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新型肺炎、中国を称賛したWHOの闇…台湾との情報共有を拒否、感染封じ込め努力が無駄に

文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家
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テドロス・アダノム事務局長(左)と習近平・中国国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 1月28日、台湾で8人目の新型コロナウイルス感染者が見つかった。ただし、それまでの感染者は中国本土で感染してから台湾に来たもので、これは台湾内で感染が確認された初めての例となった。この感染者は、中国から帰国した妻から感染したと考えられる。

 台湾の蔡英文総統は、WHO(世界保健機関)による新型コロナウイルス専門家会議に、台湾代表の出席を認めるように要請したが、WHO側は頑として認めなかった。台湾はWHOに加盟していないが、この緊急事態において台湾を排除した裏に、中国の圧力があったと見る向きは多い。

 WHOなど国連専門機関の多くが中国の影響を受けているといわれているが、エチオピア人であるWHOのテドロス・アダノム事務局長は、特に中国の息がかかっているとみられている。エチオピアは、「一帯一路」を通して中国から多額の投資を受けており、いわば中国と蜜月の関係にある。

 1月23日にWHOは緊急事態宣言を見送っているが、この直前に「武漢封鎖」が実施されており、中国側に配慮した措置ではないかと疑われている。実際、テドロス事務局長は1月28日に北京を訪問して習近平主席および李克強首相と面会、その後に「中国はよくやっている」と称賛の言葉を口にした。記事には、習主席とのにこやかなツーショット画像が飾られている。

 WHOのトップがわざわざ北京入りするのであれば、実務を行っている事務方トップと、今後の対策を綿密に打ち合わすのが普通だ。だが、テドロス事務局長は「新型コロナウイルスの封じ込め失敗に、習主席はまったく関わっていない」というお墨付きを与えた。

 新型コロナウイルスを封じ込めたいのであれば、まず非常事態宣言を出して中国当局にはできうる最大の封じ込め策をとるように指示し、近隣各国にも最大の防止策と協力を仰ぐべきだ。だが、WHOが非常事態宣言を出したのは1月30日で、すでに世界中に新型コロナウイルスが広がったあとだった。

 本来なら、1月22~23日の緊急会合で宣言すべきだったが、中国代表者や中国の「同盟国」からの反対で頓挫したと伝えられている。また、中国が武漢封鎖を実施したのが、まさに23日である。封鎖があまりに杜撰だったことで多くの武漢市民が脱出し、ウイルスの拡大につながった。

 中国政府が非常事態宣言を避け、あとでWHOに「中国政府はよくやっている」というお墨付きをもらうために、付け焼き刃的に実施した封鎖では、実効性など望むべくもない。実際、1月30日の非常事態宣言を出した会見の際に、テドロス事務局長が「中国政府は感染拡大阻止に並外れた措置を取った」と賛辞を繰り返し、世界中から顰蹙を買っている。

国連関連アカウントが台湾支援者をブロック

 国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)の公式ツイッターが、「台湾を支援せよ」という内容をツイートしてきたアカウントを相次いでブロックしたことが、台湾人や支援者を激怒させている。

 アメリカのシンクタンク「プロジェクト2049研究所」の香港台湾中国問題担当ジェシカ・ドルン氏が1月22日にツイッターでICAOの対応を批判したところ、ICAOの公式アカウントからブロックされた。それを受けてドルン氏は、次のようにツイートした。

「ねえ、みなさん聞いて。私はICAOという国連専門機関にブロックされてしまった。たぶん、国際的に疫病が危機的との観点から台湾(ICAOには非加盟だけれど)を含めるべきだとツイートしたせい」

 ドルン氏は、ICAOやWHOが台湾当局との情報共有を拒んでいることについて、以前から懸念を示している。たとえば、ICAOが台湾の航空会社に対して、自分たちが蓄積したコロナウイルスに関する情報を出さなければ、飛行機の運航で不適切な処置がとれず、ウイルスが蔓延してしまえば、せっかく努力が水泡に帰するかもしれないと述べている。

 国連非加盟の台湾がICAOに加盟していないのは確かだが、コロナウイルスの封じ込めには、中国と関係が深く交流が多い台湾にも協力を仰ぐのは当たり前のことである。台湾が国連には加入しないのは、加盟の意志がないからではなく、中国の反対によって“加盟できない”からである。

 現時点ですでに台湾にはすでに感染者が出ているのだから、人道上や実効面など、いくつもの意味で、台湾を排除するのはばかげた話なのである。

“台湾いじめ”を展開するWHO

 ドルン氏だけではなく、ICAOの台湾排除を批判した複数のアカウントを、ICAOの公式アカウントはブロックしたと伝えられている。ニュースサイト「大紀元」によれば、ICAO代表は、中国政府傘下の民間航空局の元高官である柳芳氏だという。中国政府の意向を酌んでいることが疑われる。

 実際、アメリカ上院のマルコ・ルビオ議員(共和党)が、次のようにツイートしている。

「あきれたことに、ICAOが台湾についてツイートしたアカウントをブロックしており、そこにはアメリカ議会の職員もいるそうだ。ここからも、中国共産党が国際機関に圧力をかけ、脅して自分たちの要求を受け入れさせていることがわかる」

 カナダのジャスティン・トルドー首相も台湾支持を表明しており、日本の安倍晋三首相も「一部の地域を排除することは好ましくない」と参議院予算委員会で発言している。

 台湾政府は、湖北省武漢市から台湾人を帰国させるチャーター機を派遣したいと申し出ているが、中国当局はいまだに回答してない。命にかかわるだけでなく、全世界でパンデミックを防がなければならない非常事態で、返事すらしないというのは幼稚ですらある。中国政府は、この非常事態下で、いつまで体面にこだわるつもりなのだろうか。

 ここでの問題は、封鎖された武漢に残る台湾人が、適切な扱いを受けているかどうかである。鉄道はおろか道路も封鎖され、物流についても不安がある状態で、台湾人が十分な援助を受けているかどうかの情報すら発表されておらず、台湾側は、独自に持つルートからなんとか情報を得ているという。これでは、単なる「台湾いじめ」ではないのか。

 2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るったときも、WHOは台湾を見捨てた。台湾の「サンプルウイルスを送ってほしい」という要求を拒み、台湾は患者を診断しようにも情報がなかったので、医療現場は混乱を極め、凄惨な状態に陥った。患者は重体に陥っても病院をたらい回しにされ、反対に閉鎖に追い込まれる病院もあった。

 また、いったんSARSに感染していると診断されると、知識不足から感染を恐れて会社を解雇されたり、いわれのない差別を受けることもあったという。WHOが台湾入りしたのは、死者が出てからという冷淡さだった。

 中国はSARSの失敗を繰り返そうとしている。中国がリーダーシップをとっている限り、疫病に対する国際協力体制は機能することはない。まさに今回の新型コロナウイルスの急速な拡大は、そのことを証明している。
(文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家)

白川司/評論家、翻訳家

白川司/評論家、翻訳家

世界情勢からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。著書に『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック刊)、翻訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)、近著に『そもそもアイドルって何だろう?』(現代書館)。「月刊WiLL」(ワック)で「Non Fake News」を連載中。

Twitter:@lingualandjp

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