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高杉康成「コンセプト・シナジーな経営戦略」

たった120mlしか入らない「ポケトル」大ヒット、その“指摘されない意外な要因”

文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士
たった120mlしか入らない「ポケトル」大ヒット、その“指摘されない意外な要因”の画像1
POKETLE HP」より

 昨年、「ポケトル」が大ヒットしました。これは京都の中小企業が開発し、2018年11月に発売した120mlの小容量のマグボトルです。たった120mⅼしか入らないのですが、発売から累計100万本を超える大ヒット商品になりました。

 ヒット要因はいろいろと分析されていますが、筆者が分析する要因は、ずばり「ゲリラ豪雨と猛暑」です。なぜこれらが「ポケトル」のヒットにつながったのか。今回は社会環境の変化から生まれる新たなニーズという視点から見ていきましょう。

ポケトルのヒットは小容量という要因だけなのか

 ポケトルのヒット要因はさまざまなメディアで分析されていますが、代表的なのは小容量(1回飲み切りでちょうどいい)という点です。メインターゲットが女性で、500mlのペットボトルだと余ってしまうとのことで、1回飲み切りでちょうどいい分量がヒットの要因とのことです。また、高齢者などにも売れており、その要因は、薬を飲むのにちょうどよい分量とのことです。

 このような飲み切り、食べきり要因でヒットした事例は、コンビニで売っている少量のチョコレート、お持ち帰りのお土産などでも見ることができます。

 しかしながら、この要因には、1つ腑に落ちない点があります。それは「なぜ500mlのペットボトルではダメなのか」という点です。

 ポケトルの用途としては、カバンに入れて持ち運ぶことが想定されています。そうであれば、500mlのペットボトルを持って歩いても構わないことになります。ペットボトルだと蓋ができるため、飲み切りである必要性はより低くなります。量が足りなくことを考えると、むしろ500mlのペットボトルのほうが便利な場合もあります。そう考えると、単なる小容量だけがヒット要因ではないという見方もできます。

500mlのペットボトルではなぜダメなのか

 そこで、他の要因を探してみましょう。まず小容量とくれば軽量ニーズに対応したことが想像できます。120mⅼしか入らないわけですから、当然、その重量は軽くなります。500mlタイプのペットボトルだと重量が500gぐらいで、ポケトルは重量が120gで中身を入れても240gしかありません。つまり、軽いという付加価値が受けたと考えることができます。

 実際、ビジネスウーマンのカバンの中身を見てみると(重量は概算)、スマホ(200g)、スマホバッテリー(100g)、化粧品(300g)、手帳(400g)、財布(200g)、名刺入れ(100g)、日焼け止めクリーム(50g)、晴雨兼用の折りたたみ傘(250g)とさまざまなアイテムをバックの中に入れており、これだけで1.6kgにもなります。

 このような状況で、ポケトルは500mlのペットボトルに比べて260g軽くなるわけですから、荷物が1つ減ったのと同じ効果を体感することができます。この軽量という価値がポケトルのヒット要因と捉えることもできます。

減った水分はどこへいったのか?

 しかしながら、もう1つ腑に落ちないことがあります。それは、「そもそも120mlで足りるのか」という疑問です。仮に今まで500mlのペットボトルを持ち歩いていたのだとすると、残りの380ml分はどうなったのでしょうか。

 ポケトルを使うようになったことで、380mlもの水分を減らすようになったとは考えにくいです。ということは、さらに別の要因が存在する可能性があるということです。そこで、この足りなくなった分を補完してくれる要因を見ていきます。

 まず、思いつくのがウォーターサーバーです。最近は、オフィスなどにウォーターサーバーが増えてきました。日本宅配水&サーバー協会のデータによると、2007年に67万台だったのが、2018年には395万台にまで増えて、10年ちょっとで6倍にもなっています。

 ということは、割と身近にウォーターサーバーがあり、利用することができ、わざわざ500mlのペットボトルを持ち運ばなくても、残りの380mlが補完されるようになったと考えらえます。

 次に、コーヒーについても見てみましょう。スターバックスコーヒーなどの店舗も大幅に増え、コンビニコーヒーも定番化し、オフィスにまでコーヒーサーバーが普及してきました。全日本コーヒー協会のデータによると、日本のコーヒー需要は、2018年は2007年に比べて1.1倍、2000年に比べても1.2倍に伸びているとのことです。ここにも足りなくなった分を手軽に補完できる代替方法が存在します。

 このように見てみると、ポケトルのヒットは、単に飲み切りの小容量で使い勝手がいいだけではなく、たくさんの荷物を持つなかでの軽量化のニーズ、そして、ウォーターサーバーのような代替方法の登場といった複合的な要因が重なって、大ヒットしたと考えることができるのです。

ゲリラ豪雨と猛暑は持ち物を増やした

 こういった社会環境の変化は、世の中の当たり前を変えてしまいます。その当たり前の変化から新しいニーズが生まれてきます。ポケトルの事例では、ゲリラ豪雨、猛暑日の増加などにより、晴雨兼用の折りたたみ傘、日焼け止めクリームを持ち歩く人が増えてきました。これだけでも250gぐらい持ち物が重くなっています。

 つまり、天候という社会環境が変化した結果、持ち物がだんだん重くなってきていたのです。そういった状況のなかで、ウォーターサーバーなどの水分補給の代替方法の普及という社会環境の変化が重なり、120mlしか入らないマグボトルの市場が新たに生まれたのです。

高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

経営学修士、中小企業診断士、岡山県立大学地域創造戦略センター客員教授
神戸大学大学院 経営学研究科 博士後期課程中退(経営学修士、MBA)。日本屈指の高収益企業、キーエンスの新商品・新規事業企画担当を歴任。退職後、新規事業や新製品開発、ビジネスの付加価値向上などの分野において、大企業から、中小企業まで幅広い業種・企業の指導に携わる。一般消費者向けの小売店、ネット販売企業などにおいても、ビジネスモデルの転換、収益力向上、新製品開発などで数多くの実績がある。
最近では、次世代自動車(CASE)、次世代通信、ロボット、AI、IoT、VR・AR、農業クラウドサービスなど、さまざまな最先端・成長業界における新規参入の支援を、上場企業をはじめ全国の企業に行っている。こういった企業への指導実績から、テクノロジーについても非常に詳しく、最先端分野の知見を有している。専門分野は、ブルーオーシャン戦略、事業戦略、技術経営(MOT)、Webマーケティング。
コンセプトエナジー株式会社

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