮き彫りになった」
あるネット証券ストラテジストは、今回の新型肺炎により今年の訪日観光客が減少するとし、こう嘆いた。
新型肺炎は今年初めに湖北省武漢市から拡大し、中国全土だけでなく、日本や米国などでも感染が確認され、終息はまったく見通せない状況だ。中国政府は1月27日から団体客の海外旅行を当面中止するなどの対策をとっているが、世界保健機関は1月31日に緊急事態宣言を出す異常事態となった。この宣言を受け、米国が中国への渡航禁止を決めるなど、事態はより緊迫感を高めている。
観光庁が1月に発表した、2019年の訪日外国人観光客数は前年比2.2%増の3188万2100人で過去最高となった。日韓関係の悪化で韓国人観光客が同25.9%減の558万4600人となったのに対し、中国人観光客は同14.5%増の959万4300人と大幅増となっており、2020年も東京五輪でさらなる増加が見込まれていた。
観光業者や「爆買い」で潤う小売業者にとって、今後予想される中国人観光客の減少は他の国からの観光客とは比べものにならないほど死活問題となる。観光庁の19年の訪日外国人消費動向調査によると、1人あたりの旅行支出は韓国人は7万5454円なのに対し、中国人は21万2981円と約3倍。まさに「中国人1人は韓国人3人分の経済効果がある」(前出のストラテジスト)といっていい。
野村総合研究所も新型肺炎の拡大で消費が減少することにより、2020年の日本の名目国内総生産(GDP)が、0.45%分に当たる2兆4750億円減少する可能性があるとの試算を発表している。
予期せぬ安倍政権への打撃
安倍政権はインバウンド観光客増加を重要施策と位置づけてきたが、実は農水産物の年間輸出1兆円の目標設定と共通する部分があると、全国紙政治部記者はこう解説する。