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成馬零一「ドラマ探訪記」

NHK『伝説のお母さん』子育てママを苦しめる理不尽社会を辛辣に風刺…心をえぐる圧倒の描写

文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家
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伝説のお母さん | NHK よるドラ」より

 NHKのよるドラ枠(土曜夜11時30分~)で新しく始まった『伝説のお母さん』は、人気ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズ(スクエア・エニックス)を模したようなRPG(ロールプレイングゲーム)的な世界を舞台にしたファンタジードラマだ。だが、よくあるファンタジーだと思って見始めると、心をえぐるような描写の連続に圧倒されてしまう。

 主人公は、10年前に魔王を封印し世界を救った伝説のパーティーの1人だった史上最強の魔法使い・メイ(前田敦子)。今は結婚してワンオペで家事育児と戦う日々だが、そこに国王に仕える士官・カトウ(井之脇海)が訪れ、魔王が復活したので勇者たちと再び伝説のパーティーを組んで、魔王討伐に乗り出してほしいと頼まれる。

 メイは保育所が満員で子どもを預けることができないから無理だと断るが、突然夫が会社をクビになったために子どもを夫に預けて冒険に赴くことに……。

 海外ドラマではHBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』やネットフリックスの『ウィッチャー』など、壮大なスケールで描かれるファンタジードラマは定番化しているが、日本では和風ファンタジーの『精霊の守り人』(NHK)があったくらいで、アニメやゲームに比べると実写ドラマではほとんどつくられていない。

 唯一の例外は、ドラクエの世界観を下敷きに、あえてチープなビジュアルで脱力コメディに仕上げた福田雄一監督、山田孝之主演の『勇者ヨシヒコ』(テレビ東京系)シリーズ。ファミコン時代のドット絵のビジュアルを多用したコント仕立ての作風という意味で、『伝説のお母さん』はNHK版『勇者ヨシヒコ』とでもいえるアプローチなのだが、作品から受け取る印象は大きく違う。

 原作は、かねもとがツイッターに投稿した同名漫画。かねもとはRPGをプレイしていて、ふと「子どもをもったお母さんが主人公の作品ってあまりないよな」と気付いたことから、本作のアイデアを思いついたという。

「子育てを後回しにした人類の負け」

 メイは冒険に出るために保育所を探そうとするが、城下町は保活の激戦区で、入所待ちは100人で2年2カ月くらい待つと言われる。「魔王の世界征服、終わっちゃいます」と言うメイに対し、子育て担当課の職員が「子育てを後回しにした人類の負けですね。おとなしく滅びましょう」と言うのだが、2016年に話題となった「保育園落ちた、日本死ね」を彷彿とさせる名台詞である。

 より辛辣に描かれるのが、夫のモブ(玉置玲央)を筆頭とする男たちの子育てに対する無理解だ。突然、会社をクビになったモブは、イクメンとして家事と育児を担当すると言うが、いざ始めると、離乳食はつくらず、おむつも替えずにほったらかし、子どもが泣いているのを無視してゲームに没頭している始末だ。

 しかも、赤ん坊の前に吸ったタバコを置きっぱなしにしており、それを赤ん坊が口に入れようとしているのを見ても、なんとも思わない。そんな姿を見ていると、さすがにコイツは夫としても人としてもダメ過ぎるだろうと思ってしまうのだが、あまりカリカチュアに見えないのは、今の日本ならこういう男もいるかもしれないと思ってしまうからだろうか。

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